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トールキンが現代語訳した中世騎士物語「サー・ガウェインと緑の騎士」、長篇詩「真珠(パール)」、ギリシャ神話を下敷きにした「サー・オルフェオ」「ガウェインの別れの歌」収録。
アーサー王宮廷の円卓の騎士の一人で、王の甥でもあるサー・ガウェイン。ある年の新年の宴会に乗り込んできた全身緑色、馬も緑色の騎士、というかほぼ怪人が「わしの首を斧でちょん切れ」と押しかけてきて、アーサー一同びっくりしているところにガウェインが「じゃあ、わたしが」と名乗りを上げて、男が差し出す斧でその男の首を切断!宴会場は阿鼻叫喚の巷でしょうに。ところが、緑の男はちょん切れた首を抱えて、乗ってきた馬に乗って帰ってしまう。「1年後にわしの居所を探して、お前はわしにその首を差し出せ」という言葉を残して。これが全くの謎なんだけど、ガウェインはその約束を果たすべく、旅に出るのです。約束の日が差し迫っ2か月前くらいに!なんだよ、夏休みの宿題後回しにする子供かよ!
などとツッコミながら読んでしまった私。しかし、それからのガウェインのみに降りかかることが、ちょっと理解不能なので、中世騎士物語は不思議で面白いですね~。これまで「アーサーの死」ブルフィンチの「中世騎士物語」も読みましたが、ちょっと毛色が違う物語でした。がんばれガウェイン!どことなくのんびりした、悲壮感がそんなにないアーサー王の物語です。いかにもトールキンが好みそうだな、と思いました。
「真珠」は若くして愛する娘を失った父親が、娘の魂を真珠になぞらえて、その悲しみを神への信仰を絡めて歌い上げた詩です。「頭韻詩」という単語の頭に韻がくる古英語の詩をトールキンが現代語訳したものを、さらに日本語に訳すというのはなかなか困難なことかと思います。言語の響きを味わってみたくなりますね。
「サー・オルフェオ」は、奥さんを冥府に奪われた竪琴の名手オルフェウスが、奥さんを奪還しに行くギリシャ神話がベースですが、展開はちょっと違います。こういう結末はいいですね!
「ガウェインの別れの歌」は短い詩。オマケみたいなものでしょうか。
読みやすい日本語に訳してくださった山本史郎さんに、感謝です!