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事件から二十数年後に過去を振り返ってゆく語り手。静かに事実だけを述べるような淡々とした語り口で、まるでノンフィクションを読んでいるかのように錯覚してしまう巧妙な描き方。
無垢な子供と表裏一体の残虐性や、得体の知れぬものを怖れる人間の弱さ、ヘイトクライムへと繋がる心理描写など多様な要素が散りばめられた作品。
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主人公は、南米のある町にエリート官僚として再婚した音楽教師の妻とその娘と共に赴任した。その町には不思議な言葉を話すストリートチルドレンの集団がいて、度々問題を起こしていた。ある日スーパーを襲い死傷者を出した事から、子どもたちを捕まえようとジャングルの捜索が始まる。
ストーリーは20年後の追想で語られ、32人の子ども達が亡くなったらしいと読者にもわかる。なぜなのか?ただ一人生き残った少年と主人公との関係は?
なかなか難しいと感じた。そもそもストリートチルドレンの存在が現実的でない現代の日本では、この子どもの集団の存在を理解しにくい。子どもの側に立っているわけでもなく、大人の側に立っているわけでもなく。読み終わった後も、モヤモヤが残った。
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朝日新聞書評→図書館。
フィクションだと分かって読み始めたのに、実際の出来事のような錯覚が最後まで消えなかった。
自分たち大人の手の内にいるはずの、純真無垢な存在であるはずの、子ども。
しかし彼らが、大人には理解できない言葉を話し、残忍な行為に及び、大人からの支配を拒絶する時、大人たちは自分たちの信頼が裏切られたことに傷つき、怒り、怯える。
32人の子どもたちの寓話が現実味を帯びて感じられるのは、大人の勝手な先入観をかつて自分自身が裏切ってきたこと、そして今は自分が子どものふとした態度や言葉の中に、不信の欠片を見出だす恐怖を体験し怯えているからではないだろうか。
彼らは彼らの手で、「きらめく共和国」を作った。それが楽しみから生まれ、いずれ壊れていく運命だったとしても、彼らの世界があったことに胸を打たれた。
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半分くらい読んで、ん!? これって実話だったっけ?となって、思わず裏表紙見返してしまった。
物語の舞台は「架空の町」とちゃんと書いてある。
特に後半は加速するように一気に読んでしまった。読後不思議な気分になる一冊。
タイトルの表すところ、そういうことかと、なるほどとなった。
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パステルカラーを使った柔らかで輝くような装丁に、美しいタイトル。
しかし、始まりはこうだ。
「サンクリストルバルで命を落とした三十二人の子どもたち」(5頁)
不穏な文章、そして不吉な予兆。
喜びとは、若さとは、死とは。
胸に残るのは、
「心の奥のもっとも密やかな場所には、それに抵抗しようとする空間がある。私たちが口に出せなかったこと、手渡せなかったものを凝縮した身振りや微細なサインがしまいこまれた空間が。」(170頁)
この一文が物語を総括する。
なぜ32人も子どもたちは死んでしまったのか。
彼らが話す謎の言葉、リーダーがいないのにまとまっている彼らの世界。
大人からは見えない何か。
一回の公務員が回想するこの物語は、謎多き事件である。
様々な問題が重なり合った末の事件の顛末。
そこに何を見るか、そこで読者はどれだけ社会に目を向けているか試されている。
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架空の街とそこを流れる大河と隣接するジャングルを舞台にある男の回顧録として語られるこの物語は一種、ファンタジーのような、それでいて犯罪事件録にも読み取れる。
小鳥の囀りのように~とも表現される子どもたちの言語のことや、並べられた彼らの遺体という表現から、謎を突き止めたくて読む手が止まらない。
街で暮らす親のいる子どもたちもその奇妙なある意味、毒を持つ集団へ惹かれてゆくのは容易に肯ける。
子どもたちはなぜ家を出たか、なぜコミュニティを造ったか多くは語られてはいないけれど大人の一人として考えを深めてゆかなくては。
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“私たちのせいで、私たちへの反抗の中から、何かが生まれたのだ。子どもはフィクションよりもずっとたくましい。”(p.73)
“愛と恐怖には共通するものがある。どちらに支配されているときも、私たちは騙され導かれるままになり、信頼や自分の運命の行方を他者の手にゆだねる。”(p.114)
“人は自分自身を許し理解しない限り、他人を許したり理解したりできないものなのだろう。”(p.139)
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SF?集団の子供が突然現れ、ギャング団のように振る舞い、突然死ぬという。それだけで、市勢の不安、生活風景などあんまり描写がないので、なんだかよくわからないというか、背景にあるものが理解できなかった。表現したいのは、理解不能な奇妙な物を、一方的に拒絶したらそこでおしまいで、それについて、寄り添え、考えろ、ということなのか?宗教的、民族的な争いのなくならない現在において、一体何が優先すべき事柄なのか、さっぱりすっきりしない世の中で、そういうのを考える作品なんでしょうか?
