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表題作がめちゃくちゃ面白い。村長選で暗躍する主人公の気持ちがあちこちに行ったり来たりする感じがとてもリアルで面白い。また主人公がヘタれなようでいて、したたかなものが根底にあって頼もしい。
目当てだった収録作『天空の絵描きたち』は登場人物があまり活き活きとしたものと感じられなかった。女性を主人公にしたのが難しかったのではないだろうか。また登場人物が多くて名前が出てきても誰だかよく分からず、前に戻って確認しながら読んだ。
この小説がネタ元だったという古市憲寿さんの小説も読んでみたい。
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芥川賞候補となった幼な子の聖戦は地方の村長選挙をモチーフにした作品。南部弁が入り混じり、声にだして読みたい作品だった。田舎の選挙なんてこんな感じで工作やお金のやり取りがあるんだろうなというリアルな雰囲気が良かった。また人妻クラブなんて言葉も出てきて、官能小説ではないものの、こんな下世話な部分もありながら文学賞の候補に挙がるということは、個人的には文学や小説なんてそんな大層なものではなく、エンタメの1つということを感じさせてくれる作品だった。小説は敷居が高くない手軽なエンタメ、趣味の1つだと感じることができてよかった。
天空の絵描きたちはいっぺん変わって都会を舞台にしたビルの窓拭きの話。この世にはいろんな職業があり、自分が知らない、詳しく分からない仕事が沢山あるがその中の1つを取り上げていたのが、新しいことを知れて嬉しかった。
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40代の村議の男を主人公に、青森の小さな村で起きた村長選挙を描く。
「おれ」の情けない様子にハラハラしながらも、
どこか笑ってしまう。
併録されている『天空の絵描きたち』も良かった。
ガラス清掃会社で「窓拭き」の仕事を受け持つ安里小春(あさと・こはる)と社員たちの職人としての誇りが描かれている。
ビルの窓を拭く人、地上でその作業を見守る人、見ている風景はそれぞれ違う。
読み終えた日に「下見張り」をする人を見かけた。
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幼な子の聖戦
キリストの墓があることで有名な?新郷村が舞台の話。前々から行きたいと思っていたところだが、ここが舞台となっている小説を先に読むとは思わなかった。
主人公の「おれ」気持ちの変化が激しいかつ唐突過ぎて、もう少し丁寧に書いてほしかった。また、「おれ」と仁吾を対比させるためなのかもしれないが、下品な感じの下ネタ描写がやたら多かったのも気になる。内容、展開は自分の好きな感じだったので、もったいない気分である。
天空の絵描きたち
古市憲寿の「百の夜は跳ねて」に続くビルの窓拭き物語。こちらの方が窓拭きの仕事がよく分かる。(ちなみに「百の夜は跳ねて」はゴンドラの窓拭きのみしか登場しなかったが、こちらはロープの窓拭きも登場する)職人たちの危険な仕事に対する葛藤や熱い想いが迫力を持って伝わってきた。こちらの作品の方が個人的にはよかった。
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「幼な子の聖戦」――人妻との逢瀬を楽しみながら、親元で暮している「おれ」は青森県の小さな村で村議をしている。「おれ」は県議に人妻の件で決定的な弱みを握られ、立候補した同級生への選挙妨害を強いられる。疲弊した村の現実と、地元を愛する同級生の熱い演説。小さな村の選挙戦は、思いもかけぬ方向へと――。
○「天空の絵描きたち」――安里小春(あさと・こはる)は、ビルの窓拭きを専門にする会社に転職したばかりだった。仕事を理由に彼氏と微妙な関係にあるが、小春は仲間同士で文字通り命を預けて仕事をする緊張感にのめり込んでいる。ある日、ビル内の盗難事件が原因でリーダーのクマさんこと権田が責任者を下ろされてしまう。クマさんにひそかに憧れていた小春は、思い切ってクマさんを焼き鳥に誘うが……。
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はじめての作者。
2作目の「天空の絵描きたち」がよかった。知らない世界に生きる人たちの仕事に対する真剣さが心地いい。
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幼な子の聖戦
『天空の絵描きたち』『幼な子の聖戦』
著者:木村友祐
発行:2020年1月30日
集英社
天空の絵描きたち
初出:「文学界」2012年10月号
3年前の芥川賞(161回)候補作になった、古市憲寿なる社会学者が書いた小説「百の夜は跳ねて」で、参考文献にあげていたのがこの作品。選考委員の川上弘美、山田詠美、吉田修一の各氏は、あたかも「百・・・」が「天空・・・」のパクリだと言わんばかりの大批判。吉田修一氏は盗作以上のいやらしさがあるとまで酷評していた。古市某の小説なぞ読む気はないが、パクられた方の小説は面白いとのことだったので読んでみた。3年前の段階では、単行本化されていなかったが、この騒ぎのせいかどうか他の中編とともに今は本になっている。
高層ビルの窓拭きを仕事にしている人たちの話。主人公(若い女性)の小春は印刷デザイン関連の会社に勤めていたが、徹夜明けのある日、窓拭きが上から降り立った姿を見て自分もしたいと思い、転職をした。まだ1年にもなっていないが、やりがいを感じていた。多くが若者だが、中年で家庭のある権田は責任者を務めることが多く、多くの若い社員からも信頼されている。小春は密かに引かれていた。あの徹夜明けに降臨してきたのは権田ではないかとも思うほどに。
