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全寮制の中高一貫校の制道院学園に編入してきた茅森良子。彼女は天才だった。そして、良子にとってライバルだと思っていた坂口孝文は、とある理由でトップの座から降りていて…
痛いほど切ない、青春物語でした。特殊な学園のルールや、スクールカースト、自分が正しいと思い込む教師。キラキラした青春ストーリーではなく、ビターな所がリアルな感じでした。
良子が探していた、映画監督である養父の幻の脚本『イルカの唄』。その正体が解った時、孝文の嘘が二人を仲違いさせたけど、8年後それがどうなったのか。柔らかい雰囲気で幕を閉じたのが救いでした。
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これぞまさしく青春、の一言に尽きます。
正しさ、公平さ、正義といったものへの情熱、純粋さゆえの脆さ、危うさ、そしてなにより、若さゆえの傲慢さが余すところなく表現されています。
これほどまでに徹底的に青春時代というものを描写しきる作者の手腕と、胆力に脱帽です。
物語りが大きく動くまでの、回りくどい展開、長々とした言い回しも、まさに青春時代の思考という印象を受け、細部にわたる作者の「青くささ」の表現へのこだわりを感じました。
ぜひ最後まで読んで頂きたい一冊です。
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中高一貫の全寮制の共学校。もうその設定だけで心がときめく。
そこに迫害され差別されてきた「緑の目」の人間たちの歴史をからませていく。一気に物語に深みが増した気がする。単なる学園ものではない、深みが。
総理大臣になること、を目標に掲げる少女茅森と、繊細さと独自の正義感を持て余す坂口の、長い長い青春と恋の物語。そこに、アイデンティティと差別と友情と同情と理解と共感と、それからあと何があったか…とにかく十代で経験するべきすべてのものがここにある。
オトナにはオトナの理論があり、正義がある。それは多分いつも、正しい。
けれど、十代には十代の、彼らにしか分かち合えない、譲れない、正義も間違いなく存在する。
眼の色が違うことや、足が不自由なこと、そういう被差別要因に対して、どうふるまうのが正しいのか。
坂口の橋本先生への嫌悪、綿貫との拝望会でのエピソード、その根拠。簡単に言葉で言い表せない違和感たち。そこからつながる茅森と紡ぎ続けたとある脚本。そのひとつひとつが美しくて尊くて、涙腺を刺激してくる。
いつの間に自分はこんなにも彼らから遠くへと来てしまったのか、と愕然ともする。
正しい事、正義、倫理。そういうものに圧迫され続ける今だからこそ読んで欲しい一冊。
読み終わった後、きっと、深く呼吸ができる。
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きっと、読んだその時々で感じ方が変わる本。
他人との関わり方、誠実さ、優しさ。他者を傷付けうる優しさと善意を抱えて生きていること、それは決して悪ではないこと。人によって、受け取り方が違うということ。
とても繊細で、暖かくて、しかし優しく喉元に刃物を突きつけられているような錯覚を憶える。現代に溢れる沢山の問題がこの話の中には詰まっていて、「貴方の答えは?」と問われているような気持ちになる一冊でした。これからも何度も読み返したい、本当に素敵な本。
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書籍紹介の記事で、この作品は著者が辿り着いた「愛と倫理の物語」だと読んだ。まさにその通り、多くの登場人物が崇高で、気持ちを言葉にできない部分もあるものの、自分をしっかり持とうと考えている。このテーマを表現するには、高校生がベスト。
いろいろ考えながら読むと楽しいかも。二人の主人公の立場で代わる代わるストーリーが語られ、同じ場面を別の立場から読むことができる。これが、読者が自分ならどうするか、と考える鍵になっているように感じた。
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初読みの作家さん。
表紙がキレイで手に取った1冊。
うーん、何ともレビューが難しい。
「正義」とはきっと生きていくその時々によって
変わっていくものだと思う。
大人には大人の、子供には子供の正義があるのだ。
全然本書とは関係がないのだが、
