投稿元:
レビューを見る
シリーズ邦訳四作目。アイスランドの湖底で発見された白骨死体と冷戦下の東ドイツへ留学した学生の追想が交錯する作品構成は「緑衣の女」とほぼ同じだが、ここに外交問題と政治思想、シュタージ傘下の監視社会が絡み合い過去作以上に複雑な様相を呈する。無駄のない物語の運びに哀愁漂う人間ドラマ、そしてラストシーンの情景が醸し出す余韻といい、今作もシリーズの持ち味が存分に発揮されている。恐らく過去パートはこれでもまだ描き足りないのではなかろうか。ロマンス的な展開は非常に苦手なのだが、今作の心情描写は何とも優美で穏やかだった。
投稿元:
レビューを見る
これまでに読んだエーレンデュルシリーズの中で一番の作品。
事件の背景である冷戦下の東ドイツとアイスランド人留学生の描写に引き込まれた。
このシリーズを読むまでアイスランドがあまり身近な国ではなかったこと、冷戦下の東ドイツについて知識が足りなかったこともあり、東ドイツとアイスランドの関係は新鮮で歴史の知らない一面を垣間見ることができた。
投稿元:
レビューを見る
ヘニング・マンケルに似た雰囲気を感じるのは、翻訳者がどちらも柳沢由美子さんの名訳だからということだけではあるまい。マンケル同様、北欧を代表する作品に与えられるガラスの鍵賞を、しかも立て続けに二度受賞しているインドリダソン。そのエーレンデュル警部シリーズも、マンケルのヴァランダー・シリーズ同様に、主人公を捜査官として描くのみならず、生活を持ち、家族を持つ人間であり、その中で私的な懊悩や迷いや希望を抱え込んでいるのである。そこに単作としての事件の上をカバーする連続性持ったシリーズ小説としての魅力が感じられるのだ。
シリーズ探偵が、誰かとつきあったとか、別れたとか、子供ができたとか、飼い犬が家族に加わった、とか、そういった悩まぬ不動の強き探偵ではなく、読者に近い側の人間であり、読者同様の様々な家族や人間関係に関する悩み、体の不調、心の荒れる様と、それを悔やむ様子、等々。そうしたものをメイン・ストーリーに重ねることによって得られるリアルな重さ、物語の厚さ、体温のようなものが感じられ、作品は活き活きと我々の下に手繰り寄せられる、そんな気がする。
もちろん、読者と離れたところで、非現実的であれ、快適な小説を求めたい読者もいると思う。マンケルもインドリダソンも、どちらかと言えば、私生活では試練を与えられる警察官であり、個人の試練を解決できなくても事件を解決することはできる、という、少し不完全さを持ったキャラクターである。
さて本書を読むのが、わけあって先にハードカバーで読んだ『厳寒の街』の後になってしまった。本書は、アイスランドの過去の歴史のなかから現れた古い死体の発見がスタートラインとなる。枯渇した湖の底から、古い無線機を錘として使われた白骨死体が発見されたのだ。エーレンデュル警部の捜査が始まる。
一方で、米ソ冷戦時代のアイスランド、共産主義に憧れ東ドイツを訪れる若者たちの一団の物語がある人物によって挿入される。彼が誰なのかは読み進むまでわからない。しかし、冷戦の時代には、地理的に重要な情報戦略の要衝的にあった上、自国に戦力を一切持たないアイスランドの国には各国の出先機関が押し寄せ、軍事的にも重要な国とされていたのだそうである。
その時代、ソ連のコミュニズムに希望を求めた若き活動家たちの行動に本書は焦点を当てる。一方の現代では、エーレンデュル、シグルデュル=オーリ、エレンボルクという三人のレギュラー捜査陣が、それぞれにプライベートな悩みを抱えながらも、彼らなりの才気を発揮して湖で発見された白骨の正体に迫る。
アイスランドと東ドイツのライプツィヒの両舞台、両時代を往来しつつ物語は白骨死体の正体に近づいてゆく。ミステリ要素をしっかりと差し出しながら、進んでゆく過去の物語とカタストロフ、そして冷戦後の現代の捜査のコントラストを楽しみながら、超一級のストーリーテリングを楽しめる。極上の美酒と言ってよい、これは相当にハイ・クオリティな作品である。
投稿元:
レビューを見る
ちょっと時間がかかった、というか途中まで読んでちょっとおいてあった本(面白かったのだけれど、当時ちょっと余裕がなくて頭が回らなかった)