そんな権田が、落ちて死んだ。どうやら、会社が傷んだロープの買い替えを先延ばしにしていたことが原因のようだが、完全に権田個人のヒューマンエラーとして片付けられてしまった。会社の社長は現場を知らない二代目で、儲けのことしか考えていない。無事故を自慢にしていた会社だが、実は安さで勝負していたのだった。
「かっぱき」と呼ばれるビルの外側の窓拭き。動詞形は「かっぱく」だ。シャンプー棒で塗らした窓を、ワイパーのようなゴムがついたスクイージで水をかき取っていくのが「かっぱき」だ。ゴンドラに乗る方式と、ブランコに座って一人でロープを操作して下りていきつつ行っていく方式とがある。後者は命綱をつけてはいるものの、ブランコを支えるロープの操作を誤ると、ブランコは落ちていき、命綱だけで宙づりとなる。安全帯は胸まで上がり、内臓を痛めたり肋骨を痛めたりと、かなりのダメージを負って危険な状態となる。そして、その命綱までもが切れてしまうことも。
権田が死んだ時、ブランコの綱、命綱、両方ともが切れていた。古くなっていた綱を自分が使い、若い者に自分が使うはずだった綱を回していたことも判明する。
エンディングは、事故により1月以上中断していたビルの窓を、みんなで拭く場面。権田が吹き残した窓を、彼を慕っていた人たちで拭いていく。もちろん、その中には小春もいる。
いい小説だったが、でも、やはり男性作家が書いている小説だなあと思えた。権田は中年だが、ある日、彼を慕う小春に対し、Eカップのおっぱいを一回だけでいいから触らせてくれと頼むシーンがある。最終的に小春はOKし、権田は大喜びだったが、こういうのは、まったくもって男の幻想、妄想以外のなにものでもない。
幼な子の聖戦
初出:「すばる」2019年11月号
青森県の慈縁郷村という人口が減る一方の村を舞台にした話。ちなみに著者は八戸市出身。主人公の蜂谷史郎は、東京の大学を出て暫く東京暮らしをしていたが、会社でも評価されず、東京暮らしを諦めて郷里へ。父親は運送会社の会長だが、跡継ぎは妹の婿にと決めている。その父親は息子を村議にすべく画策。行われた補選で史郎は当選する。村の選挙とはそういうもので、根回しをして同意を取り付ければ当選する仕組みになっている。村議となった彼は、スキャンダルで辞任した村長に代わる新たな村長を選ぶべく選挙に絡んで、県議や中央の組織にも絡む、暗部のトラブルに巻き込まれることになる。
与党は栄民党、そのバックについているのが「明治の日本に戻す会」。また、史郎が東京時代にあやうく入信しかけたアジア発祥のキリスト教系を名乗るカルト教団。こういったのが出てくる。もちろん、それは自民党、日本会議をさしているし、教団は統一教会にも思える。2019年に発表された小説だが、なかなかのものである。エンターテイメント寄りの小説に読める。
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村議となった史郎は、父親の会社で雑用をしていた時、会社の男に誘われ「人妻クラブ」に入った。30-40代の匿名男女が参加してセックスをするクラブで、女4人、男7人が入っていた。史郎は「A子」とのセックスで彼女を満足させられなかったが、ある時、ラブホテルのカミソリで陰毛をA子に剃られた。プレーの一つとして楽しんだ。
そんな中、村長が糖尿病を理由に辞任した。実は、国会議員を接待する中で、村の出身者で活躍しているモデルを呼び、タオル一枚巻いただけの姿で、みんなでつかった温泉に一緒につからせたことがバレかけていたためだった。村議会の議長や副議長、そして村議たちは話しあい、次の村長を〝決めた〟。それは、村のPR隊をしていて、CMなども作っていた、史郎の元同級生の山蕗仁吾だった。見た目もよく、集まった一同同意で決めた。
ところが、突然、「栄民党」の県会議員が対立候補を出した。仁吾を決めた栄民党の3人の村議もそちらへ鞍替えした。名久井という県会議員が知事を狙っており、さらに中央の選挙を有利にするためにも、無所属の山蕗仁吾ではなく、「栄民党」の村長で体制を作りたかった。しかし、久しぶりに仁吾にあって話した史郎は彼を支持していた。
ある日、A子との道具を使ったセックスを楽しんだ史郎は、ホテルを出ると屈強なセメント会社の男たちにつかまり、車に乗せられた。そこにいたのは名久井だった。A子は彼の妻だったのだ。史郎は脅された。実は、ホテルの人間に言って、前回(陰毛を剃った時)と今回の行為は、ビデオに撮影させているという。それを公開されたくなかったら、仁吾に対する選挙妨害をしろと要求された。
怪文書を作成し、配らせる。偽情報をツイッターで流す。史郎は次々と仁吾を裏切る行為を思いつき、実行していった。ところが、仁吾の人気は高く、若い人や女性の多くが彼を支持。怪文書やツイッターはあまり相手にされなかった。
この村には、聖母マリア伝説がある。聖母マリアがここで死んだといい、記念館もある。悩んだ史郎は、仁吾を殺そうとする。仁吾をジョン・レノンやキング牧師のように英雄のまま伝説化するのがいい��考えた。最後の立会演説会の時、出刃包丁を持って行ったが、失敗した。
しかし、選挙結果は意外にも栄民党の候補が当選した。史郎がもうやるべきことがなく、体の動きにくい老人を投票所まで車で乗せていき、期日前投票をさせた200票が決め手となった。史郎そのものが、最終的には仁吾に入れたというのに、皮肉な結果となった。
仁吾は命を狙われていると名久井の妻A子から警告される。栄民党のバックについている「明治の日本に戻す会」という極右グループが狙っているという。名久井にとって自身の妻と不倫をした村議は、もはや邪魔な存在でしかないと考えているからだった。史郎は、名久井による脅しの声や選挙運動員による選挙違反現場を隠し撮りした動画をYouTubeにアップし、出刃包丁で名久井を殺しに行く。