紙の本
「レニングラード」はドイツ軍が占領していたのか?
2019/06/21 18:26
2人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オタク。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「書物の破壊の世界史」という書名と内容で感じられるのは人間によって色々な理由で書物が失われるという印象だが、実際は本文にもある衣魚や幼虫、菌類などによって食べられるのも大きな一因だ。
ティンダル訳新約聖書について「聖書の通俗化」という訳語はないだろう。ここは「俗語化」でないと。ヒメーネス枢機卿(この本ではシスネロスと表記されている)の「多言語対訳聖書」を「ギリシャ語・ヘブライ語・アラム語からラテン語に翻訳された」とあるが、そういう箇所はあるけれど実際は書名通りで「旧約聖書」はラテン語を中心にしてヘブライ語とギリシャ語の本文を両側に付してトーラーはアラム語も付いている。新約聖書はギリシャ語とラテン語の対訳。おまけに「ラテン語聖書の改訂は」は「一五四六年のトリエント公会議でカトリック教会の公式聖書とされたウルガータ聖書以来のことだ」とあるがヒメーネス枢機卿はトリエント公会議が始まるはるか以前に故人なのは本文に書かれているだろうし、彼にそんな発想はない。トリエント公会議でウルガタのカトリック教会での「公式聖書」が定められるきっかけはエラスムスが彼が訳したラテン語訳を付したギリシャ語新約聖書から始まる主にプロテスタントによる聖書の「俗語訳」と宗教改革だ。
通称「コンプルトゥム多言語対訳聖書」については、おそらくこの本の中で一番ひどい間違いだが、著者によるとドイツ軍は「レニングラード」へ「一九四一年九月二三日」に入城して「ドイツ兵はそれらすべての施設で略奪を行ない、不適切と見做した本は燃やした」と書くが、「レニングラード封鎖」という事実を知らないらしい。「収容所群島」に言及しているから、そこからソルジェニーツィンの擁護者のリージヤ・チュコーフスカヤの作品が封鎖下の「レニングラード」で生き残ったことを書けばいいのに。「ノヴゴロドでも記念像」を「破壊された」というのは、おそらロシア建国千年記念碑の事だろうが、今でも存在している。それなら実際にドイツ軍に略奪されて行方不明になった琥珀の間の方がいいだろう。南京で「四週間で三十万人の中国人が殺害される大惨事に発展した」というのは中国側の発表の受け売りだろうけれど、これが霞んでしまう。
一番問題なのは国民戦線軍の集会でウナムーノが語った発言はミリャン・アストライ将軍が隻眼隻手なのをあげつらって国民戦線を批判したのを隠して、ただ単に国民戦線側を批判しているかのように語っている事にされている箇所。この本は確か、「書物の破壊の歴史」という邦題のはずで、ベネズエラ人の著者がスペイン語で原著を書いているのだから、ウナムーノの発言は読めるはずだ。
投稿元:
レビューを見る
旧世界から現代までの書物の破壊の歴史を書いた図書。書物とその背景の歴史も書かれるのでかなり読みやすく、面白い。面白いけど人類があまりにも書物や図書館を破壊したことがわかり、落胆する。戦争や民族の否定などで書物の破壊が今でも行われているのは意識しておきたい。
投稿元:
レビューを見る
古代シュメール文明から現代の中東の紛争まで、いかに書物は
破壊され、失われてきたか。その原因と時代背景、歴史を辿る。
第1部 旧世界
第2部 東ローマ帝国の時代から一九世紀まで
第3部 二〇世紀と二一世紀初頭
各部に章有り。膨大な原注、参考文献、人名索引有り。
全体で700ページを超える。
圧倒される本の厚さに躊躇しましたが、読み始めたら面白い!
歴史背景と共に図書館の盛衰、書物が滅びに至る過程が、
分かり易く、読み易い。翻訳も上質だと思いました。
歴史、地域の幅広い範囲を扱っているのも良い。
書物の破壊の原因の内、60%が故意、残り40%は自然災害、事故、
天敵(虫やネズミ等)、文化の変化、書写材の劣化だという。
40%の原因についても丁寧に記述されているし、
電子書籍登場による問題についても言及されています。
そして、60%の故意による破壊は2006年まで・・・イラク戦争での
破壊まで辿っています。その壮絶なこと!
