投稿元:
レビューを見る
デニス・ルヘインの最新作。
サスペンスかと思いきや、終盤のクライムノベル的な展開に吃驚。兎に角、読者を飽きさせないところが流石。前作のギャングものを読んでいた時は、正直、『もうちょっと初期作品みたいなものが読みたいな〜』という気分もなくはなかったのだが、本書はとても面白かった。
投稿元:
レビューを見る
マフィアものとはちょっと違うルヘインの新作。珍しく女性視点で、サスペンスたっぷりに読ませる読ませる。中盤からは、どこへ行き着くのか先の見えない展開で、ページを繰る手ももどかしく、一気に読んだ。
ストーリーが面白いのはもちろんだけど、ヒロインの心理描写が実に巧み。人を信じたり、愛したりするとは一体どういうことなのか、考えさせられる。レイチェルが愛する男は、普通に考えたらとんでもない詐欺師なんだけど、一方で激しく憎みながら、それでもなぜか、心ひかれて信じたくなる、そういう気持ちが、ほんとにまあうまく描かれていると思った。
ただし!このラストは…。え!ここで終わり?そんな!と声が出てしまった。
投稿元:
レビューを見る
ルヘイン初の女性の一視点での物語。序盤はわりと静かなというか主人公レイチェルや周りの人物紹介という感じ。そのなかにもルヘインらしさはしっかりと感じられるけれど3分の1を過ぎたあたりから大きく変わる。どんどん人の心を掘り下げていき、サスペンス色が増して先が読めない展開になる。人を信じること、愛すること、そのなかで生じる疑念、裏切り。そのへんの積み重ね方がうまい。難しい展開はなく1人の女性がどう生きてきて様々な困難をどう生き抜いてきたのかを存分に堪能できる。ミステリー、サスペンス小説としての面白さと、それ以上に1人の女性の人生そのものが面白い。
投稿元:
レビューを見る
ヒトは、生まれてすぐに一人で立ったり、ものを食べたりすることができない。誰かの世話を受けることが予め定められている。それだけではない。その誰かが問題だ。ヒトは可塑的な存在で、オオカミの中で育つと、オオカミのようにしか生きられない。つまり、ヒトとして生きるには、ヒトの中で育ち、ヒトとして生きられるような教育を受ける必要がある。そういう意味で、誰に育てられ、どんな社会の中で育つかは、その人の人格や自我を形成するうえで非常に重要な意味を持つ。
「自分」というのは、それほどまでにあやふやな基盤の上に出来上がったものなのであって、自信をもって「自分」は、といえるようなそんな大丈夫なものではない。物心ついたころには「自分」というものができ、それを「自分」と感じるようになるが、意識できる「自分」というのは、その一部に過ぎず、無意識という底の知れない闇の中に、どんな自分が潜んでいるのやら、それは誰にも窺い知ることはできない。
レイチェルはベストセラー作家の母親の手一つで育てられた。エリザベス・チャイルズは魅力的で、才能豊かな女性だったが、他人を自分の中に入れることができない人だった。それでは孤立していたかといえばその逆で、人を思うように操り、思うようにならない時は、あらゆる手を使って追い落としをはかる、そんな人物だった。ただ、我が子のレイチェルは愛していた。母の眼から見た娘は純粋でおおらかすぎた。娘を守るためなら離婚さえ辞さない、そんな女だった。
レイチェルはそういう人に育てられた。母が父のフル・ネームを教えてくれなかったので、母の死後、レイチェルはジェイムズという名前を頼りに父を探しはじめる。私立探偵を雇ったが、よくある名前で特定するのは無理だと諭される。ブライアンという探偵は、後にレイチェルの夫になる。そして、レイチェル三十五歳の五月のある晩、ブライアンはボート上でレイチェルに銃で撃たれ、海中に沈む。話はそこから始まる。
三章仕立ての第一章は、父親捜しをするレイチェルの姿が描かれる。記者となったレイチェルは、自分をとりあげた産婦人科医から父の名前を聞き出す。父の名はジェレミー。ジェイムズは姓だったのだ、しかし、血はつながっていなかった。母は、自分の子だと認めない父を追い出し、狂気ともいえる手段を講じて娘に連絡を取ることを禁じた。事実を知ったレイチェルは、義理の父と親交を深めるが父は病いで倒れてしまう。
