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古書怪談という言葉に惹かれ、購入した本書。蠱惑的なモチーフが多く、この手の怪奇作品が好きなのだと改めて実感した。人物達の語りに心躍ると同時に心地良さを覚える。建築物の描写が好き。「甦ったヘロデ王」「悪魔の筆跡」辺りが好みだが、印象深かったのは「霧の中の邂逅」。 何とも言えぬ、哀しい気持ちになった。
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英国怪奇小説家マンビーの全十四篇の短編集。
・甦ったヘロデ王 ・碑文 ・アラバスターの手
・トプリー屋敷の競売 ・チューダー様式の煙突
・クリスマスのゲーム ・白い袋 ・四柱式ベッド
・黒人の頭 ・トレガネットの時とう書 ・霧の中の邂逅
・聖書台 ・出品番号七十九 ・悪魔の筆跡
紀田順一郎の解説・・・詳細なマンビーの経歴と作品解説。
翻訳者に感謝、マンビーの作品集は初めてです。
うちの蔵書の由良君美編『イギリス怪談集』に
「霧の中での遭遇」(井出弘之/訳)が載っていますが、
略歴不詳になっていました。だからこその作品集!
ドイツ軍の捕虜となり、収容された捕虜収容所内での雑誌に
寄稿したのが始まり。戦後、この十四篇の短編集を発表。
その内容は、献辞を捧げているM・R・ジェイムズ同様の、
英国怪奇小説。彼の衣鉢を継ぐ作家と目されました。が、
その後はケンブリッジのキングス・カレッジの司書、フェローと
なり、作家よりも書誌学者への道に舵を切りました。
舞台は、古い陰気な古書店、寺院、教会、古い屋敷、山中等。
そこを徘徊する禍々しい者たち、過去の行為に触発された怪異。
遺された日記や手記、告白、遺品、風景や建物の内外の描写の妙。
ジェイムズへのオマージュ的雰囲気を醸し出しながらも、
重厚なジェイムズの作品とはやや異なった、多少軽妙な言葉が
英国怪談を彩っています。
そして、なによりも古書や古物の知識の深いこと。
「アラバスターの手」のヒヤっとする感触、「悪魔の筆跡」の
ラストの書き込みがゾクゾクして好みでした。
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うーん。自分は古典怪奇とSFが苦手で、どうしても頭に入ってこなくて、なら手に取らなきゃいいのに、世界観はとても好きだし、惹かれているので度々手に取ってしまう。これはでも読みやすい方かなー。話が淡々としすぎていて、気が付くと終わっている。これはまたも苦手な短編だからなのかもしれない。あー、味わえないもどかしさ。
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古書店主が読んでいたジル・ド・レの伝記、煉瓦で塞がれた暖炉、教会に安置された石像の手、悪魔が書いた文字。呪いに取り憑かれ、オカルトにのめり込んだ人びとの末路を描いた怪談集。
M・R・ジェイムズに師事した人の書く古典的な怪談で、オカルトOccultとミステリーMysteryが同じ「神秘」「隠されたもの」という語源を持つことが思い出される作品集だった。
怪談なりの解決篇が毎回しっかりつくので、意図のわからないものを怖いと感じるタイプの私にはあまり怖くなかった。オカルト的な説明で謎が解かれ、それが書誌学者としての博識にしっかりと支えられており、ミステリーとして読むこともできる。でも展開がワンパターンなので数篇読むと飽きてしまった。
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古書怪談集。というだけで、古書&怪談好きは食いつきました。古い時代のもので派手さはないものの、じわじわと迫る不気味さが印象的な物語ばかりです。
お気に入りは「霧の中の邂逅」。これ、ありがちと言ってしまえばありがちな話なのですが。実は悪意が全くなかったっていうのが逆に怖く思えました。呪いとか祟りとかのほうがわかりやすいのに、まさかの善意って!