ジョンレノンの「イマジン」を頭に流しながら読んでいた。
私がもう10歳若い時に読んでいたら、
また違った感想を持ったのだろうな。
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愛と倫理の物語。痛いほどまっすぐで、潔癖な少年少女の姿に胸がいっぱいになりました。美しいしすてきな理想だけれど、真面目すぎて馬鹿馬鹿しく思えるほど。たくさんの会話と議論により積み重ねた信頼と愛。河野先生の作品のなかで、一番恋愛色が強かったのではないかと思います。繊細だけどわがままで強い物語。100個の嫌いなところと、ひとつの好きなところ。が、一番好きでした。多様性が叫ばれるいまの時代に即した物語でした。
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これは青春小説?恋愛小説?となかなかカテゴリしにくい印象でした。
第一部と第二部に分かれていて、第一部では主に生徒会選挙について、第二部では幻の脚本「イルカの唄」についての描写が描かれています。時折、25歳になった主人公とヒロインの物語を交えながら、2人(主人公とヒロイン)の視点で交互に物語は進行しています。
一つのエピソードを2人の視点から読み解けるので、新たな発見があるのが魅力的でした。
一応、恋愛要素があるのですが、2人の関係性がどこかドライな感じがしました。この空気感は、河野さんの「階段島」や「架見崎」シリーズの主要2人とどことなく感じさせるなと思いました。距離感も近からず、遠からずで、青春群像劇を見ている印象でした。
内容ですが、特に印象的だったのは、第一部。小さな「政治」を見ているようでした。ある人を生徒会長にするためにあらゆる人に声を掛け、協力していく様は政治そのものでした。まるで学校が国会、各寮が派閥かのようでした。
その中で、若者ならではの嫉妬や主張なども描かれていて、
どこかファンタジーぽいけれども、現実感がありました。
ただ、全体的にダラダラ感があり、もう少し圧縮してもよかったのではというのが個人的に思いました。
それぞれの登場人物達の「正義」が詰まった作品で、読み終わった後、複雑な余韻に浸れました。
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差別が日常の陰に潜む世界で、理想的な世界を目指している少女・茅森と、彼女を尊敬して支えようとする坂口の物語。
表紙の帯のアオリにもある「あのころ僕は、茅森良子に恋していた。もしもこの一文に嘘があるなら、それは過去形で語ったことくらいだ。」という文章がおしゃれ。
作品の中で語られる差別のエピソードは、所詮フィクションでしかないのだが、登場人物たちはそれぞれの信念と複雑な思いを抱えていて、それがリアリティを持っている。
主要人物には純粋な悪人はおらず、それぞれに正義がある。
例えば、女子が生徒会長になることに否定的な卒業生代表がいる。
彼は、女性の能力が低いという偏見を持っているわけではなく、男というものは責任を負うべきという考えに依っている。
差別を否定し弱者を救済しようとする熱血教師は、主人公たちに押しつけがましく思われているが、彼は心の底から平和を望んでおり、差別にあふれた世界では貴重な存在だ。
足が不自由で車椅子で生活しているある生徒は、憐みの目を向けられたり、勝手に救いの手を差し伸べられることに納得していない。
彼は足が不自由な現状を受け入れようとしており、友人たちが長距離遠足に出かける様子を羨ましく思い、また羨ましく思えることを大切にしようとしている。
差別をなくそうとする人もいれば、思いは同じにしていても差別があった歴史自体はなくしてはならないと考える人もいたり、人の考えは千差万別だ。
「差別=悪」という命題は真ではあるけれでも、そこにすべてを集約しようとすると、個々の考えの微妙なニュアンスが失われていってしまう。
よく考えさせられる物語だった。
さて、本作は茅森と坂口の恋愛小説という側面も持っているが、二人とも例にもれず複雑な性格をしているものだから、まあややこしいことになる。
彼らは、中学高校と同じ時間を過ごす中でお互いのその複雑な考え方を理解することを学んでいくのだが、自分が素直になるという方向へはあまり成長しなかったみたいだ。
私もいろいろ考えすぎて物事を複雑にしてしまう質だからよくわかるのだが、彼らを見ていて少しめんどくさい奴らだなと思ってしまった。
複雑な考え方を理解すること、自分とは違う考え方を認めること。
それと同様に、自分の考え方を認めてもらえるように努力することも必要だ。
