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透明で澄んでいて密度の濃い空気感の作品だなと思った。そして、美しい。読んでいるとその情景が浮かぶどころか、その中に引っ張り込まれる感じ。自分まで静まっていくようで、とても好きだと思った。韓国の方の作風としては少し意外に感じた。
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作家の母国語で「白い(ヒン)」は、生と死の寂しさをたたえた色であるという。ある年の夏をワルシャワで過ごした作家は、第二次大戦で破壊しつくされた白い石造りの建物の、その「白い」都市の運命と、生まれて2時間で息を引き取った姉の運命を重ね合せる。都市が人々の努力でみごと再生を果たしたように、姉の生もまた自らの生と体の内に蘇らせることができるのだと悟る。そしてすべての、白い(ヒン)ものたちのなかに姉の生を見出そうとする。祈る思いで…。
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大好物ハン・ガンです。 「白いもの」をテーマにした短い作品。彼女の体験を基にしたエッセイでもあるし、ときおり美しい詩のようにもなる。 産まれた二時間後に亡くなってしまい、顔も知らない自身の姉への思慕、「彼女が生きていたらきっと自分はこの世にいないんだ」という思いにもつながる死生観などが、静かに紡がれていく。姉を自分自身の中に憑依させるような感覚で、自分自身を漂白しようとしているようにも思えたり。 この人の文章は個人的に刺さりまくるので、もっと読みたかった。表紙もなんかかっこいいな。
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本の上のところがギザギザしてるのも好き。紙の色が違っていたり、文字の感じも所々違うのも好き。
ここに書いてあることばは死と記憶と、詩とアルバムのようだと思った。
美しい本でした。
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散文詩のようにも短編集のようにも見える形式だが、これは立派な長編小説。エピソードや独白の断片が時系列すら無作為と見える(実は精密な意図によって構成されている)順序で並べられるが、次第に主人公の全体像と心情と歴史が、むしろよほど明確に現われてくる。筆致はあるときは感情的にある時は冷徹に、死人のように綴っていくが、けしてセンチメンタルを煽ることなく、教条的ですらない。近いとしても谷川俊太郎ではなく、小川洋子ではなく、もちろんもっとも遠い相田みつをではない。
さらに今作は間違っても電子書籍などではなく、紙の本で読むべきだ。紙質を数種つかったその装丁は、当初タイトルを引用した「ベタ」作為的なあざとさをわずかながら感じたものだったが、グラデーションにするでもなく、章立てで変えることもなく、エピソードの無作為感そのままに何とも言えぬ表現を突き付けてくる。微妙な色合いとともにその手触りによる五感を使った読書が楽しめた。
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美しい本。これは電子本にはできない。
ザラザラとしたページ、すべすべとしたページ。
ページの色は白。いえ、生成り、白練り。
静謐という言葉が似合う本。
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登場人物のパーソナルな語りであるはずなのに、今ここに存在していない者や事へ思いを巡らせることで遥か彼方まで射程を延ばした物語になっていると感じました。言葉にするのが難しいものについて語っているのに、それが優しく詩情豊かに表現されていて凄い文学だと思います。
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白、白、白、白。
清らかで、どこか恐ろしさも内包し、無限に広がり、どこまでも無、そして美しい。
詩的な文と、写真。
しばし、白に取り込まれる。
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エッセーというより詩のような,あるいは「白いもの」に象徴される生まれてすぐに死んでしまった姉への哀悼歌のような佇まい.紙質を変えた装丁とか所々に挟まれた写真も静謐な印象を与える.素敵な本である.
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この本は電子書籍ではなく紙書籍で手に取るべき。5種類の白い紙で刷られている。韓国文学に馴染みが無かったが、これから馴染んでいきたいと思わせてくれる本だった。韓国人の精神性にもっと寄り添っていれば、この本に漂う詩情をもっと理解できたかもしれない。生まれて死んでいく人にまつわる白さについての断片的な言葉たちに引き込まれた。
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2019年4月27日図書館から借り出し。
やはりハン・ガンという人は小説家である前に詩人であることを再確認させられる素敵な本だった。
冒頭から「白いもの」について書こうとしたことを明らかにしてから書き始める。その「白いもの」は雪であったり、犬であったり、衣装であったりする。ソウルからワルシャワになったりと、おそらくは著者の実体験がそのまま読者のイメージを膨らまさてくれる言葉となって溢れてくる。残念ながら朝鮮(韓国)語ができないので、原書にあたることはできないが、斉藤真理子さんの日本語は柔らかくて、それでいて鋭い。
一番感心したのは用紙を変えて四層に別れた美しい造本と、Douglas Seoktという方の幻想的な写真、それに佐々木暁という方の装丁の丁寧な仕上げが、本としての完成度を高めている。
本好きにはたまらない一冊!
