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「デルタの羊」
アニメ界を題材にした作品。
著者と言えば社会派小説。今回はアニメーション業界を舞台にした作品である。昨年は鬼滅の刃の劇場アニメ「劇場版『鬼滅の刃』 無限列車編」が公開から2か月あまりで興行収入が324億円を超え、日本映画史上興行収入1位となった。この大ヒットのきっかけの一つが、クオリティの高いアニメシリーズ。制作したのはufotableというアニメーションスタジオである。ufotableでの製作現場も、表に見えないだけでめちゃくちゃ大変に違いない。
「デルタの羊」はufotableがいるアニメ業界の中身を描いている。もちろん小説なのでフィクションなのだが、描かれる問題(アニメ作りの現場を揺るがす配信サービスの台頭やチャイナリスク、やりがい搾取など)はフィクションではないだろう。
物語の軸は「アルカディアの翼」である。ソフトメーカー東洋館に勤めるプロデューサーの渡瀬智哉は、中学1年の時に読んだファンタジー作品「アルカディアの翼」をいつかアニメ化したいと心に決め、3年かけて原作者を口説いてようやくアニメ化の許可を取り付けた。しかし、そこから製作現場を襲うチャイナショック、クリエイター離反、声優の不祥事。念願の夢に危機が訪れる。
一方、警官上がりのアニメータ六月は、アニメ業界のある出来事をアニメ化する仕事を請け負う。アニメータは義理堅い。この人の作品ならば、この神アニメータと仕事が出来るならばやりたいと言うのがアニメータだ。その仕事はトータル・レポート。「アルカディアの翼」のアニメ化プロジェクトを題材にしたノンフィクションアニメだ。
果たしてアニメータとしてこの仕事はやるべきなのか。仲間の為にやりたい気持ちとプロとしてやるべきではないと悩む六月。しかし、六月の職場にもチャイナショックが襲う。
チャイナショックはどでかいのだが、やはりアニメ業界は大変だなと痛感する。背景を一つ書き上げるのに何時間もかける。一工程にはさらに細かい工程があり、それをぎりぎりの人材でやる。作画のデジタル化の話も出てくる。紙で書き上げ、かつ在宅であると作業進行管理者がアニメータの家を車で回り、原稿を回収しなくてはならないのだ。そこに人材不足が重なり、ストレスも溜まり、かつサラリーだって高いわけではない。そんな中ある事件が起きてしまう。根本的な改革が必要だろう。
逆転要素と書いたが、これは見事な逆転劇。「アルカディアの翼」が繋いだ二人の縁が綺麗に着地。アニメファンはもちろん、著者ファンも必読な一冊。
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エンドロールでよく目にする「製作委員会」というクレジットがあるが、本作を読むまで深く考えた事はなかった。
アニメを作る上で、「制作」と「製作」ふたつの「セイサク」があるらしい。
本作は制作(アニメーター)の文月と製作(プロデューサー)の渡瀬、交互に視点を変えながら物語は進んでいく。
日本アニメといえば、真っ先に「君の名は。」が思い出される。普段全くアニメを見ない私でさえも、あまりの話題ぶりにテレビで放送された時に見た。
「千と千尋の神隠し」や、今や大ブームとなっている「鬼滅の刃」があるが、本作を読むと、興行収入と利益とは全く別問題である事が分かる。
製作委員会方式というらしいが、今の日本アニメにおける現実がこれでもかと記されている。
窮地に立たされながらも決して夢を諦めない姿に感動したし、最後に待っている逆転のシナリオに息飲む事間違いなし。
物語冒頭に出てくる原作も、後半アニメ映像としてしっかり私の脳に刻まれ、まるで本当に映画を見ているような錯覚に陥った。
いま一番のっている作家、塩田武士さんの新作「デルタの羊」はきっといつか映像化となるだろう。
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時間軸と人間関係、こう繋がるか!とわかった時点で面白さが増し一気に読んでしまう
かなり取材されたのかなと用語が難しく感じることもあったけれどアニメーション作りの現場に詳しくなれる、かも?
人の繋がり、想いの強さ(執念…)が大きな事を成し遂げる原動力だなと思い知る
資金繰りや人手不足の問題等々を解決していくのは大変だろうけれど…渡瀬と文月、未来に向けて準備万端でも「結果オーライ!」でも楽しんで乗り越えていけそう
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面白い。辻村深月さんの「ハケンアニメ」もそうだったけど、アニメものは愛があるからさわやかでいいよね。本書は現実と創作が混じり合う構成もリーダビリティを高めていて見事。
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5章まで我慢…1章から4章までは5章でジャンプするための序章。アニメ業界の描写が詳しく書かれているので興味のない方は、きびしいかなとも思うけれど、有名な作品のセリフが各所に出てきてアニメファンとしてはニヤリとしてしまう。5章以降どんどん伏線を回収し見事な着地に拍手。NHKで実写化お願いします。
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日本のアニメ業界を舞台に2人の男が、それぞれあるアニメを制作するために奔走する物語です。一人はプロデューサーとして、一人はアニメーターとして、様々な困難に立ち向かいながら、果たしてアニメは完成するのか?
