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刊行日 2018/09/20
「日本が近代化に向けて大きな一歩を踏み出した明治時代は,実はとても厳しい社会でした.社会が大きく変化する中,人々は必死に働き,頑張りました.厳しい競争のなかで結果を出せず敗れた人々…,そんな人々にとって明治とはどんな社会だったのでしょうか? 不安と競争をキーワードに明治社会を読み解きます.」
「頑張れば必ず成功する。成功しないのは努力が
足りないからだ」という考えを、私たちの周りでも
見聞きしませんか?実はこういう考えは、江戸時代
後半から始まり、明治になって更に広まったと
いうのです。知りませんでした!その日暮らしの貧しい
人たちへの目が厳しかったのは、そういう考えが社会
全体に広まっていたからでした。これは、現代社会
にも共通すると思いませんか?「不安を受け止める
仕組みがない」ことが明治時代と現代の共通点では
ないかと著者は言います。急に明治時代が身近になる
本です。」
(山内図書館Teens おすすめ本紹介より)
はじめに
第一章 突然景気が悪くなる──松方デフレと負債農民騒擾
景気変動/松方デフレ/松方デフレの影響/負債農民騒擾/江戸時代の習慣と明治の制度/須長漣造の怒り/デフレーションという不条理
第二章 その日暮らしの人びと──都市下層社会
ドヤ街とネットカフェ/貧民窟/貧民窟のルポルタージュ/住居と家族/職業と食事/都市下層社会の特徴
第三章 貧困者への冷たい視線──恤救規則
生活保護/恤救規則/恤救規則の制定過程/窮民救助法案の挫折
第四章 小さな政府と努力する人びと──通俗道徳
カネのない明治政府/地租改正と減税/通俗道徳/江戸時代から明治時代へ
第五章 競争する人びと──立身出世
日清戦争/地租の増税と地方利益誘導の政治/貧民救助論争/逃れられない「わな」/立身出世の時代
第六章 「家」に働かされる──娼妓・女工・農家の女性
売買される女性・非正規雇用の女性/公娼制度/芸娼妓解放令/「自由意志」という建て前/「家」とは何か/「家」のために働く女性/女性の抑圧のさまざまな形
第七章 暴れる若い男性たち──日露戦争後の都市民衆騒擾
デモと暴動/日比谷焼き打ち事件/日比谷事件後の都市民衆騒擾/なぜ若い男性は暴動をおこすか/「あえて」もまた「わな」/戦争と平和,暴力と非暴力
おわりに──現代と明治のあいだ
あとがき
参考文献
書評情報
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「社会が大きく変化し、先行き不透明で、不安な現代社会は明治時代とよく似ている」と言われますが、明治時代の社会不安の原因や仕組みや問題点を丁寧に解説してある本書は、私達にとって、とても参考になるものだと思いました。
ぜひぜひ読んでみて下さい。
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Twitterで見かけたこの本、読みやすい良書だった。
不景気、大きな社会構造の変化期による大衆の不安、家に搾取される女性たち、貧困者への冷たさ、競争社会、若い男性たちの暴動など。
切り口もわかりやすく、小学校高学年からでもわかるだろう。
作者の視線は、明治以降の、成功者=特別努力した者、という思想に嵌まる罠について集中して警句を発してくれる。
昨今の考えにもおおいに通じるこの感覚は、確かに怖いものだ。
この罠の背景にある物を見れば、日本社会が、自分は苦労しているのに、のうのうとして怠けている(ように見える)のに生活をみんなのお金から補填してもらうヤツへの冷たさがなにによって起こるのかわかってしまう。
狭い価値観、余裕のない社会、いずれも多様性の裏側に、弱く声のない誰かを追い詰めていく。
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読みやすかった。江戸時代からの変貌は大きいものがあるのは分かっていたけどそれ故に大変だった事も多かったのだと知ることができた。
努力すれば必ず報われる精神が広まったのはこの頃だったのか
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「通俗道徳」(安丸良夫氏)が、本書の中で、明治時代(その延長である現代)の「生きづらさ」を説明する、非常に明快なキーワードの役割をしていて、本書の内容が非常にわかりやすかった。掲載されている参考文献も読んでみたいと思った。
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“貧乏してるやつは努力が足りないからだ”というのは正しいのか。努力すれば誰でも裕福になれるのか。歴史学者である著者が、誰もが陥りがちな「通俗道徳のわな」の理不尽さを、激動の時代だった明治時代と現代とを対比させながら、弱い者への優しい眼差しとともに明らかにしていく。