読み始めたら一気だった…やっぱりこのシリーズはすごいなぁ…こういう地道な操作でたどり着く感じすごく好き。そして挟まれる当時の話がそわそわする。
決して明るくない、ジメジメしたお話。でもとても好き。続きもまた楽しみ。
投稿元:
レビューを見る
シリーズを続けて読んでいるうち、作者はアイスランドという国そのものを書こうとしているのではないかという気になってきた。
もちろん主人公であるエーレンデュルと、娘や今回初めて姿を見せた息子との関係性の変化や、恋愛事情なども書かれているけれども。
今回発見された白骨死体を調べていくうちに、冷戦時代の東ドイツに留学していたアイスランドの学生たちが浮かび上がってくる。
戦後、ワシントンとモスクワの最短直線経路下にあったため、民主主義の最前線としての米軍基地がおかれ、なのに資本主義では搾取される一方だったアイスランドは、沖縄の米軍基地を思い起こさせる。
そんな時、東ドイツから招待され留学生として社会主義や共産主義について学んだ学生たちは、理想と現実に引き裂かれていく。
都合の悪い存在が消されることはわかっていたはずなのに、恋人が拉致されて行方不明となってしまったトーマスは、結局故国に強制送還されてしまうが、愛する人の存在をなかったことにはできない。
哀しみは決して薄れることがない。
北朝鮮に拉致された人たちの姿が重なる。
解説によると
”2006年にはついにアメリカ軍がアイスランドから引き上げるに至っている。その後もアイスランドは独自の軍事力を保持していない。過去に一度も徴兵制を施行したことがなく、近代的軍事力を持った経験はない。国土の防衛は警察と沿岸警備隊が受け持ち、国外に平和維持の目的で派遣されるアイスランド危機対応部隊は外務省に属するという。”
とある。
読めば読むほど、日本と親和性が高いのではないかと思えてくる。
今まで彼の国のことを知らなかったのがもったいない。
投稿元:
レビューを見る
湖が干あがったために発見された一体の白骨。殺害されたことを示す頭蓋骨の穴と、体に結び付けられたソ連製の盗聴器。この死体は誰なのか、なぜ殺されたのか、姿を消した失踪者から辿ろうとエーレンデュルたちの捜査が始まる。
現在進行の捜査活動の叙述の間あいだに、アイスランドから社会主義の理想を信じて東ドイツ、ライプツィヒの大学に留学した学生の生活が挟み込まれる。時はハンガリー動乱直前。そのときの何がが、この白骨死体に関係しているのか。
本作は時代背景が重要なポイントとなっているが、冷戦時代のアイスランドの国際政治的な位置について、初めて知ることが多かった。
主筋のストーリー自体はもちろん、主人公エーレンデュルとその子供たちとの関係、好感情を抱いた女性との交際の深まりなど、シリーズならではの読みどころも多い。
投稿元:
レビューを見る
犯罪捜査官エーレンデュルシリーズ、第四段。干上がった湖から発見された骸骨の正体を、丹念に紐解いていく。東欧社会主義体制時代の闇に翻弄された人々を描く。一気に読める大作。
投稿元:
レビューを見る
図書館で。
なんかエヴァの話が飛んでるなぁと思ったら、1巻抜けて読んだみたい。まぁこの親子は相変わらず。
それにしてもノルウェー(だったかな)には時効って無いのかな、と前の白骨死体の調査の話を読んだ時も思いました。今回は世界大戦と社会主義とが入り乱れていて中々複雑でした。その国の歴史的背景を知らないということもあると思うのですが、知らないことだらけだと頭に内容が中々入ってこなくて…
主人公と子供の関係もう~んという感じ。この主人公は多分、子供を持たない方が良かったタイプの人だとは思うけれども。それまで関わりをもたなかったのに一方的に責められてもね、と自分も思う。君たちは何を期待して何がしたいの?と言いたくなるというか。そりゃ、物心つく前から会ってなかったなら、いくら血のつながった家族とは言え他人と同じだし。
という訳で段々家族の話が鼻に付いてきたのでこのシリーズもそろそろ良いかなぁ。それにしても浮気したわけでもないのに奥さんも良くもまぁここまで離婚した元亭主を恨んでられるな、とは前作を読んだ時思いました。娘もね。日本人が薄情すぎるのかなぁ…
投稿元:
レビューを見る
アイスランドのレイキャビク警察犯罪捜査官エーレンデュルシリーズ第4段(邦訳)です。
