紙の本
著者の面目躍如
2019/07/31 21:56
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投稿者:ぷりしら - この投稿者のレビュー一覧を見る
現実と非現実のあわいを淡い筆致で描くのが本当にうまい作家さん。
このテイストの作品なら幾らでも読み続けられるような安心感や心地良さがある。
表紙の切り絵(「もちもちの木」の人だ!)も素敵。
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江戸時代が舞台の、ちょっと不思議なお話の短編集。
もう一つの柱として、さまざまな職業の人が、己の稼業に精進する様子が描かれる。
時代小説まだまだ初心者の私にとっては、江戸のお仕事の勉強にもなった。
・煙管の部品を作ったり修理したりする「羅宇(らお)屋」
・棺桶を急いで作る「早桶屋」
・豆腐屋
・漆屋、薬屋
・油の問屋と小売屋
・影絵師、和菓子屋
・紙問屋に絵師
・指物師
生きびとと死にびとが、読んでいるうちに万華鏡のように入れ替わる。
真っ当に働いている人たちには救いがある、という描かれ方をしている。
婚約者を寝取られた娘にも、きっとこの先幸(さいわい)が待っているはず、と願ってやまない。
今生が幸せであったかどうか、分かるのはいつの時点なのだろう。
真摯に生きていたのに報われなかった人は、生まれ変わった来世をもう一度生き直して納得のいく人生をやり直せるのだろうか。
妖(あやかし)として登場するモノたちは、残してきた誰かを思うために心を残した優しい者が多い。
“見える人”乙次も感じているように、「生きている者より死んでいる者のほうが素直に思いを語る分、心安い」
たった一つのことしか願わないからだろう。
また、一作品だけ毛色の違う作品が入っている。
何人かの人がレビューに書かれているように、やはり、生きているものの方が怖い
・・・と思わざるを得ない。
『隣の小平次』
『蛼橋(こおろぎばし)』
『お柄杓(ひしゃく)』
『幼馴染み』
『化物蝋燭』
『むらさき』
『夜番』
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江戸の市井を舞台に描く、7篇の奇譚集。
名手・木内さんだけあって、どの話も流石のクオリティです。
常世と現世をたゆたうような、不思議な余韻に包まれます。
そんな中、心底ゾッとしたのは「幼馴染み」。結局人の心が一番恐ろしいのかも・・。
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日常の中にある誰かと誰かのつながり。そのつながりの中にある、あるいはそのつながりから少し外れたところにある「何か」を一つずつ取り出して磨いて形を変えてそっと戻して眺めているような、そんな物語たち。
あるものは透明に見えるし、あるものは濁った泥の塊に見えるし、またあるものは黒なのに角度によっていろんな色が見え隠れする。そんなたくさんの物語たちの切なさと怖さ、そして、美さ。そうだ、木内昇の物語は美しいのだ。
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江戸の市井を舞台にした妖しい7つの短編集。
切ないけれどとても心地好く、ずっと読んでいたくなる。
あちらの世から忍んで来た者たちが、この世の者たちを次々に惑わしていく。
驚かすためなどではなく、ただこの世に心残りがあるためだ。
気配を漂わせるだけで姿をはっきり現さない者たちよりももっと恐ろしいのは、生身の人間の心に潜む闇なのかもしれない。
この世はなんて淡く切ないものなのか。
生きることに不器用なこの世の者に、あちらの者が巧く交わることで、この世の儚さを一層際立たせる。
それは美しく気高く、潔い。
切なくて何度も涙した。
特に『夜番』『お柄杓』『隣の小平次』が良かった。
表紙の滝平二郎さんの切り絵が作品の雰囲気にピタリとはまっていてとても素敵。
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粋だな~。
木内さんの本領は重厚な歴史小説だと思うのだけど、こういう短編集も大好きです。
『よこまち余話』と同じ系列の「この世に思いを残した者達」が登場する短編集です。とは言え残したものは怨念では無いので怖くは有りません。一番怖い短編は幽霊が登場せず、現世の人の心の闇を描いた「幼馴染」という面白さ。
この世とあの世の境目が揺らぎ、切なさ、暖かさが漂い出る。
ハッとさせられる表現が随所に埋め込まれた良く練られた文章。やっぱり木内さんは素晴らしい。
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時代物の短編集で幽霊や物の怪などの存在が見え隠れする物語が多い中で、化物のような心を持つ人間を描いた幼馴染が一番恐ろしかった。
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夏のお盆時期にぴったりな物語だなと思った。逝ってしまった者の思いとか残された者の思いとか、時に切なく時に儚く時に怖くと色々な物語を作者の流れるような情景が浮かぶような世界観で描かれていて引き込まれてしまった。昔の時代だからこその言葉遣いや表現の仕方、流石だなぁ。そして本の表紙の雰囲気もピッタリだった。できれば静かな深夜に読むことをオススメしたい1冊だ。
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江戸 市井が舞台となる、7つの奇譚。
この世に残した思いが強いからか、物の怪として現れる。
物につき妖怪に変化するもの、
そのままの姿形で現れるもの、
人々の生活の中にひっそりと、見えないけれど、
そこにいる。
狐狸妖怪と恐れてはいけない。
藤色や紫だけで仕上げる紫絵ばかりを描く絵師のはなし
「むらさき」が良かった。
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短編集7編
「幼馴染み」以外現実とあやかしの境界が重なり合うような奥行きのある場面展開。幽霊といっても恐ろしくはなく、このままそこにいてもいいような風情。そして、幽霊ではない人間の出てくる幼馴染みが一番怖かった。どの物語も珠玉の出来栄えで、ちょっとユーモラスな「お柄杓」が良かった。
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「見えてない奴の方が幸せなのさ。見える者からすれば滑稽でも哀れでもね」
……隣に越して来た若夫婦の男は、既に死んだはずではなかったのか?
