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本書では、中国現地法人を持つ日本親会社が中国現地法人の財務会計業務をチェックし、一定水準以上の財務情報の生成を支援する際に必要となりそうな具体的なチェックリストが多数掲載されている。チェックリストの項目は、資金管理から始まり、販売・購買管理、労務管理、決算財務、IT全般管理と広範囲に渡っている。中国における財務会計について経験豊富な筆者だから書ける財務リスクの視点が多数記載されており、実務を行う者に多数の示唆を与えてくれそうだ。中国で財務会計実務を担当する経理スタッフ、会計監査人などの職業会計人にはお薦めの書籍だ。
P4
中国における会社の社長は「総経理」という名称で呼ばれる。この名称から、「中国企業では経理業務が重視されており、経理部門のトップが社長になる。」や「中国企業のトップは経理業務に関する資質がなければならない。」といった誤解が生じる。
中国語の辞書を引くと「経理」とは「経営管理する。支配人、経営者、社長」と記載されており、ここに会計や財務という意味はない。役職名としてわかりやすく日本語に訳すと「マネージャー」という意味が適切と思われる。
購買部門のマネージャーは「購買経理(中文:采购经理)」であり、営業部門のマネージャーは「販売経理(中文:销售经理)という肩書となる。これらマネージャーを統括する者が「総経理」であり、日本語に訳すと「社長」となる。
一方、中国語で会計·財務·税務を司る部門は「財務部」と呼ばれる。日本語で「財務部」というと現金預金の収受と払出、振替、借入金管理、有価証券投資といった資金管理部門をイメージするが、中国語では会計処理と財務諸表作成に係る役割も「財務部」は担う。そのため、日本語でいう「経理部」と中国語でいう「財務部」はイコールと考えてよい。なお、財務(会計)部門のマネージャーは「財務経理(中文:财务经理
理)」である。
P67
【チェックの趣旨】
仕入れを含む費用(人件費除く)の計上に際しては、仕入先が発行した発票を入手する必要があることは、上述のとおりである。しかしながら、原材料等を検収入庫したにもかかわらず、仕入先が翌月に発票と請求書を送付してくる、又は仕入先が発票の発行を失念したまま数カ月経過することもある。このような場合発票が入手されていないことを理由に仕入れ/買掛金の計上を行わなければ、会計上の仕入額、原材料費(売上原価)や買掛金が実態を示さない。
対策として、会計上は発票の入手時期にかかわらず、一旦検収入庫数量に契約(発注)単価を乗じて仕入れ/買掛金の仕訳を起票する。この場合、中国では発票が未入手であるという意味で「概算計上」「見積り計上」(中文:暫估)の仕入れ/買掛金という。
【よくある問題点】
発生主義会計の観点からは、発票の入手·未入手にかかわらず、原材料等の検収入庫事実に基づいて仕入れ/買掛金を計上すべきである。しかしながら、中国税法が損金算入の要件としている発票の入手時点をもって仕入れ/ 買掛金の計上を行っている事例がある。このような場合、会計上の仕入額、原材料費(売上原価)や買掛金が実態を示さない。
【改善事例】
上述の2-8「検収·入庫事実と���計記録の整合性」でも述べたように、検収入庫データに基づいて仕入れ/買掛金の計上を行う。その際、各仕入取引について発票を入手したかどうかの消込み確認を行う。これについては次項2-15「概算計上仕入れの発票入手消込み状況」を参照されたい。
また、近年の中国内税務実務上、検収入庫データに基づき仕入れ/買掛金計上を行い、発票が未入手であっても、その後に発票が入手されているのであれば、税務申告書上の加算調整を行わない実務となってきている。この点、中国税務局や税務調査官においても会計上の発生主義会計が理解されている傾向にあると思われる。
P201
4 退職給付引当金の計上
中国における退職給付引当金の計上要否については見解が分かれる。中国において退職給付引当金にかかる明確な会計規定はなく、実務上も退職給付引当金を計上している事例はほとんどない。
まず背景として、中国では自己都合退職に際して退職金が支給されることがほとんどない。退職給与規程を設定している事例もほとんどない。日本の退職給付会計に関する実務指針360では、「退職給付に係る期末自己都合要支給額を退職給付債務とする方法」が簡便法として認められている。自己都合退職に際して退職金が支給されないのであれば、日本の会計基準に基づいても退職給付引当金額はゼロになる。
次に会社都合で解雇する場合、中国の労働契約法第47条に基づき経済保証金を支給する必要がある。経済保証金の計算方法は、従業員の勤務年数に月額給与を乗じるという簡易な計算となっている。中国現地法人が大規模なリストラを計画している等により重要な金額の経済保証金が見込まれる場合は、当該計算方法に基づく退職給付引当金を計上すべきことになると考える。
日本人出向者の退職給付債務については、中国現地法人勤務期間中も発生することから、本来は退職給付引当金の計上対象になると思われる。しかしながら、中国現地法人において日本人出向者の退職給付費用を明確に負担及び計上している事例は少なく、日本親会社の退職給付費用に含めて計算しているようである。