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この手の話はよく海外との比較で語られ、書き手と読み手の理解や認識に差が出てしまい、緻密に論理を積み上げても伝わらないことが多いように感じるが、これは日本という国の中での比較で面白いと思った。「貧困層」を中心に通俗道徳や生存者バイアスの話が主だが、もう少し明治時代における「普通/中流家庭」と「貧困層」の比較もあるともっと説得力が増すと感じた。
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「人間頑頑張って勉強すれば成功します!」と唱えた人が一万円の人で、その明治の精神を日本政府は次の人まで40年称え続ける事になる(次の人は来年の大河ドラマの主人公だが、「論語ブーム」とかきたら、それはそれでちょっと嫌な感じもするが、たぶん来るんでしょう)。
ただし「通俗道徳」そのものに良し悪しはなく、時代と共に変化するものであり、それに合致しない人はいつの時代でも生きづらい。江戸時代の封建制・身分制が生きづらい人もいれば、それが解体された明治時代が生きづらい人もいれば、非正規雇用の令和時代が生きづらい人もいる。
本書はジュニア新書という事で書き方は平易だが内容的には非常に濃い。中高生でこれを読んでる人はそれなりのレベルだと思うが、一歩進んで本書を疑ってみるスタンスも必要だろう。内容的には嘘は殆どないだろうが、この本が何のためにどういう意図や目的で書かれているのか?逆に見落とされている・除外されている史実はないのか?という事を考えてみるのも大事である。
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「貧しいのは努力が足りないから」「辛いのはお前だけじゃない」「日本にそんな余裕はない」と生活に行き詰まった人を批判するのは現代だけではなかった。明治時代もまた、そうであった。
明治政府はクーデターを起こした士族の政府で、実際カネはなかったのであるが、投票も一定以上の税金を納めた男子のみ、議員も金持ちばかりだから、当然自分の所属している階層が得するような社会を作る。そうするとますます貧しい人は救われない。
現在は、18歳以上なら投票できるし、被選挙権も収入とは関係なくある。しかし、国会を見たら二世三世議員ばっかり。小学校から私立で、お金の苦労なんかしたこともない人が政治のトップにいて、自分の所属する階層が儲かるような社会を作っている。
ということで、明治時代を専門にしている歴史研究者が明治の社会を解説する本ではあるが、現代はじゃあ、どうなの?という問題提起が実はメインテーマである。
まあ、暗澹たる思いがしますね。
勤勉、倹約、努力はそれ自体悪くはない。しかし、そうしたからって、成功や幸福が約束されているわけではない。これを信じ込みすぎると、極端な自己責任論に走りやすい。実際に歴史を見れば、個人の努力とは関係なく、マネーゲームや政治家の判断でインフレやデフレが起こり、突然職を失ったり、資産の価値が無くなったりすることが起きるのは明らか。これを自己責任にすれば、一部政治家、資本家の思うつぼじゃないか、とこれを読んで私も思った。
明治期の生きづらさの理由を解き明かすことによって、現代を生きる私たちの生き方を考えよう、という内容で、明治社会から今に続く「通俗道徳」に縛られる危うさは、知っておいて損はない。就職氷河期の人なんか、真剣に怒っていいと思う。
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明治政府の誕生や廃藩置県といった政策を見ても、ほぼクーデター、大正初期までは暴動が絶えなかった。伝統社会に明治政府という「異物」が覆いかぶさって搾取しているイメージ、現代日本に重なる。しかし現代日本では政府への反乱が中々起きない、何故だろうか。
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近代日本のはじまりに「仕掛けられた」価値観が、現代の我々に深く内面化し「伝統」というラベルで、いかにも古くからある揺るがないもののように錯覚させられている。その結果の「生きづらさ」について、もっと考えたいし歴史から学びたいと思えます
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明治に生きる人
と、我々
生きづらいって人生で、自由かも
罠にハマっているって言われてもそうだと素直に思えないのは
私が今すでに罠にハマっているからなのかもしれない
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明治時代の主に貧困層にフォーカスされている。
貧しいのは努力が足りないという、通俗道徳と言われる価値観は明治から始まっており、現代の生活保護を受ける者に対するバッシングのようね感情は、明治にもあるそうだ。
