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クマのプーさんの存在を知ったのは、幼少の頃、ディズニーのアニメ絵本だったかと思う。
それから後に原作があることを知り、ミルン著のプーさんを手に取ってみたのだが、あまり好みではなく、早々に読むのをやめてしまった。
登場人物(動物)との距離の置き方が、望むものではなかったのだ。
食い入るように読んだ、あのプーさんではなく、いかにも第三者的な、他人行儀なものに感じたのである。
『赤い館の秘密』を読み始めたら、そんなとうに忘れていた記憶を思い出してしまった。
その世界にどっぷりはまり込んで、登場人物の心と一体になって読んでいく話ではない。
嗜み深い大人の読むべき本とでも言おうか。
それもそのはず、著者A・A・.ミルンは、英国紳士なのだ。
写真を見れば、絵に描いたような、端正で理知的な容姿がそこにある。
巻頭言に父に贈る言葉があるが、呼びかけはなんと「父上」だ。
学歴はといえば、名門ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジ卒。
知性・理性・品性のトリニティ(三位一体)である。
この、登場人物との距離の置き方は、英国紳士の儀礼を反映したものであろうか、などと思考を巡らせながら、
子供じみた熱狂とともに作品世界に没入するのではなく、
教養と嗜みを備えた大人として、紳士ミルンの筆による探偵小説を、味わい深く愉しんだのである。
そうして、一杯の紅茶とともに作品を読み終えた私の目の前に、次なる一筆が映った。
『赤い館の秘密』に寄せて
著者自身による随筆である。
彼のその自作への思いはいかばかりか、いかに趣のある文章かとページをめくれば、
『どこぞに消えてしまえ!』
『おもしろくもなんともない』
『だからそれがなんなんだ』
『くたばってしまえ!』 (324~325頁)
探偵小説への厚い思い入れ、年期の入った情熱を、一気にぶちまける紳士の姿があった。
おかげで私は大爆笑。A・A・ミルンのことが一瞬にして大好きになった。
(大丈夫、幸い紅茶はこぼさなかった。)
今ならあのクマのプーさんも、読んで好きになれるかもしれない。
そして、ミルンのこの「対象との距離を保った描写」は、まるでカメラのように思えるのだ。
ということは、彼の作品は非常に映画にしやすいのではないか。
20世紀初頭の英国らしい映像で、ぜひ、この『赤い館の秘密』を見てみたい。
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『くまのプーさん』で知られる作家、A・A・ミルンが残した唯一の探偵小説。
『赤毛のレドメイン家』と並んで乱歩が絶賛した通り、本書は古き良き時代のストレートな探偵小説。昨今のトリッキーなミステリに慣れているとどうしても薄味に感じてしまうが、矢張りこういう奇を衒わない謎解きものも良い。
登場人物が探偵小説らしからぬ好人物ばかりだったのも逆に新鮮だった。『探偵=奇矯なキャラクター』というのも、ひょっとすると偏見なのかもしれないなぁ。
因みに著者が残した探偵小説はこの1編のみ。続編も容易に書けそうなラストだっただけに、惜しい……。シリーズ化されていれば、未だに読み継がれていたことは間違いないのに……。
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遂に出ました新訳版! クマのプーさんで有名な英国の劇作家ミルンが書いた長編探偵小説。百年前に書かれた素人探偵二人組のホームズとワトソンっぷりを堪能あれ。
この作品が大好きで、旧訳も何度も読み返してますが、新訳の方もとても読みやすく仕上がっていて良いですね。この話が好きなのは、ワトソンがちゃんと役に立つ。機転が利いて仕事ができて、それでいてホームズ役との揺るぎない友情に溢れていて、そして文章の端々から匂い立つミルンらしいユーモア、作家自身が推理小説好きだから伝わってくる「英国黄金期」の良いミステリの空気感……とどこを読んでてとても心地よいのです。
加納朋子さんの巻末解説がこれまた素晴らしかったです。
旧訳版で入ってた見取り図がなくなったのでちょっと屋敷の構造が分かりにくいかもしれません。それと、はしがき(『赤い館の秘密』によせて)は、旧訳版では文庫頭に入ってました(現在手に入る英語の原書も、イントロダクションとして冒頭に入ってます)が、この新訳では末尾に持っていっちゃいましたね。理想の探偵小説とは、ワトスン役について…と熱く語ってるこのミルンのイントロダクションは、これまたとても好きな文章です。
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初ミルン。クマのプーさんで有名な著者。こんなミステリィも描いていたのね。古典ではありますが、新訳なので読みやすかった(^^ ワトスン役のベヴァリーが有能すぎやしないかw 素人探偵ギリンガムのキャラがユーモアもあって良い。事件の真相にはアッと驚いた!まあまあ楽しめたので、星三つ半・・と言いたいとこですが、あとがきがとっても良かったので星四つにしましょう。
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新訳出てたので読んでみた。やっぱり圧倒的に読みやすい。言葉が時代で変化するためか、英語や英語文化の理解度の向上のためか。
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この作品は、クマのプーさんとは何の関係もなく読まれるべきだと思います(自戒)。