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しんしんと降り積もる雪のように、静かで、穢れのない、無垢な世界が広がっていた。ページをめくる度、その真っ白な世界に、さく、さく、っと音を響かせながら足を踏み出すような感覚がずっと続いていた。切ないでも苦しいでもない無の感情が湧き上がる。
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立体的な詩を読んでるみたい、アートを見ているみたい。
途中で紙の質が変わるなんて粋。紙はすべて白だけど、いろんな白がある。五感で楽しめる作品。
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『82年生まれ、キム・ジヨン』で韓国文学に興味がわいたので、@mountainbookcaseさんが紹介していて気になっていた『すべての、白いものたちの』を手にとってみる。
短編集というかエッセイ集というか全編、美しい詩のような作品。美しいといってもオシャレな美しさではなく、静謐で哀しみを湛えた美しさ。何枚か掲載されている写真(Douglas Seok とクレジットされている)のような、コンクリート打ちっ放しの、ガランとした、殺風景で無機質な冷たいモノトーンの美しさ。
@mountainbookcaseさんが紹介していたのは「タルトック」と「白い石」の一節なのだけど、特別な言葉は使われていないのに妙に心に残っていた。適当にページを開いて読んでみるとどのページも何かしらが心に残る。
一気に読み飛ばしてしまうのが惜しくて、一日に数ページずつ、大切に読みました。
韓国語はまったくわからないので、文章の美しさ、力強さに、斎藤真理子さんの訳がどれだけ貢献しているのか判別できないが、ハン・ガンという作家の作品をもっと読みたいと思う。
5種類の紙が使われていたり、天(ページの上の部分)が切り揃えていなかったり、装丁も静かに凝っている。
表紙の写真はベビー服だと思うが、生ではなく死を象徴しているところに愕然とする。
以下、引用。
これを書く時間の中で、何かを変えることができそうだと思った。傷口に塗る白い軟膏と、そこにかぶせる白いガーゼのようなものが私には必要だったのだと。
ひばりによく似た声の鳥が鳴き、鬱蒼たる樹々が無数の腕と腕をさしかわしている小道に沿って歩いていくうちに、気がついた。つまりこれらのすべては一度、死んだのだと。この樹木、鳥たち、路地も通りも、家並みも電車も、そしてすべての人々が。
霜がおりはじめるころから、陽の光は少し青みを帯びてくる。人々の口から白い息が漏れてくる。木々は葉を落としてしだいに軽くなる。石や建物など固いものたちは、微妙に重くなったように見える。
ひたぶるに雪片は舞い散る。
街灯の明かりがもう届かない、真っ暗な虚空に。
語ることを持たない黒い木の枝の上に。
うつむいて歩く人々の髪に。
生は誰にも対しても特段に好意的ではない。それを知りつつ歩むとき、私に降りかかってくるのはみぞれ。
洗い上げてきっぱりと乾いた白い枕カバーとふとんカバーが、何ごとか話しているように感じることがある。そこに彼女の肌が触れるとき、純綿の白い布は語りかけてくるかのよう。あなたは大切な人であり、あなたは清潔な眠りに守られるべきで、あなたが生きていることは恥ではないと。
いかなる苦痛も味わったことがない人のように、彼女は机の前に座っている。
さっきまで泣いていた人でも、今にもまた泣きだしそうな人でもないみたいに。
打ちのめされたことがない人であるみたいに。
我々は永遠を手に入れることができないという事実だけが慰めだった日など、なかったように。
壊れたことのない人の歩き方を真似てここまで歩いてきた。繕えなかったところにはきれいなカーテンをかけて、隠してきた。訣別と哀惜は省略した。今までもこれからも、壊れたことはないと信じてきた。
私の母国語で白い色を表す言葉に、「ハヤン(まっしろな)」と「ヒン(しろい)」がある。綿あめのようにひたすら清潔な白「ハヤン」とは違い、「ヒン」は、生と死の寂しさをこもごもたたえた色をである。私が書きたかったのは「ヒン」についての本だった。
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作者が生まれる前に女の子が生まれていた。この世に二時間だけの生を受けて亡くなった。この話を作者は母親から聞いて育った。タルトック(月のように丸い餅)のような赤ちゃんだったという。この本はエッセーであるが、詩集でもあるようだ。白(흰)にまつわる、その赤ちゃん、언니(姉)にまつわる詩から始まる。