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最初のうちは文章だけでグリオールの様子を想像するのが難しく、挫折しかけた・・・けど、とりあえず森が生えた小山の形のものを思い浮かべながら(アバウトすぎる)読み進んだ。
巨竜の周りで生きる人々のドラマに焦点があってからはぐいぐいと引っ張られ、一気読み。竜の口の中で何年も過ごすキャサリンの話「鱗狩人の美しき娘」、弁護士コロレイの話「始祖の石」が面白かった。始祖の石はミステリーみたいで、組み立てられた筋のある話になっており、読み易いというのもあるかも。
グリオールは人々の精神に本当に働きかけているのか?というのは最後まで証明のしようもなく、あるかないか分からない怖さはいわく言いがたい。
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『竜のグリオール』シリーズ前半4作の邦訳文庫化。これは残り3作も出る……と思っていいのだろうか?
余りファンタジーっぽくはないのだが、とにかく、グリオールが異様な存在感を放っている。収録作の中では『始祖の石』が良かった。
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ファンタジー作品を読みなれない私が本書を買ったのは、やはり迫力あるカバーイラストの影響はあるでしょうか。
収録された4つの作品の中では『鱗狩人の美しき娘』『始祖の石』辺りが好きです。もちろん全部楽しく読みました。
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数千年前に魔法使いとの戦いに敗れ、身体機能を失って横たわり続ける全長1マイルの巨大な竜・グリオール。動かない彼の体の上には森が生い茂り、横腹を滝が流れ、彼の鱗を削りだして生業とする人々の村が形成され、その体内にはフィーリーと呼ばれる異形の民が住み着いている。もはや動かない巨大な塊と化しているにもかかわらず、その邪悪な意思だけは今でも強力なパワーを発し続けており、周囲に住む人々を否応なく不幸へと導いていく・・・
という世界観を前提として、グリオールの思念に振り回される市井の人々の姿を描き出す4編の連作集。全長千数百メートルの動かぬ竜がどかんと聳えている地、という設定がもぅたいへんに魅力的で、わくわくする冒険が繰り広げられるのでは・・・と思いきや、グリオールは本当に世界観にとけ込んだ「背景」の一つに過ぎず、物語の主役はあくまでも彼の周りで右往左往する愚かな人間の描写です。
この描写の分厚いこと!情景描写も、性格描写も、胸焼けするぐらい繊細かつ執拗にねっとりとした筆運びで描き出されており、なかなか読み進められないヽ( ´ー`)ノストーリーは4編それぞれテイストが異なりますが、基本的なテーマはほぼ一緒で、グリオールの邪悪な思念に搦め捕られた登場人物が不幸な結末を迎える、というまったく救いのない話ばかり。主要キャラは悪意に満ちて周囲を敵視し未来に何の希望も持っていない、ひたすら暗いヤツばかりです。読んでいるとかなり気が滅入ります(^_^;
そんなわけで、読後感はかなりぐったり疲れる感じなんですけど、いやこの想像力は凄いですわ。そんな世界観を味わい尽くすためにも、敢えて読む方もねっとり・じっくり・ゆっくりと構えて読むことをおススメ。読了するのにかなり気合いのいる作品ですが、この唯一無二の世界は一度味わっておいて損はないと思います。文庫のレベルを超えた美麗な装丁にも注目です!