古典なので、後世のミステリをそれなりに読んできてしまうと、さすがに冒頭の数章で、ああ、これはあのトリックかと分かってしまいます。
現代の作家だったら、それを逆手にとって、もう1回転か2回転くらいさせちゃうかもしれません。
そういう意味では、加納朋子氏の解説で「フィギュアスケートや体操」で最初に「くるくると回って」みせたパイオニアに例えているのは正鵠を射ていると思います。
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若い頃、赤川次郎さんの作品が好きで、赤川さんが、好きな推理小説ということで、当時読んだ別の訳のものは、判りづらくて挫折したが、今回の新訳版は、何が素晴らしいのか、はっきり理解できた。
「クマのプーさん」でお馴染みの、ユーモア作家「アラン・アレキサンダー・ミルン」が唯一書いた、この推理小説(1921年の作品)が、日本の江戸川乱歩の、探偵小説黄金時代のベストテンにも選ばれていたのは初耳だったが、シンプルながら見事な伏線と、意外なところからストンと気持ちよくオチるトリックは、素晴らしく思えたし、タイトルもある意味、上手く、私もすっかり惑わされた一人です。
また、この作品の特徴的なところは、ドロドロした感じがなく、すごく爽やかに物語が展開されるところと、弱者に対する優しい視線であり、探偵役のギリンガムと助手のベヴァリーの、楽しささえ感じさせる描写には、嫌味な感じは全く無く、ラストのさりげない思いやりに心動かされたのは、赤川次郎さんの作品に近いものを感じたりもしました。
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A・A・ミルン『赤い館の秘密【新訳版】』シャカミス読書会課題本として読了。
犯人の特定よりも、捜査描写の巧みさに真価がある。
謎自体はシンプルだがそれを紐解くギリンガムとベヴァリーの探偵行為の描写はわくわくさせるし、小冒険的で楽しい。どこか長閑で呑気なところもこの場合魅力であり長所だろう。ギリンガム最初の事件として考えると、捜査の緩さもそう悪くない。
また、ギリンガムが小さな違和感から論理的に謎を突き崩す過程は世界観の柔らかさに反してしっかりとしていてアクセントになっている。
現代から見ると薄味だが、捨て置け無い面白さがあるのは間違いないだろう。
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本書の作者は、言うまでもなく「クマのプーさん」でおなじみのA.A.ミルン。
本書は文庫サイズで330ページほど。
結構文字もぎっちり詰まっていて、ちょっと読み終わるのに時間かかるかなあ…と思ったら、いざ読み始めると軽妙でスイスイ読めてしまう。
そしてシンプルで面白い!
探偵役のギリンガムは、母の遺産のおかげで働く必要がないほどお金に困っておらず職を転々とし、つい最近また仕事をやめたばかり。友人であるベヴァリーが訪れているときいていた赤い館にぷらっと顔を出したら、たまたま殺人事件に出くわした。
そこで思い立つ。探偵業、結構自分に向いてるんじゃね?(意訳)
素人探偵発足!である。
そして探偵にはもちろん、優秀な助手が必要だよね!
私があまりミステリをたくさん読んでないからだとは思うけど、主人公探偵が熟練のそれではなく素人だなんて新鮮ですごく面白い!とわくわくしながら読み進めた。
話の展開も子気味よく、新しい発見があった!と思えばすぐに新たな疑問に直面したり。
そして、自らたちをホームズとワトソンになぞらえながら、共に謎を解いていくギリンガムとベヴァリーのやりとりが見ていて楽しいというか和むというか。
えっ、一応人死んでるミステリなのにこんなに和んだり二人のやりとりを楽しんでいていいのか?ってくらい二人がかわいい。
どちらも大の男で紳士的な側面もあるのに、なんだか少年が探検をしているようなかわいらしさ。
いや、人死んでるのに、こんな感想もなんだけど。
あとがきではミルンの探偵小説かくあるべき!な熱い語りが読めるのでぜひ。
私はてっきりプーさんのあとに本書(探偵小説)を書いたのかと思いきや、逆だったんですね。
この赤い館の秘密で好評を博し、次もぜひ探偵小説を!と所望されていたところにプーさんを書いたと。
その経緯もなんだか面白い。
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ミルンの『赤い館の秘密』くまのプーさんで有名な作家さんですが、今回はミステリーに挑戦しました!
ホームズとワトソンと呼び合う相棒とのやりとりが殺人事件解決へと導きます。
私はアガサクリスティーが好きですが、イギリスの郊外って素敵ですよね。
#ミステリー
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物語の最後、「そうか、では、そこで殺人が起ったら、わたしに知らせてくれたまえ。探偵仕事にも慣れてきたからね」というギリンガムの台詞があり、この先、ギリンガム&ベヴァリーのコンビでシリーズ化される雰囲気満々なのだが、実際にはミルンは、この1作しかミステリを書いてない(残念!)。
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くまのプーさんの作者が書いた探偵小説。ふむふむ。面白そうだ。そんな軽い気持ちで読み進めていたが、これがズバリ、ミステリ黄金期の作品そのもの。こういう度直球を求めていた。そう感じた一冊。
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「くまのプーさん」を書いた人がこんなに本格的なミステリーを書くんだ!という驚きを常に抱きながら楽しめた。