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2019年11冊目。
これは本当に多くの人に読んで欲しい。2018年ノーベル平和賞を受賞したコンゴ民主共和国の産婦人科医、デニ・ムクウェゲさんの自伝。
「世界最悪の紛争地」「第二次世界大戦以降540万人以上の人々が理不尽な理由で亡くなっている」...コンゴの状況は、いくつかの情報源からある程度知ってはいた。だけど、実際に現地で生まれ、現地に根付いて活動されている方の言葉から知る現状は、想像をはるかに超えるものだった。ここに言葉として書くのがはばかられるほど、性暴力の嵐の中にいる現地の女性たちの立場は厳しい。厳しいなんていうものじゃない。この世の沙汰とは思えない。
性暴力は、「安上がりで」「効率の良い」「武器」として使われているという。女性を壊し、夫の立場を崩し、家族を崩壊させ、コミュニティに打撃を与える手段として、意図的に使われる。ただでさえ女性の地位が低いコンゴにおいては、被害にあった女性こそが罪悪感を抱かざるを得ず、自らコミュニティを離れなければならないことも少なくないという。何重にも重なる苦痛で、時を越えて苦しむ苦悩。
デニ・ムクウェゲさんは医師として、そんな女性たちを、本人の言葉を借りれば「修理」し続けてきた。この言葉が良いのか最初戸惑ったが、女性たちが受けているひどすぎる傷の描写を思えば、皮肉だが正しく思えてしまう。反政府勢力の暴力の真っ只中で、政府側の無関心や脅しの真っ只中で、部族間の争いまで起こる真っ只中で、次々と被害者が生まれる最前線で、4万人以上の女性たちを治療してきたという。
この本を読んだいま、この人がノーベル平和賞を受賞した意味をあらためて噛みしめる。受賞の瞬間の現地の人たちの喜びをとらえた写真を見た。豊富な天然資源の恩恵を世界に与えながらも、苦境に対しては関心を寄せてもらえなかった人々の顔。世界が知らないところで理不尽な暴力に脅え、耐えてきた人々のあの喜びは、「これで世界は私たちのことを知ってくれる」という喜びだったんじゃないか、と思えてならない。
コンゴの負の現状を世界に知らせることは、(少なくとも前の)政府にとっては好ましくないことだったよう。だからデニ・ムクウェゲさんは何度も脅迫を受けてきたし、様々な勢力による攻撃から死の瀬戸際を味わった経験も驚くほど多い。苦境にある人々に手を差し伸べている方だとは知っていたけれど、ご自身も命の危機を何度も乗り越えられてきた方だということは、この本で初めて知った。
しかし、それらの危機を、ちょっと信じられないような奇跡を通じて毎回乗り越えられてきた。命の危機とまではいかなくとも、念願の医者になるための人生の中でも、何かに愛されているとしか思えない偶然によって歩んできている。僕自身に信仰心はないけれど、「さすがにこの人は神様に導かれているんじゃないか」思ってしまうほどの人生。そこの面に目を向けても読み物として十分興味深いと思う。
モブツが政権を握った時代、西洋風の名前は禁じられ、彼の名前は「ムケンゲレ」になったそう。その意味は、「忘れられない人」。僕にとってまさにそんな存在になったし、この��の存在を通じて、コンゴが世界にとって「忘れられた場所」にならないことを祈りたい。
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【魂を揺さぶる産婦人科医】
2018年ノーベル平和賞受賞者。コンゴ民主共和国東部で「女を修理する男」として活躍。医療のみならず、性暴力を撲滅するために、自らの命を危険に晒してまで圧倒的な行動力を持つ。
「性暴力」とは住民を脅すため、
軍人や警察官が、強姦し堕胎に至るだけではなく、膣に銃や刃物を入れ傷つける。膣に穴が開き尿や便が溜められず垂れ流しになってしまい、家族から辱めを受けたものとして追放されてしまう。
銃や砲弾より安上がりな「兵器」なのだ。
自ら手術をし心を癒すムクウェゲ医師からは、強烈なエナジーを感じる。ミッションを持つ人の輝きがある。
医療、福祉関係者には読まずにいられない一冊だ。
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読んでいるだけで辛くなるような酷いことが、実際に起こっているのが恐ろしい。
文字通り命がけで女性たちを救うムクウェゲ医師だが、その背景には、生まれて間もない自身の命が神によって助けられたという思いがあるようだ。
無宗教の自分には、どうしてもなんとなく宗教アレルギーのようなものがあるが、信仰はここまで人を支えてくれるものなのかと感銘を受けた。
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アフリカ中央部コンゴ民主共和国の産婦人科医が書いた性暴力撲滅を訴えた本
ある意味自国の告発本だ
この国のレイプ事件は酷いらしい
被害者の女性たちや妊娠出産時においての治療を行ってる
またある時は、牧師という側面を持っている
昨年(2018)ノーベル賞をもらっている著者
この本を読めばその理由が良く解る
“すべては救済のために”
暴力は絶対ダメと言いたい
