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ソ連とか東欧のSFが好きな人なら惹かれると思う。
ユーゴスラビアで1960年代から1990年代に建設された記念碑の写真と解説が載っている。
スポメニックとはセルビア・クロアチア語やスロヴェニア語で「記念碑」の意味だそうで、第二次大戦中の占領軍の恐怖と勝利を表しているそうだが、もともと言語も宗教も違う国を無理矢理社会主義の力で(ソ連の圧力で)くっつけちゃった国だから、こういうシンボルのもとで常に「団結」って言って集まらないとすぐバラバラになっちゃうこと、為政者もよーくわかってたんでしょう。
ユーゴスラヴィアの切手や紙幣にも描かれたスポメニックだが、今はほとんど廃墟同然、表面の金属は剥がれ落ちて雑草が茂って、見るも無残なものも多い。そこにまた不思議な詩情があり、「猿の惑星」のラストシーンの自由の女神像を見た時のような気分になる。(たとえが古くてすみません)
当時の技術力を見せつけるため自然に逆らうような構造(上のほうが大きく広がっていたり、真ん中が空洞だったり大きく傾いでいたり)も、懐かしいような。宇宙からのメッセージ(これも古いね!深作欣二。音楽はショスタコーヴィチの交響曲5番にそっくり。)みたいなチープ感もあり。
そう、SFっぽくもあり、共産主義っぽくもあり、安っぽくもあり、神秘的でもあり、何とも言えない懐かしさと苦さを同時に感じられる稀有な建造物。
黒原紀章の中銀カプセルタワーや丹下健三の静岡新聞ビルみたいなのもあり、ああいうのって1960年代から1970年代にかけての世界的流行だったのだな、と思う。
まだスポメニックが「現役」の(ちゃんと手入れもされ、人が集まっていた)頃の絵葉書も載っていて、その「観光名所」的な色や構図と現在のさびれた様子の対比もまた、なんだか胸が締め付けられる感じ。
88ものスポメニックを集めて一冊の本にしてくれたのは本当にありがたい。
放置されたり壊れたりして元の姿がわからなくなる前に、よくぞ撮ってくれたと思う。
何時間でも見ていられる。
ありがとう、ドナルド!
しかし表紙の「歴史が生んだ、ディストピア世界」のサブタイトルはダサい。「場所がわかるマップつき」もいらん。裏表紙の「過去から未来に語り継がれる~」もいらん。せっかく写真がいいんだから、装丁ももっとかっこいいものにしてほしかった。3000円出して買うんだから。グラフィック社は反省してほしい。