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ルーシャス・シェパードの書いた、巨大な竜であるグリオールを中心に動く世界に生きる人間たちの物語を、全7作品中4作品集めた短編集。
後半になるほど面白くなっていく、スルメ作品だなっていうのが素直な感想。故に後半2作は本当に面白かったし、文章の書かれ方も大分変っていたように思う。冒険譚のようなものではないけど、ファンタジーの世界で生きる、巨大な竜に突き動かされる世界で生きる、人間味があったり、とてつもない存在だったり、闇が深かったり、キャラクターたちが繰り出すそれぞれの物語はとても魅力的だった。
自分自身もグリオールに、この本を読むことを強制されているのかもしれない。
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全長2キロにも及ぶ封印されし巨大竜グリオールは、千年もの時を経て丘や町と化していたが、いまだに人々の精神に影響を与え支配し操縦していた…そんな舞台設定がまず魅力的。以下の4短篇集。
「竜のグリオールに絵を描いた男」4…綺麗に着地する酒場の小咄。
「鱗狩人の美しき娘」5…竜の内部に囚われた美人の役目とは?長篇並みの密度と満足感。
「始祖の石」4…法廷モノ。
「嘘つきの館」4…グリオールの子供を産む竜女と脳筋男。
ジャンルを縦横無尽に駆け回る自由闊達な飛翔力から『ハイペリオン』を思い出した。
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グリオールが主題というか、全面に出てくる話(第1章・第2章・第4章)は、グリオールの影響や存在感がなかなかイメージしづらく、興味深くはあるがそこまで物語に入り込めなかった。
第3章は、グリオールという存在を物語の背景のひとつとした上で繰り広げられる人間の心理の話。法廷劇を通して語っているので、前の2章よりもグッと入り込んで読むことができた。キャラクターの心情の動きを感じ取りやすく、面白かった。
個人を超えた何かに操られているのではないか、という感覚の物語化。運命のような。
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表紙とタイトルで珍しく海外ファンタジーに手を出してみたけど、翻訳モノってセンスのズレが言語のせいなのか訳者のせいなのか解らなくてなんとも…
稀代の魔法使いと相討ちになり、生命を維持する以外の活動を停止している巨大な竜。殆ど大地と一体化しているその身体の周辺には街が出来…と云う設定勝ちなところはある。
或いはこの物語そのものがグリオールによって書かされている可能性だって見えてくる。解説にあるように、暗喩としては社会体制であるとかを踏まえて書かれているんだろうけれど、そういった状況が果たして良くないものばかりを生み出すと決まっているかと云われるとなんとも云えないわけで。
しかし現代ファンタジー、ってジャンルとしてあるのかしら?
いやでも現代ファンタジーって云うともっとそれらしいのは沢山あるような…異世界云々ってあれも現代ファンタジーなわけ? 要するに現行の世の中の仕組みをファンタジーに持ち込んで面白可笑しくする…ってなるとそれはもうアンチファンタジーなんじゃないかって気がするけど。
この間から、えすえふとはなんぞや、ファンタジーとはなんぞや、みたいな枠組みの話ばかり。
嗚呼、我がグリオールは何処。なんてね。
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本の出版が最近なので、新しい作家かと思ったらデビューは1984年だった。日本で紹介された頃が、ちょうど私がSFをあまり読んでいなかった頃なので、初めて読んだ。竜が存在した世界。竜退治の魔法使いの力が及ばず、グリオールを殺すことが出来ず麻痺させるにとどめた世界。横たわったグリオールの上に植物が生え、危険な生物が棲みつき、それでもグリオールは数千年の間、意識を持って生き続けてきた。その邪悪な意思は、付近に住む人たちの心に影響を与える。この世界での4つの物語が収められている。表題作の絵を描くという発想もすごいけれど「鱗狩人の美しい娘」に出てくる竜の内部の描写が素晴らしい。神秘的で幻想的。蠱惑的。そして私たちの自由意志ってなんだろうって、ちょっと不安になる物語。
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感想はこちらに書きました。
https://www.yoiyoru.org/entry/2019/10/04/000000