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2018年ノーベル平和賞は、イラクのナディア・ムラド、コンゴ民主共和国のデニ・ムクウェゲ両氏に贈られた。授賞理由は、いずれも、「戦争犯罪と勇気をもって闘い、被害者のために正義を追い求めた(Courageously combating war crimes and seeking justice for victims(Nobel Prize公式サイトより))」ことである。戦争犯罪にもさまざまあるが、両氏はどちらも性犯罪と闘っている。ムラドは自身、性犯罪の被害者であり、その経験を語る証言者となった(『THE LAST GIRL ーイスラム国に囚われ、闘い続ける女性の物語ー』)。ムクウェゲは産婦人科の医師であり、性犯罪によって心身ともに傷ついた女性たちの治療に当たってきた。
ムクウェゲ医師の活動は、以前、海外ドキュメンタリーで見たことがあった(『ムクウェゲ医師の闘い ~性暴力の犠牲者を癒やす~』)。
ムクウェゲが生まれ育ったコンゴのルワンダに近い地域では、内戦が続き、住民の虐殺や女性に対する残虐な性犯罪が頻発した。レイプだけでもひどいことだが、ここではさらに、赤ちゃんを対象としたり、刃物で性器を傷つけたりといった、想像を絶するようなことが行われた。ひどい暴行の結果、性器だけでなく排泄器官にも障害を負う女性もあった。
たとえ、被害者に非がなくとも、凌辱された妻を再びは受け入れられない夫も多かった。
戦争犯罪者たちは、家族単位の要である女性たちを辱め傷つけることで、家族、ひいては共同体の崩壊を目論んだのだ。
ムクウェゲはこうした女性たちを受け入れ、手術や治療で身体の傷を治し、保護して心の傷を癒そうとしてきた。
本書は、ムクウェゲの自伝である。
彼がいかにして医師を目指し、産婦人科を選び、そして戦争犯罪と闘うようになったかを綴る。
彼自身は裕福な家に生まれたわけではなかった。父はプロテスタントの牧師だった。
幼いころから貧しい人、困った人のそばで祈る父の姿を見ていた少年は、自分は大きくなったら<ムガンガ>になろうと決めた。ムガンガとは、白衣を着て薬を配る人を指す。父とは違うやり方で、しかしやはり人を助ける仕事に就きたいと考えたのだ。
とはいえ、貧しく、強力なコネももたない少年が、医師の道を進むのは非常に困難なことだった。当時、独裁政権下の方針で、成績優秀なものには工学を学ばせることになっており、ムクウェゲも当初は工学部に入る。しかしどうしても医師になりたかった彼は、自ら道を切り開き、隣国ブルンジで医学を学び始め、さらにはフランスで高度な医療を学ぶ。
幾度も道が見えなくなることがあったが、そのたび、偶然の幸運に後押しされた。
ムクウェゲの故郷ブカヴは、大きな発展には恵まれなかったが、牧歌的な美しい街だった。
ムクウェゲがまだ幼かった1960年代、ルワンダで民族の対立が激しくなり、ツチ族が多数、国を脱出する。その様子をムクウェゲ少年も目撃している。同じ頃、コンゴはベルギーから独立、その後、モブツによる独裁政権が樹立される。90年代になり、民主化運動の高まりでモブツは政権を追われ、カビラが大統領となる。98年以降は、ツチ族とフツ族の対立や、豊かな鉱物資源の獲得競争などで、紛争が激化し、虐殺や強姦が頻発するようになる。
ムクウェゲはフランスに留まる道もあった。自らの子の教育のことを考えれば、おそらくはその方がよかっただろう。しかし、初志貫徹して故郷へと戻り、女性たちの支援に当たる。
彼の活動に対しては、敵視するものも多く、西欧諸国に実情を訴えたことから「国の恥」を晒したと怒るものもいた。実際、彼も家族も脅迫を受け、亡命を余儀なくされた時期もある。
本書は、ムクウェゲ医師の信念や意思に加え、あまり馴染みのないコンゴの現代史についても触れられており、そうした点でも非常に興味深い。
彼自身は、父がそうであったため、プロテスタントであるのだが、これとは別にコンゴでは、カトリック系の布教もあった(但し、両者の関係は必ずしもよくはなかったという)。
また、コンゴの人々がキリスト教を受け入れたことに関して、大いなるもの、偉大なものに対する敬虔な気持ちが基盤にあり、ムクウェゲ医師も神を信じ、他者と分かち合う人生を是としているのも印象深い。
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ノーベル賞平和賞を受賞される前に書いた自伝、今後(旧ザイール)に生まれ、世界的に重要な医師になるその道のりは、決して平たんではなく、なったらなったで様々な障害が待ち受けている。激しく揺れ動く国内政治や国際情勢の中で、これだけ一貫性をもって生き続けている人がいる、ということは大きな励みになる。
自分のコミュニティのために尽くすことが、世界にとっての大きな価値を生み出している。
また同時に、現場に根差した活動には、専門家・プロフェッショナルとしての技術と信念が備わっていて、学ぶべきところが多いと思った。
働き方に加えて、生き方についても多くを教えてくれる。
人生は日々の積み重ね、なにかのために何をどれだけし続けたか、結果どうなるかわからなくても叶わない可能性を恐れずに開き直らずにどれだけ積み重ね続けられるか。
彼のストーリーは、自分の生き方を振り返る機会も与えてくれる。
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世界には日本では考えられないようなことがたくさん起きていて、