一番恐ろしいと思ったのは「白い袋」。これが一番激しい怪異で、迫りくる様子がとにかく怖い! そしてその正体がなんなのかわからないところも嫌すぎました。怪異も理屈のつかないものの方が恐ろしいです。
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稀覯書、先祖代々受け継がれる領主の館、アンティーク、教会の言い伝え…イギリスの怪奇小説好きなら読んで間違いない一冊でした。
これらの創作については後半生は筆を折り、書誌学者・ライブラリアンとして生きた人らしく、特に稀覯書関係のネタが手堅い感じで面白かった。
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『チャールズ・ウィンチカムがドーセット州に所有するスタプトン屋敷には、執筆にうってつけの書斎がある。私はそれを知っていたので、ロンドンを離れるときも、良心のとがめは一切感じなくてすんだ。ある学会の定期刊行物に掲載する論文の締め切りが迫っていたうえ、この十日間、大英博物館の仕事が忙しかったのだ』―『碑文』
俗にライトノベルと呼ばれる本はほとんど読まないのだけれど、この英国書誌家の記した本は、改まった心構えを必要とせず夏に怪談話を聞くような気持ちで読めてしまうので、差し詰め半世紀前の英国版ライトノベルという感じか。もっとも、古色蒼然とした雰囲気と英国紳士特有の(鼻持ちならない、とは言わないまでも)物言いに満ちた怪奇譚は、スノッブな雰囲気に満ち満ちているけれども。
各逸話の出だしは決まって語り手がどのような経緯でこれから語る怪奇な話を知るに至ったかを語るところから始まる。語り手の置かれた状況は一見不必要な詳細のようにも映るし、詳細は省くとしながらも脱線するように触れられる些事はいかにも語り手が古書や書誌への造形が深いこと(すなわち興味をそそられればじっとして居られない性格であること)を読者に知らしめる約束事を示すようなプロローグだ。この雰囲気は、コナン・ドイルのシャーロック・ホームズ譚における事件の始まりを思い起こさせる。ただしそれはあくまで個人的に感じ方であって、作家アラン・ノエル・ラティマー・マンビーが意図していたと言いたい訳ではない。この怪奇譚で謎を解くのはワトソン博士の語るホームズではなく語り手自身だし、ホームズのように推理を披露する訳でもない。
怪奇譚としてはどれも今風のスリラーのように捻ったどんでん返しに次ぐどんでん返しがあるわけでもなく、言ってみればとてもあっさりとしている。謎解きなのだが、もちろん、本当の意味で謎は一つも解かれないまま終わるので物足りなさすら感じさせかねない。恐らく、プロットばかりを追いかけていると本当の面白さを逃してしまう類の本なのだと思う。逸話の舞台はどれも短篇が発表された時代よりも昔の設定で、尚且つそこに更に古い言い伝えや謎めいた古書が登場するという仕掛け。当時の英国の読者はマンビーが書き込んだ地名や建造物の名前からもっと現実味のある舞台を想像できた筈だ。例えば英国文化に疎い自分でも、サウス・ケンジントンの自然史博物館に故人の収集した岩石標本(当時、併設されていた地質博物館は独立した英国地質調査所所轄の博物館であった筈だが)を収めた、等と書かれていれば、その中世風の立派な建物と天井の高い内部の様子や標本が保管されている研究棟の情景が具体的に目に浮かぶ。そんな具体的な情景を思い浮かべながら、そして彼の地の薄暗い照明しかない部屋の中でこれらの怪奇譚を読んだなら、印象は大きく変わるに違いないと想像する。そういう意味ではこの怪奇譚を充分味わい尽くすには、見慣れぬ固有名詞が出て来る度に丹念に調べながら読む他ないのかも知れない。季節は陽が何時までも沈まない夏ではなく、むしろ日暮れの早い冬の方が雰囲気を醸し出すかも知れない、などと思いつつ。
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古書怪談集と銘打たれているが、山の怪談と言える「白い袋」「霧の中の邂逅」も良かった。特に後者は映像化して見せてほしい(もちろん古地図の風情も含めて)。『精神科医の悪魔祓い』を読了したばかりの身としては「悪魔の筆跡」に妙な現実味を感じてしまうが、実際には “善意の幽霊”のほうがいかにもその辺をウロウロしている可能性が有りそうで、じんわりと怖い。
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ホラー。短編集。
古書やアンティーク雑貨、洋館、歴史にまつわる怪談集。
収録作品のうち、何作かは捕虜収容所の雑誌に掲載された作品らしい。
全体的に、派手さはないが、とにかく雰囲気が良い。
ヨーロッパの少し古い雰囲気を味わえて、好きな人は好きそうな印象。
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大満足の正統ゴシックホラー。
古書、稀覯本、百年前の廃屋、古い邸宅、閉じられた暖炉、曰く付きの墓碑銘や相続品。それら全てに、おどろおどろしい物語があった。
いきなり怪物とかは出てこない。こんなホラーが読みたかった。