新自由主義に染まっちゃあ政治家として終わってる。NISAとか国民に投資を勧めるなんて。国は税金を搾取しますけどあなた方にはなにもしませんと言ってるようなものでしょ。確かにそれで儲かる人もいるかもしれないけど、儲かる人がいるということは必ず誰かが損をするんだよ。それにすら気づけなくなるのが「通俗道徳のわな」。今の政府はそれをうまく利用しているなぁとつくづく思う。
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○新書で「学校生活」を読む⑲
松沢裕作『生きづらい明治社会 不安と競争の時代』(岩波ジュニア新書、2022年[第10版])
・分 野:「学校生活」×「歴史を読む」
・目 次:
はじめに
第一章 突然景気が悪くなる――松方デフレと負債農民騒擾
第二章 その日暮らしの人びと――都市下層社会
第三章 貧困者への冷たい視線――恤救規則
第四章 小さな政府と努力する人びと――通俗道徳
第五章 競争する人びと――立身出世
第六章 「家」に働かされる――娼妓・女工・農家の女性
第七章 暴れる若い男性たち――日露戦争後の都市民衆騒擾
おわりに――現代と明治のあいだ
あとがき
・総 評
本書は、明治時代という“大変革”が起きた時代において、社会的弱者の立場に追われた人々に焦点を当てた本です。著者は日本近代史を専門とする研究者で、慶應義塾大学の教授を務める人物です。
現代と明治時代を比べた時、そこに共通する特徴として、従来の社会の仕組みが崩壊して「見通しのはっきりしない」中で、新しい社会の仕組みが造られていく――極めて「不安」な時代であることが挙げられます。だからこそ、明治時代に生きた人々に注目することで、現代の私たちが学べることがあるのではないかと著者は問いかけます。本書を読んで面白いなと思った点を、以下の3点にまとめます。
【POINT①】人びとに信頼されていない明治政府
新時代を率いた明治政府ですが、その実態は、王政復古の大号令と廃藩置県という二つのクーデターによって成立したに過ぎず、全国を支配する権力としては「人びとから信頼されていない政権」でした。そのため、高い税金をとることができず、財政を通じて「豊かな人から貧しい人へ富を再分配するような力」は持っていませんでした。生活困難者を救う義務を政府は負わないという名目のもと、行政によるセーフティーネットは十分に整備されず、人びとが「おたがいの助け合いで解決すべきこと」だという考え方が前提になっていたと著者は指摘しています。
【POINT②】明治時代の「自己責任」論――窮民救助法案をめぐる議論
その後、明治政府は、生活困難者の救済を行政の義務とする「窮民救助法案」を議会に提出しますが、これは衆議院で否決されてしまいます。その背景には「道徳的に正しいおこないをしていればかならず成功する」という「通俗道徳」と呼ばれる考え方が広まっていたことがありました。この考え方によれば、貧困に陥った者は――それが不可避な事情であったとしても――当人の「努力の問題」(=道徳的に正しいおこないをしなかった)とされてしまうため、社会全体が生活困難者に冷たい視線を向けるようになっていったと著者は指摘しています。
【POINT③】社会に見放された若者たちによる反逆
行政による支援もなく、人々による助け合いにも期待できない――そのような状況が続く中、明治末期から大正初期にかけて、東京で何らかの政治集会が開かれると「若い男性の都市下層民」が暴動を起こすようになります。その背景には、主流の価値観から見れば「悪いこと」「危険なこと」に参加することを「かっこいい」とする“カルチャー”があったと言います。ただ、そうした行動は、逆に世間が「通俗道徳」の正しさを確信する結果を招きました。結局、彼らも年を重ねてその「残酷な事実」を理解すると、暴動に参加することもなくなり、その日暮らしを続けていくようになったと著者は指摘しています。
明治時代に広まった「通俗道徳」は、自分が直面している困難を「自分の責任としてかぶってくれる」という点で「支配者にとっては都合のよい思想」でした。現代でも、こうした考えは“自己責任論”という形で根強い影響力を持っています。このように明治社会と現代社会が「息苦しい社会」となった原因は「不安を受け止める仕組みがどこにもないという共通点があるから」というのが著者の回答になります。ここで私たちは、人びとの信頼を得られなかったが故に十分な財源を持たなかった明治政府だけでなく、財政再建を名目に社会保障費の削減を図る現代の政府も思い出すべきかもしれません。そうした「不安」に抗う方法として、著者は「言葉によって、理屈にそって、自分が何におろおろしているのかを、誰かに伝えること」を挙げています。
(1472字)