もう少し広く庶民の生活とかが分かる本なのかなと思っていたら、そうでもなかった。
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「生きづらい明治社会」松沢裕作著、岩波ジュニア新書、2018.09.20
162p ¥864 C0221 (2022.04.07読了)(2022.04.03借入)
NHK大河ドラマ『青天を衝け』の関連で読みました。明治時代の庶民生活の様子がわかるかと思って読んでみたのですが、ちょっと違っていました。
横山源之助『日本の下層社会』を機会があれば読んでみましょうかね。
【目次】
はじめに
第一章 突然景気が悪くなる―松方デフレと負債農民騒擾
第二章 その日暮らしの人びと―都市下層社会
第三章 貧困者への冷たい視線―恤救規則
第四章 小さな政府と努力する人びと―通俗道徳
第五章 競争する人びと―立身出世
第六章 「家」に働かされる―娼妓・女工・農家の女性
第七章 暴れる若い男性たち―日露戦争後の都市民衆騒擾
おわりに―現代と明治のあいだ
あとがき
参考文献
☆関連図書(既読)
「青天を衝け(一)」大森美香作・豊田美加著、NHK出版、2021.01.30
「青天を衝け(二)」大森美香作・豊田美加著、NHK出版、2021.04.30
「青天を衝け(三)」大森美香作・豊田美加著、NHK出版、2021.08.10
「青天を衝け(四)」大森美香作・豊田美加著、NHK出版、2021.11.20
「雄気堂々(上)」城山三郎著、新潮文庫、1976.05.30
「雄気堂々(下)」城山三郎著、新潮文庫、1976.05.30
「論語とソロバン」童門冬二著、祥伝社、2000.02.20
「渋沢栄一『論語と算盤』」守屋淳著、NHK出版、2021.04.01
「論語と算盤」渋沢栄一著、角川ソフィア文庫、2008.10.25
「渋沢栄一 社会企業家の先駆者」島田昌和著、岩波新書、2011.07.20
「明治天皇の生涯(上)」童門冬二著、三笠書房、1991.11.30
「明治天皇の生涯(下)」童門冬二著、三笠書房、1991.11.30
「正妻 慶喜と美賀子(上)」林真理子著、講談社、2013.08.02
「正妻 慶喜と美賀子(下)」林真理子著、講談社、2013.08.02
「維新前夜」鈴木明著、小学館ライブラリー、1992.02.20
「旋風時代 大隈重信と伊藤博文」南條範夫著、講談社、1995.09.20
「伊藤博文 知の政治家」瀧井一博著、中公新書、2010.04.25
「マンガ日本の歴史(43) ざんぎり頭で文明開化」石ノ森章太郎著、中央公論社、1993.05.20
「マンガ日本の歴史(44) 民権か国権か」石ノ森章太郎著、中央公論社、1993.06.20
「ニコライ遭難」吉村昭著、新潮文庫、1996.11.01 明治24年5月
「海の史劇」吉村昭著、新潮文庫、1981.05.25 日本海海戦
「ポーツマスの旗」吉村昭著、新潮文庫、1983.05.25 ポーツマス講和会議
「日本海海戦の真実」野村実著、講談社現代新書、1999.07.20
「坂の上の雲(一)」司馬遼太郎著、文春文庫、1978.01.25
「坂の上の雲(二)」司馬遼太郎著、文春文庫、1978.01.25
「坂の上の雲(三)」司馬遼太郎著、文春文庫、1978.02.25
「坂の上の雲(四)」司馬遼太郎著、文春文庫、1999.01.10
「坂の上の雲(五)」司馬遼太郎著、文春文庫、1999.02.10
「坂の上の雲(六)」司馬遼太郎著、文春文庫、1978.03.25
「坂の上の雲(七)」司馬遼太郎著、文春文庫、1978.04.25
「坂の上の雲(八)」司馬遼太郎著、文春文庫、1978.04.25
「夜明け前 第一部(上)」島崎藤村著、新潮文庫、1954.12.25
「夜明け前 第一部(下)」島崎藤村著、新潮文庫、1954.12.25
「夜明け前 第二部(上)」島崎藤村著、岩波文庫、1969.03.17
「夜明け前 第二部(下)」島崎藤村著、新潮文庫、1955.03.15
(「BOOK」データベースより)amazon
日本が近代化に向けて大きな一歩を踏み出した明治時代は実はとても厳しい社会でした。景気の急激な変動、出世競争、貧困…。さまざまな困難と向き合いながら、人々はこの時代をどう生きたのでしょうか?不安と競争をキーワードに、明治という社会を読み解きます。
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頑張れば成功する。
安丸良夫さんの提唱する明治期の通俗道徳に囚われているのが明治期の生きづらさと説かれている。
貧民窟、売春のような環境、貧民に対する視線の冷たさ、立身出世による頑張れば報われるという考え。
一見、努力=貧困からの脱出のように思われるが、努力した結果、環境からの脱出が出来なかった場合どうなのかという点が問われている。
明治期の生きづらさと現代の生きづらさは共通はする事があるのではというのが要旨。
