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幸福という名の呪縛
2019/12/13 16:44
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:漣 - この投稿者のレビュー一覧を見る
読み始めは、祖母、母、幼子の視点が頻繁に入れ替わるのと、幼子の言葉についていけず、物語に入り込むのに苦労しました。しかし、しばしすると慣れてするすると読めました。それは山田詠美さんの説明臭さが全くないからでしょう。
山田詠美さんは答えは用意していませんし、答えなどあるはずもありませんが、この事件は誰が誰を悪いと言えるのでしょうか、悪いと言えば幼子を除くほとんどの登場人物が悪い。
遺伝子や環境がいろんなことに影響するでしょう。
他者への優しさ、自己肯定、愛したり、愛されたりすること。
この物語を負の連鎖で、当然と捉えることもできます。
しかし、良くない父親、良くない母親に育てられた子供が親になった場合、自らの環境を跳ね返し、愛情を掛けて子育てしている人々も沢山居ます。
負に転ぶか、正に転ぶか、己一人のチカラだけではどうにもならなくて、その時近くに居る人の影響も大きいと思います。
この物語を読んで改めて思ったのは、虐待やネグレクトだから親が悪いという短絡的な思考による非難や報道は何も生み出さないばかりか、人間らしい想像力を培うことを奪い、人の痛みや苦しみに寄り添えない人々を作り続けるだろうということ。
物語の最後に、蓮音が琴音に「幸せ」と言わせます。現代において『幸せ』の呪縛は大きい。
何が大切かと問われれば、お金や家族や…まあ色々とあるでしょう。その前提として『幸せ』であることは、当たり前のように我々の前に横たわっています。
不幸せであることは許されず、さも幸せでなければならないような同調圧力が、あちらこちらに見受けられます。
昔なら村の中に、いまはネットの中に。
『幸せ』には絶対的幸福と相対的幸福とがあります。
絶対的幸福は、大切な人に大切だと思われ守られることによってのみ発生します。この物語の親子関係には存在しなかったものです。だから最後の台詞は虚しく響きます。
相対的幸福は、誰かと比べることで発生します。誰と結婚したのか、社会的立場や、乗っている車やファッション…
この物語の中でも度々このふたつは顔を出しますが、時に人は、どちらが本当に大切なのか、わからなくなります。
『幸せ』の呪縛…
ある意味では、現代の病巣はここにもあるのではないでしょうか。
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久しぶりの山田詠美さんの小説。
いやー…苦しかった。虐待は連鎖するって、なんだろ。かわいそうすぎて。小さきものたちのシーン読むの辛かった。最期のどんぶらこが苦しすぎて。
大阪二児置き去り死事件は記憶にも残ってます。それを題材にした小説ですが、同情はしづらかった。でもどこかで不幸の連鎖は止められたんじゃないかなって。悲しい
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大阪で起きた二児置き去り死事件をモチーフにした小説。
図書館で借りたのだか、読み進めるが苦しくて苦しくて、二度借りて、ようやく読了しました。
三世代、置き去りにされ亡くなっていく子どもたちの目線や心情、その母、蓮音の生育から事件後、そして、蓮音を置いて家を出た母、琴音の生育から蓮音の事件後まで、が、平行して描かれている。
子どもたちの心情が身につまされて切ない。子どもという存在は、何をもにもなく親が全て。全身全霊でもって、親を信頼し、親の愛情を求め、待ち続ける。親が帰ってこないのは、自分が悪いことしたからだ、とまで思いつめて。
そんな子どもたちを置き去りにして死なせてしまった母、蓮音は「鬼母」か、と言ったら、全く決してそうじゃない。蓮音だって、子どもの頃、家を出て行った母、琴音を全身全霊で求めてた。その母、琴音もそう。親の愛情を求めつつ、求められるような環境ではない、過酷な過去があり、精神に支障をきたして、蓮音たち3人のこどもを置いて、家をでてしまっていたのだ。残された蓮音は子どもながらに必死で幼い弟妹の世話をした。
蓮音がよく口にする言葉「がんばるもん、私、がんばるもん」
蓮音は、ただ、幸せになりたかったんだ。
一時は、幸せになれた。優しい旦那さんと出会い、二人の子どもたちにも恵まれた。子どもたちのこともすごく愛して可愛がっていた。
それが、どうして、どんどん絶望へと陥り、痛ましい事件になってしまったのか?