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特徴的なファンタジー作品を読むたびに、人間の想像力の面白さを感じるのですが、この『竜のグリオールに絵を描いた男』もそれを感じました。表題作もそうなのですが、「始祖の石」という短編の発想は特にすごい。竜と魔法の世界で、法廷ものの話が展開されるなんて思ってもみなかった(笑)
そして、この作品集に共通する空気感も、またすごいのです。
魔法の力によって数千年もの間、その場を動けなくなった竜のグリオール。やがて竜の身体は草木に覆われ、その身体には村ができるまでになります。しかしグリオールは死んだわけでなく、そのあまりにも巨大な力は、たとえ動けなくても、人々の思考に影響を与えることができるそうで……
そんな世界を舞台にした連作短編が4編収録されたのが、この小説。
表題作の「竜のグリオールに絵を描いた男」は、もはや殺すことは絶望的とされたグリオールに対して、ある男が提案したグリオールを殺す方法とその行く末を描きます。その方法というのはグリオールに絵を描き、その絵に使われる絵の具の毒で少しずつグリオールを弱らせるというもので……
元々タイトルからして気になっていた作品でしたが、この計画自体もまさに奇想天外で面白い! さらにグリオールの身体に住む人々の文化や、奇妙な生物たちと想像力をかき立てます。そして、なんとも言いがたい後味の残る結末……
「鱗狩人の美しい娘」はグリオールの外ではなく体内の話へ。これは表題作以上に想像力がかき立てられます。なんとグリオールの体内にもコミュニティや独自の文明があり、そして外以上に奇妙な生物たちがいるのです。そしてグリオールの心臓であったり血脈であったりと、体内の異形でありながら、どこか幻想的で美しく、そしてときに厳しい世界にも、ただただ圧倒されます。
「始祖の石」はグリオールの影響によって殺人を犯したと話す男を担当する弁護士の話。
男とその娘の目的や関係性に徐々に迫っていく、という法廷ミステリ要素もありながら、終盤は証拠を求めての冒険ファンタジー風の展開に。主人公の正義心に恐怖と幻想に巨大な影も見え隠れする、これも特異な短編。
そして「嘘つきの館」
妻を殺し生きる価値を見いだせなくなっていた男は、ある日グリオールの周りを飛ぶ小さな竜を見つけます。好奇心にかられ男がその場所へ向かうと、そこには美しい女性がいて、そして二人の奇妙な共同生活が始まり……。
竜と魔法のファンタジーとなると、ゲームの影響のためか、自分はどうしても冒険ものの明るいイメージを思い浮かべます。しかし、この『竜のグリオールに絵を描いた男』に収録されている短編はいずれも、そんな明るさとは無縁。
初めはその雰囲気に「思ってたのと違うなあ」と戸惑いもあったのですが、徐々にその空気感が自分の中で、はまってきた作品集でもありました。
登場人物たちはもちろんそれぞれが、意思を持って行動します。しかし彼らには常にある疑念が絶えません「自分の行動は、グリオールによって決められているのではないか」と。
語り手たちの疑念、そしてふとした瞬間に感じる、個人ではどうしようもない圧倒的な力の圧力。それが物語に一種の緊張感や閉塞感を生み、どことなくダークで虚無的な雰囲気が物語全体を支配します。この雰囲気がなぜかどんどんはまっていくのです。ただ読み手は選ぶかも……
見えない巨大な力に操られる、そして操られていることを自覚しながらも先に進むしかない人々の悲哀を、この小説は暗に描いているのかもしれない、と感想を書いている途中に思いました。だから、この雰囲気が嫌いだと感じないのかなあ。
そう考えると各短編の登場人物たちのそれぞれの行く末も、なんだか納得がいく気がします。それは場面や意味合いは違えど、それぞれの世界や圧倒的な力からの解放を、示しているように思えるのです。
現代も、政治や経済、環境問題に災害やウイルスと、個人では太刀打ちできず、そして時に急に個人に牙をむく巨大な力はたくさんあるような気がします。
そんな世界と自分とを、グリオールと登場人物たちに重ね合わせシンパシーを感じる部分があるから、自分はこのグリオールの世界が好きなのかもしれません。
考えれば考えるほどに、様々な解釈が湧いてきそうな不思議な作品ばかりです。
圧倒的なまでの想像力と、その想像を描いてしまう描写力、そしてありがちなファンタジーとは一線を画したダークな雰囲気。そのため、読む側も結構想像力が必要ですし、このダークで虚無的な雰囲気も好き嫌いはありそうです。
それでも好きな人は、滅多にない物語体験が出来るのではないかとも思います。少なくとも自分は今までにない読み心地の作品ばかりで、とても満足度の高い小説でした。
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凡作。読める文章ではあるが、面白くない。
タイトルからすごくワクワクしたのに、期待外れだ!
