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何を言っているか、完全にはわからないのに、読んでいるとドキドキする。著者の切実な「発見」「願い」が、短歌という形のリズムの中で誤摩化され、いくぶん軽くなる。それがほどよく心地いい。
以下すきな短歌
*
いつもわたしがわたしの外にいてさびしい豆腐のみずも細く逃がして
この世からどこへも行けぬひとといる水族館の床を踏みしめ
背景にやがてなりたしこの街をあなたと長く長く歩いて
*
いずれも「どこへもいけない」「こうはなれない」という諦めを多分に含んでいる。豆腐のみず・水族館の床といったモチーフの頼りなさと、語り口の冷静さがいいバランスを生み出している気がする。
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角川短歌賞を受賞した俊英の第一歌集。一冊まるごと相聞歌という若い女性ならではの内容だが、歌はどれも静かで深い。そして言葉の使い方が自由だ。「冬の駅ひとりになれば耳の奥に硝子の駒を置く場所がある」「カーテンに遮光の重さ くちづけを終えてくずれた雲を見ている」「てのひらの重ねるための平たさの夜は兵士のように立つ樹々」「レシートに冬の日付は記されて左から陽の射していた道」「外国の硬貨のレリーフのような横顔ばかりのあなたと思う」「これは君を帰すための灯 靴紐をかがんで結ぶ背中を照らす」「みずうみの絵葉書を出す片隅にえんぴつで水鳥を浮かべて」「平泳ぎするとき胸にひらく火の、それはあなたに届かせぬ火の」
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一年とおもう日の暮れ樹の匂う名前の駅で待ち合わせれば (硝子の駒)
塗り絵のように暮れてゆく冬 君でないひとの喉仏がうつくしい (遠近)
あとがきのように寂しいひつじ雲見上げて君のそばにいる夏 (晩夏抄)
時間の経過の見せ方とか、比喩のやさしくて切ない感じというか、物悲しさがステキだと思いました。
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第58回現代歌人協会賞
第20回日本歌人クラブ新人賞
第39回現代歌人集会賞 受賞。
大森静佳さんが、大学生として京都で過ごした四年間の歌を収めた第一歌集。
この歌集はとても美しい言葉で紡がれていると思うのですが、何を詠んでいるのかが、今一つわからず2年近く買ったまま積んでいました。
よく読んでみると「これはわかる」と思う歌が結構あることに気づきました。
歌集の一番最後の
○言葉にわたしが追いつくまでを沈黙の白い月に手かざして待てり
今の私の心境に近いです。
意味がわかったと思う歌を以下に載せます。
もっとわかったと思えるまで繰り返し読んでみたい歌集です。
つい最近塚本邦雄賞を受賞された『ヘクタール』も読んでみたいです。
○外国の硬貨のレリーフのような横顔ばかりのあなたと思う
○背景にやがてなりたしこの街をあなたと長く長く歩いて
○途切れない小雨のような喫茶店会おうとしなければ会えないのだと
○約束はことごとく雨降りできみに母なきことを思えり
○晩年のあなたの冬に巻くようにあなたの首にマフラーを巻く
○われの生まれる前のひかりが雪に差す七つの冬が君にはありき
○雨脚が細くなりゆくつたなさにふたりはひとりよりもしずかだ
○これでいい 港に白い舟くずれ誰かがわたしになる秋の朝
○雲のことあなたのことも空のこと 振り切ることのいつでも寒い
○奪うには近くて 耳に細い雨 奪われるには遠すぎたこと
○もっともっともっと 空間をくすぐりながらはなびら落ちる
○後ずさりできぬ鳥たち 二人称をずたずたにする夕焼けだった
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イベントで大森さんがいらしてたので、ちゃっかりサインを頂きました!
NHK短歌での解説がとてもチャーミングなのですが、実際にお会いすると小柄で物腰柔らかで、ますますファンになりました。
てのひら、いつも毎日見ていて使っているはずのに気に留めていなかった自分に気づかされる
ふとした日常に沸き起こる感情の変化だったりドキッとさせられるような男女の機微を題材にしていて、こんな風に歌に詠めたらいいなあと付箋はりはり
厳選した好きな5首
自転車のかごに駐輪場の券いつまでも放っておく日々なのに
忘れずにいることだけを過去と呼ぶコットンに瓶の口を押しあて
手花火を終えてバケツの重さかなもうこんなにも時間が重い
いつもわたしがわたしの外にいてさびしい豆腐のみずも細く逃がして
生きている間しか逢えないなどと傘でもひらくように言わないでほしい
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著者が京都で過ごした
大学四年間。
その間に詠んだ作品が
収められてます。
私は『カミーユ』より
こちらの方が好みです。
『浴槽を磨いて今日がおとといやきのうのなかへ沈みゆくころ』
『あとがきのように寂しいひつじ雲見上げてきみのそばにいる夏』
『立ち尽くす一生の他はなき樹々よその一本に似ているきみは』