それが、著者、山田詠美さんの描きたかったことなのかなーと思う。
人は、その人生を歩んでいくなかで、いろいろな人々と出会い、心を通わせたり、影響しあったりするけれども、
人が幸せを感じて人生を歩んでいくには、どんな人と出会い、どんな感情を通わせていくことが必要なのか?
反対に、人が絶望へとどんどん落ちていく時、どんな人と出会い、どんな感情に打たれて憔悴し、思考停止になり、絶望の底へと落ちていってしまうのか?
言葉にしてしまうと、あまりにも軽くなってしまいそうな感情だ。
私自身のことにも置き換えて、自分のまわりの方々との接し方や、感情の通わせ方にも、深く深く考えさせられる小説でした。
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灼熱の夏、彼女はなぜ二児を置き去りにしたのか。新聞連載時から反響続々。虐げられる者たちの心理に深く分け入る迫真の長編小説。
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子育て、ネグレクト、性虐待等について考えさせられる作品。内容は目を引くものがあるが、物語の展開があまりないのが少し物足りなかった。ノブさえいなければ、3世代にわたってこんなにも不幸にならなかったのではないかと思うと、やるせなさを感じる。
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虐げられた者たちの、悲しい弱さを描こうとしたのだと思う。
それでも、残念だが、私はしっかりと入り込むことができなかった。
この作品は実に小説臭い。
小説なのだからそうなのだけれど、私にはこの物語全体からリアルよりもフェイクをより強く感じる。
山田詠美、なり切れてないのでは?と、つい辛口に思ってしまう。
「小さき者たち」の部分は、ちょっと大人びすぎていて、違和感があるし。
女たちの部分だって、その痛みと悩みと苦しみが、ダイレクトには伝わってこない。
それこそ、ガラス越しに、しか。そんな感じがする。
最後の、子供が死んでしまったであろうことの、蓮音の恐怖や罪悪感や心の叫びも、比較的あっさりと片付けられているように思えてしまう。
あるいは、そういう感覚が抜け落ちた女を描きたかったのだろうか?
かなり辛口に評価してしまった。
それは、期待が大きかったことの証拠なのだと思う。
今から、実際の事件についてのルポを読んでみようと思う。
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子供を置き去りにして死なせてしまった事件をもとにしたお話。罪人である母親と、そのまた母親、死んでしまった子供のそれぞれの視点から語られる。
よくこういう事件があると「育てられないんだったら産むな。鬼」というネットの書き込みなどがある。それはそうなのだけど、私たちにできることは、「なぜそのようなことになってしまったのか」「まわりでそのような状況の人がいた場合、私たちは何をしてあげられるのか」を、できないながらも考えていくことだと思う。
家族の問題を考えさせられる本。
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実際の事件を元にしたフィクションと分かっていてもあまりに悲惨な家庭に目を覆いたくなりました。
どうして宝物と思っていた子供たちを置き去りにしてしまったのか?
実年齢は立派な大人だけれど、心が成長しきれていなかったのでしょうか?
重い内容です。
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2019/06/16予約
こんな軽い言い方では間に合わないが、負の連鎖を強く感じる。
素敵な名前をつけてもらったのに、そぐわない人生。
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幼い子供二人を部屋に置き去りにして殺してしまった母。母には何が、そして、その母(子供にとっては祖母)には何があったのか2010年大阪二児置き去り餓死事件を元に書かれたとのことです。
読み始めから重い。読んでて苦しくなる。巨大な岩を背負って読んでいるよう。苦しいけれど、母が祖母がどんな思いで、どんな生い立ちがあるのか、読み進める、ページをめくる手は止まらなかった。
母だけが悪いのではない、祖母もまた家庭が複雑だったこともあるし、夫だって見殺しじゃないか。祖母の兄以外の男、つみびとだらけだ。
本を読んでいると、その内容で気分が左右される時があるけれど、この本を読んでいるときは、仕事中でも悲しくなった。最近の中ではこの本が一番重かったか。DVに始まり、性的暴行、ネグレクト、耐えられない。小さな子供は無力だ、絶対こんなのだめ。心の傷は簡単には治らない。大人にもケアすること必要。
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内容紹介 (Amazonより)
灼熱の夏、23歳の母・蓮音は、 なぜ幼な子二人をマンションに置き去りにしたのか。
真に罪深いのは誰なのか。
あの痛ましい事件に山田詠美が挑む。
虐げられる者たちの心理を深く掘り下げて、日経新聞連載時から話題を呼んだ、迫真の長編小説
実際に起きた大阪2児餓死事件を基にしたフィクション。
負の連鎖...確かに育ってきた環境は成長していく過程でとても大きく影響するとは思うけれど 全ての人がこの蓮音のようになるかといえばそうではないと思ってしまう。
反面教師にして強く生きている人もいると考えてしまう。でも実際に同じ立場になった時 自分ならどうするかと考えると...やっぱり、蓮音と同じ行動は取らないなぁ...