そこで、こんなにも厳しい目にあいながらも信念を持って立ち向かう人がいる。
信仰が人を支える、救うという言葉がまっすぐに届く。
信仰がなければ生きていけないような、
人は許せないようなこともたくさん起こすけれど、こんなにも強く生きる人もいるのだと、本当に素直に尊敬する。
何もできないけれど、せめて、あなたのしていることはすごいことだとたくさんの人に伝えたい。
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2018年のノーベル平和賞、コンゴの産婦人科医ムクウェゲ先生の自伝です。医療関係を目指す人、国際平和構築や外交、政治関係の仕事を目指す人にもオススメです。
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この人は本当に素晴らしい。この強靭な精神力と信念を曲げない強さはどう培ったものなのか...宗教教育の賜物なのか、いずれにしても普通のお医者さんではなし得ないことをしていると思う。
沢山の人に読んでほしい。
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この著者のDVD「女を修理する男」を見てこの本にたどり着いた。
このDVDに興味を持ったのは、「性暴力が兵器として利用されている」という衝撃的なニュースを読んだから。
DVDよりもより詳しく著者の経歴やコンゴの歴史に触れているから、この本を読んでからDVDを見た方が分かりやすかったかも。
コンゴに限らずアフリカの悲劇はなぜなくならないのか。
国連は、アメリカは、先進国たちは一体何をしているのか不思議だっが、この本を読んで少しだけ理解できた気がする。
資源が豊富なアフリカでは先進諸国を含むあらゆる利権が絡んでおり、アフリカの内戦の裏には先進諸国の影がちらついている。
その情勢は複雑で、どちらが善でどちらが悪か、一刀両断にすることは不可能。
私たち先進諸国の豊かさと平和は、アフリカ地域の悲劇の上に成り立っていると言っても過言ではない。
それにしてもこのDr.は本当に凄い人物。
何度命を狙われても屈せずに女性達のケアに立ち向かう。
「暴力に立ち向かうには愛が必要だ」という著者の主張には心を打たれた。
アフリカの悲劇に対して私たちができることは何もないと思いがちだが、日々この平和に感謝をし、身近な人、地域、国を愛することが平和に繋がるかもしれないと思えた。
特にこの医師が凄いのは、単に患者を治療するだけでなく心のケアまで行い、更に金銭的主導も行い、患者が誰にも頼ることなく自分達で医療費を払えるようにし、病院の経営も立て直したところ。
この医師の活動は、20年にも及ぶ。
なぜ世界に認知されるまでに時間がかかったかというと、世界各国は「性暴力」という言葉に目を背け続けてきたから。
なぜなら、ずっと世界のリーダー達は男性だったから。
ようやく世界に認知されたDr.だが、今度は国内から様々な批判や脅迫を受けている。
祖国の現状を訴えるDr.の姿は、歪んだ愛国心を持つ者からは売国奴に見えるそうな。
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コンゴ民の歴史がリアルに表現されていてすごい。北欧のキリスト教慈善団体のコンゴ東部での活動がよくわかる。その中で現地人医師たちの考え方と行動、それを支える北欧慈善団体もスバラシイ。厳しい現実にもひるまず、住民目線の活動を継続するパワーは驚くばかり。海外からの支援から現地民による自立への移行も学ぶことができた。ドキュメンタリー「女を修理する男」をぜひ観たい。
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徳島ヴォルティスに所属するバケンガ選手の叔父さんの自伝。
医療において信仰が及ぼす力の大きさを繰り返し述べられているのが印象的だった。
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アフリカのコンゴで、想像を絶する凄惨な性暴力の被害を受けた女性たちの治療にあたり、現状を国際社会に訴え続けるムクウェゲ医師。その生き方や考え方を知れる一冊。
幼少期から紛争に巻き込まれた一市民としての経験がリアルに語られると共に、コンゴの歴史を垣間見ることができます。衝撃的なストーリーが次々に語られていくのですが、自分や家族を身の危険にさらしてでも活動を続ける、彼自身の行動と強い絆で結ばれた家族のあり方にリスペクトを感じずにはいられませんでした。
コンゴの問題や、難しい問題に立ち向かうムクウェゲ医師の生き方に興味のある方は是非読んでみてください。
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2018年ノーベル平和賞を受賞したデニ・ムクウェゲ氏の自伝。
ノーベル平和賞受賞者が常に危険と隣り合わせなことは、それだけ治安が悪い地域で活動されているということ。志があっても、命をかけてまで、行動に移せることではない。
ムクウェゲ氏の功績ばかりに目が行きがちだが、本書は彼の人生が書かれていて、興味深い。
信仰が悪い方へ働くのではなく、活動の支えとなっていることに救いを感じた。
彼が言うように、指導者の意識が変わり、安心して暮らせる世の中になることを願う。