一見、二つの物語は独立しているのかと思いきや、繋がっているのですが、ある仕掛けが施されていて、一瞬どういうこと?と思ってしまいました。
さらにこの作品では、色んな仕掛けが散りばめており、ちゃんと一本のストーリーになっています。その構成に驚かされました。後半のプレゼンに隠された「逆転のシナリオ」も楽しめて、最後まで面白かったです。
塩田さんの作品ということで、「罪の声」や「氷の仮面」でもそうでしたが、とにかく情報がふんだんに盛り込まれていて、圧倒されました。今回もアニメに関するワードがとにかく多く、よく取材されているなと思いました。
初めて知った知識もあって、色々楽しめました。
特によくアニメの主題歌の終わりで見る「○○製作委員会」などあまり気にしていなかったのですが、こういう仕組みなんだと驚かされました。
他にアニメ業界を描いた作品だと辻村深月さんの「ハケンアニメ」が思い浮かびます。この作品では、よりグローバルに、よりシリアスでリアリティに描かれている印象でした。
アニメ業界のブラックな部分やスキャンダルなど、余すところなく描かれている印象で、「アニメ」を見る目が変わるのではないかと思います。
改めて一つのアニメを作るのに多くの人が携わっていることを感じました。決して潤っている業界とは言えませんが、みんな共通しているのは、アニメを愛しているんだなと思いました。どんなに不満を持ったとしても、どんなに辛くても楽しいからやっている雰囲気が感じとられ、アニメに対する情熱が窺えました。
アニメを好きな人だけでなく、経済が好きな人にもおすすめです。どのようなお金の流れがあるのか、今後のアニメの未来は?など経済面からアニメについて学ぶことができ、なるほどと思わず納得してしまいました。
また、アニメが好きな方には、所々に有名なアニメの台詞やキャラクターなどが登場し、思わずクスッとしてしまうのではと思いました。
「アルカディアの翼」はぜひアニメで見てみたいです。
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塩田氏がまたまた面白い題材で勝負してきた。「未来少年コナン」「カリオストロの城」といった宮崎作品や子供に付き添って仕方なく観たディズニーやピクサー映画しかアニメを観ていない私には、全く知らない世界を巧みな構成力で描き、その魅力と問題点がよくわかる優れた傑作。オタク言葉がよくわからない箇所も結構あり、それがわかればもっと楽しめるんだろうなあ。著者は幅広いジャンルをよく調べていて(流石元新聞記者)、類似設定が皆無なのにどの作品も高いレベルで安定していて本当に面白い。新作が待ち遠しい作家の一人。
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安定の世界観とリアリティ
やりがいと愛情の搾取の上に成り立っているように見える世界
その中で そうではない在り方を模索し それでもやはり溢れる愛情を押さえきれないキャラクター達
ビジネスライクなスタイルでする仕事も 悪くはないけど やはり「好き」を感じながらできる仕事っていいなぁと 思ってしまった
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最初の部分は自分は要らないような気がします。
少し戸惑ってしまいました。
アニメに対して知らない事を知ることが出来ました。
ただアニメに対する思いが良く分からないですね。
オタクと言う言葉で片付けたくは無いですけどね。
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冒頭のアルカディアの翼と終盤の結末。物語より、出てくる本の方が突き刺さって、アルカディアの翼の本自体を読みたくて仕方がない。
この本に取り憑かれた若者達がアニメ化に挑むんだけど、バラバラに見えたストーリーが一纏りになっていく様は面白かった。アニメは全く観ないのでその価値が半分もわかってないんだろうなぁとも思う。
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これはめちゃくちゃ面白かった!!
まず本の構成が神かっ!
冒頭から始まるSFの様な話。
そこから飛んで、実はその冒頭に出てきたアルカディアと言う神作品をアニメ化しようと奮闘している主人公とその周りの人達が書かれ、中盤からもう1人の主人公アニメーターが出てくる。
これはどう言う繋がりが…
と思いつつ読み進めて行った後の真実と展開がもう凄い!
構成が神だけでなく現在抱えている日本アニメ界の現状問題や、日本の座を狙う中国やアメリカ…
アニメが好きじゃなくてもビジネス小説としても楽しめる。
何かを徹底的に好きで好きで好きで、自分が抱いた夢を絶対に諦めない執念の塊をぶつけて人と人を繋いでいく展開にドキドキが止まらなかった。
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アニメ業界の話ということで楽しみに本を開いた。でも出だしが私の好みではなく、また構成が理解できず、途中でやめてしまおうかと思った。3分の1程読んだところで、ようやく構成が理解でき、内容的にも面白くなってきたので、最後まで読めた。
アニメ業界の大変さと、アニメーターのアニメ愛の深さがよくわかった。
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2020冬の文芸書フェア
所蔵状況の確認はこちらから↓
https://libopac.akibi.ac.jp/opac/opac_details/?reqCode=fromlist&lang=0&amode=11&bibid=2001011711
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塩田武士さんの新刊は、アニメ業界を舞台にしたお仕事小説。アニメ制作のプロデューサーとフリーのアニメーターの2人が主役的な位置付けで、中国・アメリカ企業の日本進出だったり、(アニメ業界から)ゲーム業界への人の流れだったり最近の業界の潮流を見て取れ、VRなどの最新機器も出てきて面白い。基本エンタメ小説なのだが、深い人間ドラマも描かれたりと塩田さんらしい作品だった。「ジェバンニが一晩でやってくれました」とか、新世紀エヴァンゲリオンに関連した漫画・アニメネタも随所に挿入されているのもよかった。
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最初から本の構成が面白かった分、その後の収束のさせ方はちょっと物足りなさはあったけど、アニメの製作・制作の両面から業界課題を描いてて、なるほどそういうふうにアニメは作られているのねと初めて知ることが多かった。
作中に出てくる表現などをもとに読み手がかなり想像力を必要とする作品なので、普段からアニメとか映像作品を見慣れている立場としてはいろいろ思い浮かべるのは楽しかった。最後、渡瀬の行動力と人脈というのがすべてというところに落ち着いていったけど、もうちょっとうまく仲間とコミュニケーションしていってあげてよ〜という気持ちが強かった。そしてオタクは間近にたくさんいるけど、もうちょっとよい描き方ができないかなーという気持ちもちょっとだけ。