テレビのレポーターになったレイチェルは、ハイチ地震を取材するため、首都ポルトープランスを訪れ、その惨状に衝撃を受ける。人々は住まいを奪われ、無政府状態となった首都では女性は危険な状態に置かれていた。レイチェルは幼い少女を暴漢から守り切れず、自責の念に駆られ、パニック障害を引き起こす。レポーター業も廃業し、引きこもりとなってしまう。そんな時、偶然出会ったのがブライアンだった。
どんな時もポジティブで、人に優しいブライアンの助けで、少しずつ人前に出られるようになったレイチェルはブライアンと結婚し、幸せに暮らしていた。パニック障害が起きそうになるのは、木材業を営むブライアン��外国に出張している間だけだった。その日も、ブライアンはロンドンに向かっているはずだった。たまたま外出していたレイチェルはあるビルから出てくるブライアンを目撃してしまう。
電話をすると、ブライアンは飛行機の中だという。バッテリー切れで電話は途中で切れた。次にかかってきた電話に、自撮り写真を送るようにいうと、ホテルの外にいる写真が送られてきた。しかし、一度疑念が生じると、それまでの信頼は失われてしまう。自分は夫のことを何も知らないことに気づく。次の出張の日、レイチェルは夫の車を尾行する。案の定、車は空港へ向かう道をそれ、一軒の家に向かう。そこにはお腹の大きいきれいな女性がいて、花束を持った夫がそのお腹に手を当てているではないか。
男が二人の妻をもち、二重生活を営む話は、アメリカで実際にあった有名な事件だ。レイチェルは夫のビジネス・パートナーであるケイレブを呼び出し、銃で脅して夫の居場所に連れて行けと迫る。それまでのレイチェルとはまったく打って変わった人格が表に出てくる。カメラの前でパニック障害を起こして解雇されて以来、外に出るのが怖くて、地下鉄にも乗れなかったレイチェルが、自分で車を運転し、高速道路で追い越しをかけてきた相手と競うことまでやってのける。
それまでの自分をかなぐり捨てて、やっと本来のレイチェルが外に出てきたのだ。完璧な理論を振りかざし、娘を自分の手中に収めていた母親の愛情という名の檻に閉じ込められていたレイチェルはいわば「鏡のなか」にいた。そこから出るのが不安で、孤独で仕方がない。それでパニック障害を引き起こす。そこから救い出してくれたのがブライアンだった。その愛する夫が自分を騙していた。誰にも頼れない。とことん追い詰められたとき、人は本当の自分しか頼るものがないのだ。
第三章は、ブライアンの正体が暴かれ、レイチェルもまた事件の渦中に放り込まれる。家に帰ったレイチェルのもとに刑事がやってくる。ブライアンが話していた妊婦が殺され、その容疑がブライアンにかかっているという。ブライアンの居所を聞かれ、水底にいるとも言えず、刑事に偽証するレイチェル。ブライアンは危ない橋を渡っていたらしい。刑事が帰った後、騙し取られた金を取り返しに殺し屋がやってくる。殺し屋と警察から逃げるレイチェルの逃亡劇が始まる。
第三章はそれまでとは全く異なる、ハラハラドキドキのクライム・ノヴェル。鏡の中から出てきたレイチェルは、母親譲りの頭脳を働かせ、ブライアンの残した手がかりを追跡し、隠れ家を襲う。そこで出会った真実とは? エピグラフに「仮面をつけ、われは進む―ルネ・デカルト」とある。すべては最初から仕組まれていた。見事な伏線がしかれ、それが次々と回収されてゆくその手際の鮮やかさ。レイチェルとブライアンの人物造形が非常に魅力的で、上出来のスリラーであり、ノワール調のラブロマンスでもある、という贅沢な一篇。
投稿元:
レビューを見る
冒頭いきなりヒロインのレイチェルは、夫を殺害する。以降は、時間を遡って、彼女の人生を描写する。厳しかった母親。父は自分が3歳の時に家を出た。母親が死んだ後、父親が誰なのか探すことにした・・・彼女は新聞記者からテレビ業界に転身し、ボストンのテレビ局にいた。ハイチで大地震があり、取材を命じられた。うまくできれば、ニューヨークの局へ昇進させてくれるという。そこで目にしたものが彼女の人生を狂わせてゆく・・・
面白かったのかそうでもないのか判断に困る。最初から三分の一を経過すると、ガラッと変わった展開になっていくのだけれど、その辺は面白い。
