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ばらのまち福山ミステリー文学新人賞の準優秀作品。準優秀でも刊行されたのだから、秀でる物があったのだろう。読んでそれは納得できた。
文楽・人形浄瑠璃の世界を題材にした本格ミステリで、殺人事件は物語半ばで起こり、それまでは文楽の歴史や興行場面が蘊蓄を含めてたっぷりと描かれている。それが作品に厚みを加えていて、最近流行の次々事件が起こりストーリーが二転三転する慌ただしいミステリとは大きく異なっている。これには貫禄すら感じた。
ただ、密室トリックや謎解きが私には今一つピンと来なかった。探偵役が大人しいので、何となく言いくるめられてしまった感じがしたなあ。
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文楽という全く馴染みのない世界を背景に、失踪した青年と44年前に起きた孤島での殺人事件とが絡んだ謎が次々に浮き彫りにされる。
閉鎖的な世界、謎の手記、失踪した青年、隠遁する人形師、そして孤島での44年振りの巡業で起きる数多の事件、と色々ガジェットは揃っているのだが、陰惨な感じは全くない。
どこか金田一の世界を思わせる設定はあるものの(時代設定はかなり違う)、こちらの方がずっと話がスッキリとしている。
それだけに一連の本格物のように血なまぐさいクローズトサークル物を想像すると大幅に外すし、文楽に対する作者の書き込みが鬱陶しく思われるかもしれない。
全く知らない作者だが、端正な文章に丁寧なキャラづくりが好印象だし、ややアクロバティックなところはあるものの提示された謎はしっかり回収されているので楽しめた。
次回作を期待。
(作者名からしても歴史好きであろうから、今作のように背景に日本の風土記を絡めた作品になるかな?)
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綺麗な物語で、さっぱりとした読後感。終始穏やかに展開する静のミステリ。
探偵役は物静かで知的なイメージ、しかしその内部に情熱的な部分も持っていることが伺えるのが好印象だった。他の多くの主要キャラクターたちも人情味があり、記号化されていない暖かな言動をするのが良い。有栖川有栖作品の登場人物のようなどこか優しい魅力のあるキャラは読んでいて安心できるものだった。
文楽の世界を舞台にしたミステリだが文楽をあまり知らずとも自然に理解しながら読める。読み終える頃には舞台が立体的に脳裏に浮かぶだろう。文楽はハードルが高いけれどちょっと観てみたくなる。大学時代は伝統芸能について勉強をしていて、映像も観たことがあるのだけれど、知識としてはほとんど知らないに近い。こういった伝統文化、伝統芸能の歴史を改めて勉強する機会があれば、意外とのめり込むかもしれないなと思う。文楽の話が凄く面白かった。
ミステリとしても冒頭から投げかけられた謎が一つの章をまるまる使って一気に明かされる様子が気持ちいい。探偵役がいわゆる変人だったり破天荒だったりしないので、丁寧に絡まった糸が解されるように謎が解かれていく。全編を通して謎を解くことで人を救おうとする主人公たちの姿は、思わず応援したくなる。
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第9回島田荘司選ばらまち福山ミステリー文学新人賞準優秀作。「わたしは母に毒を飲まされた」という不可解なノート、そして生首と崩れた顔……。すべてあの日の三味線から始まっていた。新鋭による和テイスト満載の本格推理。
あまり詳しくはない文楽の舞台を堪能。興味が湧く湧く。
手記の異常さ、悲惨な殺人と掴みバッチリ。
密室が解かれた時の実の結び方が新しい感覚。感動が押し寄せる。
事件が動き出した時に特に思ったのだが、登場人物の動かし方が巧い。
次回作にも期待しています!!
