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主人公は少し苦手なタイプだったけれども、周囲の人たちがすごく魅力的だったし、死装束を繕うことで、生きることを考え直すことになるのだなとしみじみ。
次々と出される『課題』に自分だったらどんな服と答えるだろうかと考えながら読み進めることもでき、なにかと学びの多い一冊。
何より帯のコメントが山本文緒さんで『人は生まれることも死ぬことも自分では選べないけれど、何を纏って生きるかは選択することができる』
この言葉がなによりも響いた。
2020年の発売の文庫だから、彼女がその時どんな状況でなにを思いながらこの言葉を書いたのかはわからないけれど、今は亡き彼女のこの言葉がより一層刺さる。
何を纏って生きて、そして何を纏って死んでいくか。
これはわたしたち全員に与えられた『権利』なのだから、ちゃんと考えて毎日のお洋服を選ぼうと思ったし、この先のこともいろいろ考えるきっかけになる。
たとえば故人が『これを着せてほしい』と遺志を残しているならば、その思いにちゃんと寄り添うべきだな、と。
灰にしちゃうなんてもったいないとか、誰かに着てもらう方が喜ぶとかそんな勝手な思い込みを押し付けるんじゃなくて、最後の願いくらい誰もが叶えられるようになってほしい。
わたしもお気に入りのリトルブラックドレスにマノロ履いて旅立ちたいものです。
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最後、死ぬときに着たい服はなんですか?
今の私には思い付かない。そもそもお裁縫が苦手です。
洋裁を通じて人とかかわり、自分を見つめ直していくというストーリーがとても良かったです。
心の傷は、時間と人によって癒されていくものなんだなと感じます
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しのうとした時、何を着ようかなんて考えていなかったな。その少し前にそもそもあらかたの持ち物を失っていたからスーツケース1つしか持っていなかったし、服も最低限だった。古着のadidasのパーカーを汚した事は覚えている。まだ実家にあって面白くて持ってこようかと思ったけれどそのままにしちゃったな。遺書に書いた連絡先は2つだった。それも捨てた記憶はないのだけれどどこかに紛れて捨てられてしまったのだろう。読み返したかったな。失敗したあと、薬はもうないし首を吊ろうと思ったけれど、わざわざロープを買おうなんて思わなかった。iPhoneの充電器が使えるなって思っていて、ただ薬の残った身体がうまく動かせずうだうだしているうちにしぬ気力を失って今に至るのである。いつになったら気力が湧いてくれるのだろうな。
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可愛らしい装丁とタイトルのアンマッチが気になり読みました。
表紙のイメージで読むと、裏切られるようなスタートで、なにやら不穏な空気を感じます。
年配の裁縫教室の人との交流や、裁縫独特の無心な作業が主人公の、心を溶かしていくようでした。
途中切なく苦しくなりますが、そこがまたリアルで
読みやすい文章のなかでも重みの感じる本だと感じました。
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最初は主人公の女の人が死ぬまでにやりたいことリストを作ってそれを実行していく物語から始まる。
その際にエンディングドレス作りという教室に参加し、徐々に生きる方へと進んでいく、
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装丁の可愛らしさと1ページ目の異質さのギャップに惹かれて手に取った作品
洋裁を通して自分と向き合い、苦しみから解放されていくお話
亡くなった夫とのエピソード、描き方が儚げでよかった
言葉選びも秀逸
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‣ わたしの哀しみはわたしだけのもので、だれかと共有なんてしたくなかった
‣ どんなにいい時代が来たって、はたちは人生に一年だけ、二度と戻れない。娘盛りのいちばん輝いていたころ、わたしは着飾ることがいっさいできなかった
‣ わたしだけ特殊で、わたしだけ不幸。ずっと、そう思っていた気がする
‣ 年をとることの利点は、性別があやふやになることね。よくいるでしょう?おじいさんみたいなおばあさんや、おばあさんみたいなおじいさん
‣ 男らしさの呪縛に囚われていたのね。ほんとうのわたしは、スカートや化粧が好きで料理や洋裁を愉しみ、愛するひととゆたかな時間を過ごす暮らしを望むような人間だったのに
‣ 震えてくるほど恥ずかしかった。勝手に期待して、勝手に裏切られたと感じている自分が
‣ 弦一郎が自分の死後にわたしに望んでいたのも、そういうことだったのかもしれない。時間の流れに従うこと。自分の変化を受け入れること。前に進むこと
‣ 子ども時代から自己紹介が苦手だった。自分というあやふやなものを、初対面のひとに向かって短い言葉で表現するなんて
‣ お菓子作りと洋裁って似てるなと思う。どちらも無心に作業していると気持ちが落ち着いていく
‣ どんなひとにも、やがて来る自分の死を見つめて、じっくりと準備して、穏やかにその日を迎えてほしい。それで、死に装束を縫う洋裁教室を思いついたの
‣ まっさらな生成りの状態だから、まだまだどんな色にもなれる。そう思いたい。これからわたしはどんな色に染まっていくのか、ちょっとわくわくしています
‣ わたしが教室で教えているのは、外側ではなく内側に踏み込んでいくものづくりなの。自分のための服を縫うこと、それは自分の内面を掘り進むことでもある
‣ 人生はミシンの縫い目のようにまっすぐに規則正しく進むものじゃない。手でちくちくとひと針ひと針縫ったなみ縫いのラインみたいに、歪んでいたり、うねっていたり。それでもずっとさきの未来、いつか迎えが来たとき、自分の後ろにできたなみ縫いのラインを見て、素敵な模様だと思えたら
‣ 冬を待って、春を待って、そして夏を待って。服を縫うのは、巡りゆく季節を追いかけ続けることでもあるのだ
‣ 「そいういえばおふたりのエンディングドレス、どんなの縫ったんですか?」
「ふふふ、それは本番でのお愉しみ」