と星1をつけないだけマシだと思っていただきたい。
純文学という装いで提示されたら、別の評価をする。
『エンタメ』として提示されたら、精々が凡作。と言うよりほかはない。
具体的に評価できないポイントは『キャラクター』と『筋立て』の2点。
・キャラクターの描写が、ワークショップで習った技法なりに頑張ってるんであろうけど、血肉の通った人として読み取れない。外見以外の表現が、常に第三者視点であり、キャラがでてこない。
・キャラクターの内面の変化や人格が、訳文で読む限りにおいて、『作者が神の/現代人的な視点から描写した言葉』であって、『そのキャラならこういう言葉遣いでこう述べるだろう気持ち』で表現されていない。
・筋立てがもう……純文学すぎて、わあもう。
第1話:このタイトルで、どうやればここまで、「下らない人間の野心やいざこざを、だらっと描いてて、なんか政治の都合で工事中断したら竜も(原因不明のまま)死んじゃう。」という内容で終わらせ切れるのか。謎である。
第2話:神秘の竜の探索が全然、驚きも感動もなく描かれてて、平凡な人生の延長線上にある、やっぱり平凡で全く打ち解けない『何か』のように、退屈に描写できるのもある種才能を感じる。
しかもギミックとして登場する『蔓草』が、デウス・エクス・マキナすぎて面白くない。
第3話:法廷ドラマも、うん……、法廷ドラマですが……別にグリオール要らなくない?
あらゆる人のあらゆる行動が『竜グリオール』の影響下にあろうがなかろうが、「いずれ考えるのを止めて動かねばならない」のだとしたら、この話に背景画として描かれた竜は惰性で登場しているに過ぎない。
なお、ミステリ的な意味で評価すると、あらゆる部分に無理がありまくりで、話が破たんしないかどうかが、はらはらする。
第4話:変身したい男の苦しい言い訳が、「グリオールに影響されていた」なら、彼を吊るしたい人々の「グリオールを吊るすわけにはいかないから、お前は代理ね!」も通るという。不条理な社会の軋轢を最前線で人間に仮託した話と言えば言えるだろうが、これファンタジーで銘打ってやるべき話だっけ感がぬぐえない。
なので、エンタメ作品としては凡作。
文体はねちっこいというか細かくて重厚だが、キャラがイマイチ生きてる感じしない。評者的には好きになれないタイプなので、
「背景美術が荘厳な劇場で演じる大根」
という評価。
純文学的なテーマを追求するにも、キャラクターが生きてないわ世界に入り込みづらいわ、なので星3つとした。
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連作短篇集。動かぬ巨竜グリオールの上に暮らす人々が、数奇な運命に翻弄される。表紙に惹かれ、のどかな異世界ファンタジーを期待して読み始めたら、どんどん雲行きが怪しくなり……。巨竜の異様に不気味な存在感と、妙に生々しい人間側の傲慢さや身勝手さをたっぷり突きつけられる。性的・法的な禁忌も絡み合い、一つのジャンルに収まりにくいダークファンタジーで、かなり読む人を選びそうです。
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ファンタジー。中・短編集。
『ジャガー・ハンター』を読んだ時の印象と同じく、文学的。
文学的な内面描写とファンタジーとの相性が良いかは疑問だが、特徴的な作風であることは確か。
冒険小説的な要素の多い「鱗狩人の美しき娘」と、サスペンス調の「始祖の石」が好き。他2作も十分満足の出来。
この作品に限らず、竹書房文庫の本は装丁がとても良い。
美しいイラスト。肌触りも好み。
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【感想】