最初の男性との結婚はうまくいかず、別の男性と一緒になる(これがタイトルを表しているのだと想像する)ここからがとても長く、結末直前までは読み疲れてしまった。
しかし、ラスト近辺で謎が解けると、また急に面白くなっていった。
アメリカ版「嫌われ松子の一生」じゃないかと思って読んでいたけれど、ラストまで行くと、冒険小説だという方が近いような気がした。
投稿元:
レビューを見る
【双極を行きつ戻りつ】生い立ちをめぐる出来事からパニック障害に悩まされるレイチェルは、一片の隙もない優しさを誇るブライアンと出会う。紆余曲折を経て次第に距離を近づける2人であったが、ブライアンには人には言えない秘密があり......。著者は、『ミスティック・リバー』等でも知られるデニス・ルヘイン。訳者は、数々の海外ミステリー作品の翻訳を手がける加賀山卓朗。原題は、『Since We Fell』。
中盤以降にいきなりミステリーのアクセルが入るのですが、そこから読者を一気に連れ去ってしまう怒涛の展開が凄まじい。それでもなお、読者が置いてけぼりにならないのは、前半部分で丹念かつ丁寧に登場人物の描写をしているからだと読後に気づかされました。
〜わたしたちは自分の人生を所有しているのではない。借りているだけだ。〜
映像化の話もあるようで☆5つ
投稿元:
レビューを見る
久々に読んだルヘイン。
3章とも違う雰囲気で、どう集約していくのかと思いながら。そして重厚。
『ミスティック・リバー』を思い出したりしたが、ご本人は『シャッター・アイランド』と”双子のような関係”と言っているそうな。
投稿元:
レビューを見る
満たされず、心に傷を負った一人の女性の物語。
父親を探す旅、ハイチの無法地帯、真実を求めもがけばもがくほど失望にまみれていくレイチェル。
ブライアントの再会を機に自分を徐々に取り戻して行くレイチェルだが、ある日、いるはずのない場所でブライアンを見かけてから、またしても真実の追求に翻弄される人生の幕が上がる。
そこからはサスペンスであり、ギャング小説であり、友情物語であり、真実の恋愛物語であるという、色とりどりの要素溢れる展開に。
ときに現れるどんでん返しは物語の展開としては緩急をつけるものとなっているが、ブライアンの仕組んだレイチェルを目覚めさせるための筋書きというのは、いささか手の込みすぎ感がある行為に対して無理のある説明ではと思ってしまった。
ルヘインにしては珍しい女性視点のドラマに終始するのかと思いきや最後はばりばりの追走劇ミステリになり、個人的にはまさしく悪い方の意味で裏切られた。
おもしろくないわけではなかったが、最高におもしろい作品でもなかった。
投稿元:
レビューを見る
ある五月の火曜日、三十五歳のレイチェルは夫を撃ち殺した。そんなプロローグで始まったら、もはや心は鷲掴み、ひたすら物語を追うしかなくなります。ジャーナリストの彼女がどれほど悲惨な経験をし、自分の過去を追い、更に未来を見据えるのか。物語は前半と後半で全く雰囲気を変えます。サスペンスではありますがこれは愛の物語。そう、あなたを愛してから。彼女に寄り添った私は満身創痍?いや、歯を食いしばって前を見たい。恋愛ものがあまり得意ではない私でも、凄い疾走感で一気に読まされ、ラストの余韻に圧倒されました。
投稿元:
レビューを見る
パトリックとアンジーのシリーズの作者だったので。
恋愛小説は読まない。
よほどのことがない限り、読まない。
なので、途中まで恋愛小説の色が濃くて、少し後悔していた。
直前に読んだ同じ著書の本も面白くなかったし。
冒頭で殺害シーンを書けばミステリ―ってことじゃないんだよとぼやきながら、
母と死別し、父だと思った男性とも別れ、
テレビリポーターと活躍したが、パニック障害になり離婚し、
でも、レイチェルは本当の愛を見つけ…という話だと思っていた。
だが、後半、いや最後3分の1ぐらいから、
怒涛の展開で、ミステリーになって面白かった。
レイチェルは裏切られ、危険な目に遭うが悲惨な結末ではない。
上手く言えないが、
自分のようなミステリー派も楽しめるし、
普段ミステリーは読まない、小説派にも楽しめる1冊だった。