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自分の声にコンプレックスを抱く坂口孝文と、生まれつき緑色の目を持つ茅森良子によりストーリーは進んでいく。
帯文には〈かすかなファンタジーを取り入れながらも〉とある。
なるほど不思議といえば不思議な作品だった。
少数派の緑色の目を持つ人たちのため、茅森良子は真の平等な社会を創ることを目標にしていた。
深く掘り下げて読めば見えてくるものも違うのだろう。
でも、私自身が坂口孝文や、茅森良子たちから投げかけられる倫理観に溺れそうになってしまった。
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登場人物全部著者。いや、小説がひとりの人物によって生み出される以上、根源的にどの作品もそうなるのだが、本作は特に著者河野裕氏自身が、あるいは氏が表現してきた人物と思想が詰まっていた。
それは登場人物の差別化が出来ていないという意味ではない。たぶん、全登場人物を足すか掛けるかすると著者が出来上がるのではないか、そんな妄想をした。そう、これは小説の体をとった暴露本のようだ。
さておき。内容そのものは甘く、苦く、切ない青春小説だ。主人公2人の矜持によって、この恋は、どれだけの遠回りを強いられてしまったのだろう。
だがそれでも、2人の互いへの姿勢は心地よい。『私たちは、互いを理解することを、放棄しない自信がある。』(作中より)お互い価値観が違っているのを理解し、合意形成には至らないが、互いの思考を深め合う。そんな関係性に憧れを感じる。世界で唯一「大嫌いだ」と言える相手を持てる幸せが、ある。
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19日間 9時間10分 442ページ 読了
茅森良子の生き様に敬意を感じた。
私は誰も嫌わない。
その価値観はかつて私が持っていたものに似ていた。
違ったのは、意地を張り続けられなかったことだ。
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100個の嫌いなところとひとつの好きなところ
いくらだって並べられるあいつ嫌いなところ
でも、たったひとつの好きなところは唱えようとしても言葉にならない
ラストが特に好きだった
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ミステリー?恋愛?ファンタジー?
フィクションでありながらも、日常の描写がリアルすぎるためカテゴライズできない作品
遠回しで言い訳にしか聞こえない、
けれども誠実に
それぞれの愛の形を伝え合うラストが良かった。
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もし日本に、身体的特徴の差別が存在したとしたら、どんな世界となるか。
アメリカや欧州で吹き荒れる分断や排斥運動は起こらないだろうと思う。
日本の場合には、誰もがそれを意識しながらも、口にすることを良しとせず、あえて議論から遠ざけようとする。
一部は、かつての差別があった事実から過剰なまでに優先しようと無自覚に行う。
重要なのは、差別に対してどうするかではなく、差別の受け手がどう思うか。
想像力を働かせろというのが本書の主題だと思う。
加えて、キャラクター同士の会話から考えさせる一言、セリフが散りばめられている著者の作風は変わらない。
「一度許されたことに対して、二度以上謝るな」
読んでいればいくつか心に残るセリフがあるだろう。
かつて、緑の目をした人たちは、黒い目をした人たちに虐げられていた。
寮制中高一貫校の制道院学園の中等部二年の坂口孝文は一年次の成績がトップだった。
しかし二年次からはトップ集団から転落している。
その理由は、歴史担当の教諭指導に不満を抱き、歴史のテストを毎回白紙回答するようになったからだ。
そこに、中等部二年で転入してきた茅森良子は異色の存在だった。
この学校のパトロンだった映画監督の養女である彼女は、転入初日に自分の目標は総理大臣になることだと宣言する。
そんな彼女の眼は緑色をしていた。
全校行事である長距離行軍行事を描く中学二年時代、
生徒会長になった良子と、表立っては彼女と関係ないことを装う孝文が、良子の養父の遺作を探す高校二年時代、
そして、話の間には七年前の決別を振り返る二十五歳の二人、
それぞれを良子と孝文の視点から語られる。