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ある街に出現した少年たちが街を掻き回したあげく、最後は一人残して死んだエピソードが回想で紹介された物語。
書評を見て読んでみたが、個人的には消化不良で難易度が高かった。どうして少年たちが現れ、そして死んだのか真相がわからなかった。もしかしたら日本語訳にした際に行間部分がなくなったのかもしれない。
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『ある町にどこからか現れた、理解不能な言葉を話す子どもたち。奇妙な子どもたちは、盗み、襲い、そして32人が、一斉に死んだ。』
本書の帯に書かれたこの短い文章が、物語で起きる全てのことを端的に表し、事件の渦中にあった1人の人物が22年後に述懐していく構成となっています。
うつくしい亜熱帯の国の景色と貧困問題を抱えるサンクリストバルは、架空の都市でありながら私たちの世界にも必ず存在する場所です。つまり存在しない物語でありながら、32人の子供たちを産む土壌はこの世界に存在するのです。現代への予言とも呼べるかもしれません。
サンクリストバルの貧困は日本の中の貧困とは性質がまったく異なります。最初に出版されたスペインでの立ち位置と、日本人が受け止めるこの物語の手触りはギャップがあるように思います。
帯の文章がまるでホラー小説のような恐怖感を駆り立て、得体の知れない異国の子供たちが恐ろしく感じるのは日本人ならではの捉え方かもしれません。ですが語り手が数十年昔の出来事として語ることから実録風フィクションともちょっと一線を置いており、そういった怖いもの見たさの読み方でも楽しめる作品だと思います。
また、最後まで読むとこの本の装丁の素晴らしさ(帯の下にも小さな秘密が…)がお分かりいただけるかと思いますので、物理的な本として手に取って頂くことをお勧めします。
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ストーリーは、妻とその連れ子と南米の(架空の)町に移住してきた主人公が、20年以上前に自分が職員として関わったショッキングな事件を回顧録という形で振り返っている。
舞台となる鬱蒼としたジャングルや灼熱の埃っぽい町は、この事件が決して起こり得ない話ではないことを暗示していたのに、主人公や大人達が何を見落とし、何を軽視し、今でも罪悪感に燻られているのは何故か。
タイトルの “きらめく” というのは本文特有の抽象的・文学的な表現かと思いきや、とても物理的なものであり、そのシーンと直後に起こることの描写は映画的でもあります。
カズオイシグロさんに通じるような、重過ぎないテーマなのに逆にファンタジーと現実が紙一重であると感じさせてくれる作品でした。
〈おまけ〉
ところで作中には主人公が自分より文化的に無意識には下に見ているだろうイノセントな存在が何人か出てきます(犬、こちら側の子ども、あちら側の子ども、半分こちら側の子ども、エキゾチックな妻)。が結局、信頼や愛を築いているのに、なぜか深くは理解し合えていないような印象が象徴的。
クラシックの響きと南米のソウルミュージック、川、血、、混ざり合うことはあっても絶対に一つにはなれない気が確かにします。
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個人的に理想的な文章ばかり。異国の話なのに共感できる部分も多い。物語も興味深い。図書館で借りたけど、手元に置いておきたいから買う。
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つらい話。実話なのか。
エッセイ風に書かれるので読みやすかった。ただ,先が気になるので急いで読んだので,結局どうだったのか分からない点が出てきてしまった。自分が悪いのだが。
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あらすじからホラー要素がある作品かと思いきやファンタジー要素が強い作品だった。
パンズ・ラビリンス的な「子どもしか知らない世界」のようであるけれども本当に何があったのかとかは語られないので、好き嫌いは分かれると思う。
ここまで極端な形ではなくても自分も子どもの時に大人たちには秘密の世界を作っていたことを思い出したり、自分はいつからそういう世界を持たなくなったんだっけ、と感傷的な気分になったりした。