事件は、干上がった湖の底から陥没骨折した頭蓋骨が見つかった。骨は古い無線機を重しとして括り付けられ沈められていた。30年以上も前にも同様の無線機が複数見つかっておりロシア製の無線傍受機で今回の物も同じ物の様だ。
骨の身元は、30年以上も前の農業機械セールスの男か? 男は偽名で身元不詳だった。一方で戦後に社会主義を信じてドイツへ留学していたアイスランド人の若者達が居た。
今回は、戦後の混乱期東欧の社会思想と小国で最北の国の若者の人生。それとこのシリーズお決まりのエーレンデュルの出来損ないでドラッグ中毒の娘エヴァと父親を毛嫌いしている息子シンドリ、エーレンデュルの亡くなった弟との思い出や葛藤に悩まされる中年で冴えない刑事の人生が錯綜するが、愛情と嫌悪がない混ぜになって人を苦しめる。そんな人生が普通の人間なのかも知れない。
投稿元:
レビューを見る
344/481pで痛恨の挫折。おもしろくなりそうなのだが、とにかく話が進まない…。堂場瞬一先生が絶賛していたので読了したかったが、この後にアメリカものが控えているので、そっちを優先した。
投稿元:
レビューを見る
続けて読みどっぷりアイスランドに嵌まった。アーナルデュル・インドリダソンの三冊目。この本のテーマは社会主義国とそこの若者達という感じ。旧ソ連の影が色濃く差す東ドイツに留学した学生たちの重い青春記とも。
東ドイツのライプツィヒ、ベルリンの壁崩壊以前の大学生たちの若さが痛々しく、先頃発見された殺害されたが遺骨の捜査と交互してストーリーは展開してゆく。
お馴染みになった刑事たち、二作目からここまでまた月日が経ったようでそれぞれの身辺少しずつ変化している。
情けないオヤジのエーレンデュルは相変わらず娘、息子と関係は築けてない…。
翻訳者の解説によると、北欧ではこのシリーズ15作目まで出版されてるとのこと!
先月発刊された文庫、早速本屋さんへ予約しに走った!
投稿元:
レビューを見る
エーレンデュル捜査官シリーズ4作目。
これまでの作品にも共通することですが、
ながい歳月が経過して、
忘れ去られていた事実を
少しずつ掘り起こしていく地道な捜査、
そして主人公である捜査官の
過去と現在の私生活、孤独感が
同時進行で語られます。
今回の事件の背景には
東西冷戦時代の出来事があります。
まぼろしの理想を追って
人々が失った時間、
重荷を背負って生きてきた時間が、
しみじみと描かれています。
失ったものを取り戻すことはできません。
これは主人公の人生にも、
私たちにもあてはまることですね。
東西の冷戦は、
いまや加熱状態にあります。
そしてまた悲劇が繰り返されています。
べそかきアルルカンの詩的日常
http://blog.goo.ne.jp/b-arlequin/
べそかきアルルカンの“スケッチブックを小脇に抱え”
http://blog.goo.ne.jp/besokaki-a
べそかきアルルカンの“銀幕の向こうがわ”
http://booklog.jp/users/besokaki-arlequin2
投稿元:
レビューを見る
エーレンデュル捜査官シリーズの第四弾。
水位の下がった湖から遺体が発見される。
ロシア製の機械にくくりつけられていた遺体は、
婚約者の前から姿を消した農業機械のセールスマンなのか。
冷戦時代に東ドイツに留学した男のモノローグが重ねられていく。
国土は日本の三分の一ぐらい、人口は約35万人
日本のはるか北に位置するアイスランドがどういう国なのか
今一つ掴めていないが、
スパイ活動がありましたか、と聞いて回るとはどういうことなのだろうか。
みんながみんなを知っている国、と解説にあったが、
知り合いばかりの小さな国では、
裏切り者はいないということなのか。
ライプツィヒへの留学生たちに起こった出来事、
さらにそのあとにアイスランドで起こった事件は、
あまりにも予想通りで、逆にびっくりしたぐらい。
エーレンデュルの娘は、彼の同僚にけがを負わせ麻薬中毒治療施設に入っており、
今度は息子が登場した。
前作で知り合った検査技師の女性は、夫と離婚することにしたらしく、
エーレンデュルとの関係は進展した。
女性の同僚は料理本を出版し、男性の同僚はパートナーが流産したらしい。
元上司は病気ながらまだ生きているし、
男性の同僚にまとわりついている、妻子を車の事故で亡くした男も謎。