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とてもよい小説だ。恋愛と異生物の侵入が同じ構造をもって並行する。体育教師が「た、助けて!」と叫ぶところは爆笑した。物語の必然性や愚劣さを嘲弄するメタ的観点もあざといけどたのしい。
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街に謎の隕石(?)が落ちてきて何やら大変なことになったのに、主人公はクラスの女の子が気になって仕方がなくて、それでいて自分はその気持ちを否定し、精神的に振舞っているのだと言い張る自称ロジカルな男の子の話。
なお、そういうシニカルな態度をとる主人公はハッピーエンドを迎えることができないのが相場であり(古典的には。最近のノベルはそんなこともなさそうだけど)、この小説でもぱっとしない。完全敗北ではないけれど。
生きるとは魂を灼き尽くすことであり、恋愛において特にこの側面は強いと思う。というか、まぁ暴走しちゃうものだろう。だからこそ、「精神的」であろうと振舞う気持ちは分かるし、客観的に見て暴走気味のライバルに些細なことから冷笑的視線を投げかけたり優越感に浸る気持ちも分からんではない。でも、もたもたしてたら置いてけぼりになっちゃうのも事実だし、ロジカルに考えた結果が正しいなんて保証はこと恋愛には一切ないし、そもそも誰かを意識した時点でもう恋という「迷妄」から自由になろうなんて無理に決まっているわけで。どうせ理解などできないのだから。
そして学生には文化祭とか卒業とか家庭の問題とか(この小説ならエイリアンの来襲とか)が起こるので、この傾向は一層強い。日常なんてものは、非日常を脱落した者にしか訪れてはくれない。
体を炎が包み込もうと、それでも必死で進むべき道を見定めるのが青春であり、その後の人生全てなのだろう。非日常に引きずり込まれた主人公はどうなるのだろうか。
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一気に引き込まれて面白かった…。SFパニックものかと思いきや、中身は中学生男子の青春もやもや恋心が詰まっていて、これ文庫の解説が森見さんってもうそのまんまやないかーい!
ぐるぐる独りよがりの思索に溺れていく感じが森見さんぽいなあってまず思ったので。迷妄、なんて言葉も。
文末の高さ揃えてる演出も効果的でした。高さがゆらぐと感情もゆらぐ。過去のSF作品の例が引用されるのもおもしろい。
んで、これ、結局は主人公は何もできず、無力なままなんだよね。そこがミソなんだろうなあ。こんな状況ではたいていの人は何もできない。けれどライバルである平岩くんは行動し、おそらくは恋の勝者にもなった。
思うことをやめようと思う、という結論を得たときに、主人公はようやくひとつ成長したんだなと。
最後まで侵略者の正体が具体的に解明されることはなく、それがまた現実の有り様を示している気がする。たしかに敵の真の姿なんて、いつだってわからないものだよな。
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青春とは『ひとり相撲』である。
たとえばひとりの黒髪の乙女に恋をしたとしよう。
その恋を成就させるためには乙女との距離を縮め、しかるべき地点で自分の思いを相手に伝えなければならない。恋愛成就の可能性を見きわめるべく、我々の精神は目まぐるしく活動する。乙女からのなんということもないメールを熟読玩味し、その一挙手一投足から膨大な仮説を組み立て、希望的観測と絶望的観測によって揉みくちゃにされる。しかし実地に検証する勇気のないかぎり、意中の乙女の胸の内は推測するしかなく、自分で作りだした幻影との駆け引きが続く。そこに「恋のライバル」が現れようものならもうメチャメチャである。我々は幻影をめぐって幻影と争う。
これをひとり相撲と言わずしてなんと言おう。
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これは久しぶりの言いたいことはラップで言う系だ。いやむしろ念仏かもしれない、と思った。念仏とはこういうことなんだ、とぼくは思った。念仏なんだ、とぼくは心の中で繰り返した。
なんだかちょっとウザいなと言う気持ちと、ぼくは精神的な存在だとかそうじゃないとかどうでも良いなさすが中学生ていうか高校せいかしかし面倒なことを考えても最終的には恋愛とか気になってて普通じゃないかおまえ、というそのループと言うか、モヤモヤとスピード感のコラボレーションというか、恋をした林檎と蜂蜜みたいな絶妙さに心を打たれて結局ラストの読後感まで含めてじんわりと幸せな気分になるのは年のせいか。
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シンドローム(症候群) 凡ゆる雄に共通する期待と願望があからさまに浮かんでいて 予鈴のチャイムが鳴っていた 宗旨替えした? 乙女からのなんということもないメールを熟読玩味し 微に入り細に穿って浮き彫りにしていく 恋心=迷妄に囚われることは「非精神的」であり、愚劣なこととして嫌悪の対象となる。 幻影を巡って幻影と争う この恋の鞘当てに於ける局所的勝利も局所的敗北も、全ては主人公の頭の中だけで起こっている。 一人相撲とは内なる迷妄との戦争である 言葉によって堅固な城壁を築こうとも、非精神的なものは精神的なものの領域を浸し、非日常的なものは日常を侵していく。 押し隠していたものたちが跳躍跋扈し ヒーロー的活躍を見せる平岩君への軽侮はあまりにも無力な自分への怒りの裏返しだが 圧倒的な災厄は容赦なく全てを押し流していく 「青春の光と影」なんていうのは恥ずかしいけれど、ここにはやはり光がある。