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「わたしは母に毒を飲まされた」という不可解なノートから始まり、一気に引き込まれた。文楽を土台にしていることもあって少々取っつきにくいが、目新しい世界を堪能した。いわゆる密室物と期待して読むとがっかりしてしまうかもしれない。
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島田荘司さんによる福山ミステリー文学新人賞の準優秀作品。文楽という慣れない世界を舞台にしているせいか、最後までうまく入り込めずに読了してしまった。
ただ冒頭の舞台設定は秀逸で、そこでぐいっと気持ちをつかまれた。序盤で語られる「生き人形」は実在するもので、ネット検索して驚いた。
個人的には謎の部分にもう少しアクロバティック感がほしい気がする。登場人物やら小物やら地形やら、いろいろ提示しつつ、それらが最後まで何の関係もないのはやや肩透かし。
島田さんを意識しているのか、御手洗シリーズへのオマージュがあるのはニヤリとさせられた。取ってつけた感はあるものの、ミステリで社会問題に切り込むのも島田作品の系譜かも知れない。
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文楽の世界を舞台にしたミステリー…と書いて良いのか?
母親が父親を殺し、その生首が宙に浮かび母親と共に消えていく。そして子供である自分は母親に毒を盛られ顔を崩された…という、創作とも手記とも分からないノートが文楽の資料の中から見付かる。
その後、ノートに書かれた作者のように顔の半分が爛れた若手人形遣いが失踪。
四十四年振りに文楽が上演されることになった小さな島では顔を隠した巡礼が現れ、準備のために一足先に島に入った文楽のスタッフが転落死する。
四十四年前の文楽公演では凄惨な殺人事件が起きていたのに何故かそのことはひた隠しにされていた。
その公演では舞台直前の怪我で演奏出来なくなった三味線方に代わり、何者かが演奏していた。
等々、次々不気味で奇妙なエピソードが出てくる。
現在起きている人形遣い失踪事件と転落死事件が四十四年前の事件と関わっているだろうことは期待させられるのだが、そこにどんな繋がりがあり、過去の事件にどんな真相があるのかワクワクさせられる。
雰囲気や設定としては横溝正史先生や島田荘司さんっぽいのだが、個人的には探偵役にあまり魅力を感じなくて彼の勿体ぶる物言いにいちいち苛々させられた。
顔を隠した人物や行方知れずの人物が次々出てくるので、彼らの繋がりや誰と誰が同一人物なのかとかを考えながら読んだのだが、半分くらいしか分からなかった。
あと真相についても納得出来た部分と頷けない部分があって、もちろん当事者でないと分からない部分はあるにしてもモヤモヤが残った。
とは言え、現実的とは思えない冒頭の手記や様々な奇怪な現象に一つ一つ解が付いていくところは面白かった。
ただタイトルにもなっている肝心の『密室』についてはすかされっぱなしでガッカリした。『密室』好きとしてはもっと真正面から書いてほしかった。
せっかく文楽の世界を舞台にしているのだから、この世界ならではの感覚というか、常識であったりしきたりであったり、そうしたものをミステリーにももっと取り入れてくれれば良かったのにと思ってしまった。
三浦しをんさんの『仏果を得ず』のような、三味線方と太夫との一筋縄ではない関係を期待したがそういう路線じゃなかった。赤江漠さんみたいな扇情的で耽美な世界をちょっと期待したけどそっちでもなかった。
生き人形の話は興味深かったし、生き人形がそのまま仏像として拝まれているのも面白い話だったが。
三味線方の弦二郎が主人公かと思ったら、途中から探偵役の海神と宿の息子・一平にシフトされて、文楽の世界から離れちゃったし。ちょっと残念。
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初読み作家さん。図書館本。
お母さんは私に毒を飲ませました。
その毒で、私の顔は崩れました。
お父さんを殺したのも、私のお母さんなのです。
上演を放り出して逃げ出した黒子が書いたと思われるノートをきっかけに、44年前「葦船島」で起こった事件の謎が解き明かされるが…。
文楽を知っていたらもっと楽しめたかな。
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第9回島田荘司選ばらのまち福山ミステリー文学新人賞準優秀作。「わたしは母に毒を飲まされた」という不可解なノート、そして生首と崩れた顔……。すべてあの日の三味線から始まっていた。新鋭による和テイスト満載の本格推理。