そのままにすると餓死するとわかっていて帰らないっていうのが やはり理解出来ません。
....それはやっぱり育ってきた環境が違うからなのでしょうか?同じような境遇の人は蓮音の気持ちや行動が理解出来るのでしょうか?
たしかに蓮音だけが悪いとは思えません。蓮音の周りには無責任な人があまりにも多いとは思います。
誰か1人でも助けてくれる人がいたなら...と思ってしまいます。
...そう思いますが やはり2人の子供を救えるのは蓮音だったのでは...
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読んでる間、ずっと胸が押し潰されそうな苦しさ、やるせなさを感じてた。何年か前に実際にあった大阪の置き去り二児死亡事件が元になっているんだろうけど、辛すぎる。
”母・琴音”、”娘・蓮音”、”小さき者たち(桃太、萌音)”の
それぞれの視点から語られていくんだけど、それぞれの環境でみな一生懸命なのよ。
精一杯生きているのよ。でも、なんでなんであの小さき者たちをあんな惨い死に方をさせなきゃなんなかったのか。
実際のあの子たちがどういった過程で死んでいったのかはわからない。でも、著者の描くあの子らの無邪気にママの帰りを待って楽しかったことを思い出してあんな小さいのにすごく賢くて…そこはフィクションだけど、でも最後の最後までママの帰りを待って喉が渇いてお腹が空いてもう動けなくなって暑さの中死んでいったのは、まぎれもない事実で許されることでは絶対ない。
せっかく、音吉と出会えて結婚したのになんでなんでそこで幸せに暮らすことができなかったんだろ。
琴音にいつも”おまえはなんも悪くない”って言ってくれる信次郎のような存在がいれば、違ったのかもしれない。
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やりきれない。本当にやりきれない物語。
これは鬼母と呼ばれた蓮音の物語。蓮音は、真夏、部屋に子どもたちを置き去りにし、結果殺すことになり、刑務所に収監される。
読んでいて、特に子どもたちが登場するシーンでは、なんとかこの子たちを助けてあげてと思わずにはいられなかった。どうしようもない母親でも、子どもたちにとったら大好きな母親だ。でも、いつか帰って来なくなる日が来るんじゃないかと不安に思いながら生活している。普通の子はそんなこと思いもしない。どんな子だって、両親に甘え、絶大な愛情の元育っていく。
蓮音は「あの母親の子だからねぇ」と言われるような母親を持つ。蓮音もある意味被害者であった。蓮音の母親である琴音も被害者だ。まさに負の連鎖が子どもたちを不幸にしていく。
この物語を読んでいると、親たちの勝手な振る舞いに怒りが湧いてくる。でも、こうした事件も、親も当たり前のように存在しているのが今の世の中だ。
ただ、ほんの少し蓮音の気持ちもわかってしまう。辛い生活から逃げ出し、ほんの少しの時間だけ何も考えずにいられる楽しい世界へ行きたい。きっと、だれもが一歩間違えば第2の蓮音になる可能性もあると、恐ろしくなる。
でも、絶対に逃げちゃいけないと思う。子どもたちの笑顔のためにも、自分を好きでいるためにも。
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物語としてはとても読み応えもあり、どんどん引き込まれていく。フィクションだとはわかっているのだけど、大阪二児置き去り事件をモチーフにしていることが脳裏から離れず、また当時のワイドショーの映像も鮮明に思い出してしまい、ずっと心がざわざわしている。そして、ちょうど読んでいる時に、東京でも3歳の女の子を餓死させるという同じような事件がおきた。
もう「絶望」この一言しか思い浮かばない。
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つみびとは誰なのか…被害者は間違いなく、幼い子供達。どんな理由があるにせよ、子供達が哀れでならない。