揺らいだり、ふっと消えたり、恐ろしいのは人の心か、人でないものか。
江戸の市井を舞台に描く、切なくはかない七つの奇譚集。
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もう終わってしまうのか…夜空を彩る百花繚乱の感動と薄煙とともに現に戻る寂寥感は花火大会の趣きに似て本を閉じる手にもじわりと余韻が残る。
お気に入りを通り越して憧れにも似た存在の木内さんの七つの短篇集、怖くない怪談など詰まらないのが相場だがみっしりと詰まった人情噺に仕立ててしまうのがこの人ならではの魅力。
それは技巧云々のレベルでなく江戸に生きる高名の戯作者が憑依したのではと勘繰るほどのリアリティで素晴らしい以外の言葉が見当たらぬ。
珠玉はラストの「夜番」スターマインの如く溢るるほどに湧き上がる乙次のお冴への恋情には年甲斐もなく身が火照った。
三度目読みます
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江戸時代の江戸を舞台にした怪談・奇談というと宮部みゆきをすぐに思い浮かべるけれど、宮部さんのそれよりは怖さはだいぶん薄くて、読みやすかった。
他の方も書いておられるけれど、なかでは「幼馴染」がゾッとする怖さで、印象に残った。
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『この塩梅(あんばい)を見極める名人が、お由(ゆう)なのだった。繊細な見立てと鋭敏な判じを要する技だが、三年前に職人頭(がしら)に据えられてから、彼女(かれ)は一度として差配をしくじったことがなかった』―『お柄杓』
日本史も世界史も、歴史小説も時代小説も好きだったことはないのだけれど、何故か木内昇の小説だけは好んで読む。話の筋は凝ったようでいて、その実古典落語のように落ち所は大概見えた通り。それでも正に落語を毎度毎度飽きもせずに聞くように似たような話を毎度毎度読んでいるような気がする。
もちろん木内昇の切り取る時代は誰も彼もが髷を結っていた時代ばかりではないのだが、作風の良さはその時代の話の時に一番に出ると思う。多分、今となっては少々聞き慣れない江戸の言葉遣いを聞いているのも愉しさの一つなのだろう。言葉遣いに対するこだわりは時代場所を問わず木内昇の書くものの特徴の一つとなっていると思う。そこに個人の生き様が宿る。
この本では史実と絡んだ話はほとんど無いか、出てきても物語の借景程の距離感で視野に入る程度だが、歴史に翻弄される式の人間像を描かないところもまた気に入っているのだと思う。ともすると、誰もが知っている史実の裏でこんなことが起きていたのだ的な話を聞かされがち、と思ってしまうのは、歴史嫌いの天邪鬼のせいだろうか。しかし、歴史の流れに物理法則のような必然は余りなく、その流れの中で人が余りにも無力に描かれるのはどうも苦手だ。その点、木内昇の描く歴史には嘘くさい理屈が無いところがよい。繰り返しになるが、明治の話や昭和の話もある著者だが、なんと言っても江戸の話がよい。こ短篇が。「茗荷谷の猫」や「漂砂のうたう」と並んで、本書も大上段に構えたところもないが渡世にいくらでも転がっているような形に物語を仕上げて少しほろりとさせる人情噺のような短篇集。いくらでも聞ける噺と思う。
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江戸時代の怪奇物。でも人情がいいなあ。隣の小平次、蛼橋、お柄杓、幼馴染み、化物蠟燭、むらさき、夜番。