竜という生物は多くの物語において、強大な力を持つ「魔物」として君臨し、人間と対峙してきた。しかし、本書に出てくる竜の「グリオール」はもはや生き物のレベルではない。「神」だ。
グリオールは魔術による一騎打ちで何千年も前に身動きを止められた竜である。高さは750フィート(230メートル)、全長は6000フィート(1.8キロメートル)もあり、彼の体の上には森林といくつもの村ができている。グリオールの身体が作る生態系は複雑怪奇であり、都市をまるごと破壊できるほどたくさんの寄生生物が生息している。グリオールは封印されたものの実際には死んでおらず、心臓はまだ脈を打ち、絶え間なく霊気を出し続けている。その霊気は人間の精神を感応させ、周辺の住民を洗脳・支配し、きわめて微妙で目立たない影響をおよぼすことも、きわめて入り組んだ出来事をあやつることもできる。まさに「神」に近い不滅の存在、それがグリオールという竜なのだ。
グリオールはもはや自然そのものであるため、魔法や武器で倒すことは不可能である。そこで、グリオールの身体に絵を描きながら、絵の具に含まれている毒で4,50年ほどかけてジワジワと殺していく、という壮大なプロジェクトが動き出した。これが本書の第一篇「竜のグリオールに絵を描いた男」のあらすじだ。
ただ、本書の読みどころはそうした「人間vsグリオール」の戦いにあるのではなく、むしろ、人間自身の営みにある。全長2キロにおよぶ竜は、その身に複雑な生態系が出来上がるほど自然と一体化してしまっている。そのため、竜の鱗や体表をはぎ取って暮らす人々や、グリオール周辺の自然に根差した集落、絵描きプロジェクトのために作られた村など、全てがグリオールを中心に息づいている。そうした「竜と暮らす人々の日常」の細かい描写には目を見張るものがあり、竜というフィクションの上に人間達のリアルな生活が巧みに投影されている。
そしてもう一つの読みどころは、グリオールに精神感応された人間達の描写である。本書において、グリオールの支配から逃れられる者などおらず、誰もが彼の作る幻影を見る。グリオールの絶対的な存在の前では、人間の意志、倫理、道徳といったものは簡単に消え去るため、人々は怯え、無力感を覚える。逆に、その強大な力を利用したカルト宗教や原始共同体が出来る。
本書の核となるのはグリオールだが、根底に通ずるのは「人間の矮小さ」だ。それは現代小説であれば太陽や自然、神などの巨大な存在に対して抱く感情であり、フィクションでありながらどこか近しさを覚える部分もある。だが、本作品はそのモチーフを「竜」に求めることで、より神秘的で幻想的な世界を描き出すことに成功しているといえるだろう。
壮大でありどこか儚げな世界観。それがグリオールの存在する物語だ。
――グリオールの意味やシリーズ全体、個々の物語の内容について議論するのは別の場に譲ろう。ただ、自由と支配、意志と強制、環境と人間、社会と個人、行為と責任という、我々の存在の根源に関わる問題を、生々しいイマージュとして提示し、ここまで切実に身近に感じさせる小説は滅多にあるものでは���い。グリオールという存在を設定することでそれが可能になっていることは言うまでもない。ファンタジィとは本来このように作用する。そしてシェパードの作品のどれにも通底する性格でもある。どの小説にあっても、超自然的存在やシチュエーションは、あまりに大きすぎるので直視するのを普段は避けている問題を、あらがいようもなく、突き付けてくる。無理強いするのではない。夢中になって読んでいると、ふとあるとき、目の前に置かれていて、「嘘つきの館」のホタのごとく、そこから眼を離すことができなくなっている。問題から眼を逸らすことをできないようにしてしまうのが、シェパード作品の魔法なのだ。