共通化しているようで、一概にそうとも言えないというのが自分の意見。
明治期と現代の間を省略して論じるのは無理がある。
それぞれの時代に課題があり、環境も違う。
通俗道徳の概念に違いもあり国民の役割も違うものを同列に扱うのは違うはずだ。
貧困対策に予算が回されなかった社会背景も論じないと一方的に明治は生きづらい社会と断定してしまうきらいがある。
一側面ではあるが為政者の思想も併せて理解しないと結論に厚みが出ないと思われる。
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子どもの通っている中学受験進学塾の保護者向け情報誌のオススメ図書に掲載されていたので読んでみた。
日本の競争社会を激化させるのに加担(?)しているかのような最強進学塾のオススメ図書なのに、努力が報われるとは限らないという内容。
逆に安心する。
通俗道徳のワナにまんまとハマっていた就職氷河期世代の小市民な自分がTVや雑誌や日々の生活の中の情報に流されて批判していた特定の誰かではないどこかにいる頑張ってない(ように見えただけ)人に対する不満。その原因が自分の中の不満や不安がどこかの誰かの言葉と重なってできたものだったんだなと思った。
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・明治社会と令和社会は同じ問題を抱えているようにみえる。
・松方デフレ→小作農の増加、格差の拡大
・「通俗道徳」は人々を競争においやった(社会の責任なのに「自己責任」の押しつけ)。これは現在も続いている。
・「家」が女性を酷使した。これも現在でも続いている。
・「家」の借金のために娘に「自分の意思」、「自己責任」で売春させる。これは経済的な強制による人身売買である。これも外国に輸出する感じで現在も続いている。
・日比谷焼き討ち事件等の騒擾。社会に不満をもつ若者がメイン層だった。
・我々も「通俗道徳の罠」にはまってしまってはいないだろうか。よくみる必要がある。
・『成功したものは正しく努力したものであり、失敗したものは努力をしなかったダメ人間である」という信念がいきわたると、このように「ダメ人間にならないためには、どんな手段をつかってでも成功する」という行動をとる人があらわれてきます。一見するとまっとうな、「成功するためには努力しなければならない」という通俗道徳の教えは、「どんな手段をつかっても、他人を蹴落としてでも成功しなければならない」という、過酷な競争社会を生み出してしまうのです』
→ 関東軍の参謀たちが暴走したのもこのことが原因だったと私は推測している。
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明治時代は生き辛かった。国家が強調され、立身出世の競争を煽る社会であった。頑張ることに価値があるという通俗道徳の罠に陥っている。それは昭和の精神論根性論やガンバリズムにつながっている。
日本人は制度作りの経験が乏しいため、社会保障制度のような制度で救う仕組みを作るよりも個人に頑張らせる方向に働く。自由な競争が個人の自由や創意をもたらすのではなく、家父長制的な「家」同士での激しい競争を促し、女性の搾取にもなった。明治時代は江戸時代よりも女性の権利は後退した。
この流れの延長線上に軍部の暴走、十五年戦争への突入がある。戦後は民主主義的な考え方が主流となった。平和で豊かな生活を求めるようになった。人々の心の中には反戦思想が芽生えた。しかし、官僚制は残存し、昭和の精神論根性論やガンバリズムも日本型組織に染みついている。パワハラや出社ハラスメント、対面コミュニケーション至上主義にも見られる。
昭和の精神論根性論には「それで我々は成功してきたんだ、何が悪い」という開き直りもあるから始末に負えない。高度経済成長期やバブル期の「成功」は精神論根性論が上手くいったのではなく、何をやっても売れた時代だから上手くいっただけである。
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アンリミテッド。すばらしく気合の入ったすがすがしい左翼的書きぶりの明治貧困話。こういうのジュニアやアンリミテッドに入ってるのは大事だと思う。
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Kindle Unlimitedで読了。
さらっと読めるが考えさせられる。
ジュニア新書のため読みやすい。
中高生がどんな感想を持つか気になる。
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明治史がメインかのようなタイトルだが、実際はなぞる程度であり、内容の大半は明治期からの「通俗道徳」すなわち自己責任論や努力万能論への批判である。
貧困研究系の一思想を知る本としてはそこまで悪くはないかもしれないが、タイトルからすると肩すかし感が強く期待はずれだった。