粘土板、パピルス、羊皮紙、紙・・・記録や創作、教示等のために
生み出された素材は、便利であると同時に、脆いものでもある。
だからこそ、ヒトによって火に、水に、放り込まれる故意の恐怖。
征服や弾圧の過程、思想や民族(例えその根源が同じであろうとも)
等が要因である、自然災害以上の破壊は、喪失という絶望を伴う。
ヒトの叡知で生まれた書物は、ヒトの手で死に至らしめされる。
そう、破壊も救済も、全ては扱うヒト次第ということ。
ちなみに日本は、応仁の乱・関東大震災・第二次世界大戦での
記述がありました。
投稿元:
レビューを見る
書物の『破壊』に特化した歴史書。
著者が述べているように、確かに図書館や愛書家の歴史をテーマにした本は数多ある。しかし、失われた書物にフォーカスしたものは驚くほど少ない。それが人為的に破壊されたものであれば、尚更だ。
形あるものはいつか失われる。全編に渡って諸行無常を強く感じる1冊だった。
投稿元:
レビューを見る
破壊と紛失を免れない性質上、書物の破壊の歴史はそのまま書の歴史でもある。
力を持ち焼きたがるバカの数は、力無く聡明な者より数も力も圧倒的である。書は焼かれるものとして冗長性を高く保つことが肝要なのだろう。
投稿元:
レビューを見る
【書物の破壊の世界史】
まとまらなかった〜。
当事者に興味がない書物が風化して消えていく一方で、議論を巻き起こしてしまうような書物も、積極的な破壊の対象に。いずれにせよ当事者からすれば価値がないものだけど、価値って時代とともに変わる訳で。
多種多様な史実の裏にある書物の破壊について、その背景と結果がつぶさに語られてる。いろんな歴史があって面白い。
#読書 #歴史 #本 #紀伊國屋書店
投稿元:
レビューを見る
過去に行けるのなら、アレクサンドリアの大図書館に行ってみたい。およそ5,000年前の文字の発明により、人類は頭の中で考えていることを取り出して保存し、より多くの人に伝えることが可能になった。そして、それは書物の破壊の歴史の始まりでもあった。本書は書物破壊の愚行を延々と綴ったものだ。日本の応仁の乱の戦禍にまで触れる徹底振りに驚かされる。本書を読むと、今、ギリシャ時代の古典を読めていることの奇跡と、その一方で失われて読めなくなってしまった書物に思いが行く。
折しも日本のニュースでは、政治家主導で公文書が"遅滞なく速やかに"破棄されているという。愚行は今も繰り返されている。
投稿元:
レビューを見る
「「55世紀もの昔から書物は破壊されつづけているが、その原因のほとんどは知られていない。
本や図書館に関する専門書は数あれど、それらの破壊の歴史を綴った書物は存在しない。何とも不可解な欠如ではないか?」
シュメールの昔から、アレクサンドリア図書館の栄枯盛衰、ナチスによる“ビブリオコースト”、イラク戦争下の略奪行為、電子テロまで。
どの時代にも例外なく書物は破壊され、人類は貴重な遺産、継承されるべき叡智を失ってきた。
ことは戦争や迫害、検閲だけでなく、数多の天災・人災、書写材の劣化、害虫による被害、人間の無関心さにおよぶ。幼少期に地元図書館を洪水によって失った著者が、やがて膨大量の文献や実地調査により、世界各地の書物の破壊の歴史をたどった一冊。」
・「レイ・ブラッドベリ著『華氏451度』は、本禁制品になり焼き付くされる未来のアメリカを描いたSF小説。ブラッドベリは古代エジプトのアレクサンドリア図書館が77万巻のパピルス文書とともに焼失したという話を9歳の頃に聞かされ涙を流したという(『華氏451度』ハヤカワ文庫2014年解説より)。このアレクサンドリア図書館の破壊を含め、古代オリエントで年度に記された文章から、現代の戦争や電子書籍まで、五千年以上にわたって膨大な書物が破壊されてきた歴史をたどったのが、この『書物の破壊の世界史』だ。
ー不可能なのを承知で、古代から現代までに戦争で失われた書物が合計できたら、何億冊、何兆冊になるだろう。そして、それら失われた本のリストが存在するとしたら、一体どれぐらいの長さになるのだろう。」
(『本のリストの本』南陀橉綾繁 他著 創元社 p072 「失われた本のリスト」より紹介)