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小中学校の図書館ではまだ無理かもしれませんが(もしかして読む人いるかもしらんが)昔と今では教えられているもののどこが違うか、を知りたい人にはお薦めです。
2021/05/19 更新
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【はじめに】
本書は、多くのアメリカの大学で生物学教科書として採用されている『LIFE』の「細胞生物学」「分子遺伝学」「分子生物学」の三巻を邦訳したものである。『LIFE』は全58章だが、この三巻ではそのうちの19章をカバーしている。
ブルーバックスに収められた三巻の内容は以下の通り。
第一巻(細胞生物学): 生物学とは何か、生命を作る分子、細胞の基本構造、細胞内・細胞間の情報伝達
第二巻(分子遺伝学): 細胞分裂、遺伝子の構造と機能
第三巻(生化学、分子生物学): 細胞の代謝、遺伝子工学、発生と進化
簡単ではない内容だが、ふんだんに配置された丁寧なカラー図解が理解を助けてくれる。旧版では第四巻 進化生物学、第五巻 生態学が同じくブルーバックスから出版されている。
kindle版で読んだが、図表の関係で文字サイズの調節、ハイライト、検索などができず、仕方がないとはいえそこは残念。
【概要】
第二巻の内容は、第8章から第13章までの6つの章がまとめられている。
第8章は、細胞分裂(有糸分裂)の仕組みを解説する。基本的なところは高校の生物学でも学んだ内容ではあるが、当時でも今でもまったく不思議な機構である。DNA複製、DNA分離、細胞質分離の詳しい機構が説明されているが、改めてその精妙さに感嘆する。減数分裂で配偶子が作られて有性生殖により遺伝的多様性、引いては進化の多様性が担保されるのであるが、ものすごいことが行われているのだということがわかる。本章では、比較的紙幅を取って近年重要性がさらに上がっているアポトーシスの機構についての解説も行われている。
第9章は、メンデルの法則と遺伝子、染色体の解説になる。アレル(潜性/顕性※最近は優性/劣性は使わない)、表現型、交差/連鎖、組み換え頻度、など遺伝の仕組みが一通り説明されている。
第10章は、遺伝物質であるDNAについて詳しく解説する。ワトソン・クリックによるDNA二重らせん発見の経緯とともに、逆平行のらせん構造詳細やATGCの相補的塩基対の構造が説明される。DNA複製におけるプライマー、DNAポリメラーゼ、DNAヘリカーゼ、DNAリガーゼ、の役割は嘆息するほどうまくできていて、さらには原生の地球上の生物のほぼすべてでこの仕組みが共通化されている、つまり他の仕組みは生まれなかった、という事実はその発生の偶然の希少さと貴重さを物語っているのだろうか。
第11章は、DNAからタンパク質が合成される仕組みを解説する。いわゆるセントラル・ドグマの説明である。一遺伝子一ポリペプチドの法則や、三文字単位でのタンパク質をコードする仕組み、RNAを介したタンパク質生成の仕組みなどの発見は、生物学の研究者たらんとする学生に必要なスキルを教えようとするかのように非常に丁寧にその発見のプロセスから解説されている。各種RNA (rRNA、mRNA、tRNA、miRNA、siRNA、snRNA)の解説もこの章である。
第12章は、遺伝子変異と遺伝性疾患について解説する。体細胞や生殖細胞での遺伝子の変異がどのようにして起こるのか、その影響はどのようなものになるのかが説明され、その事例としてSNPでの変異(フェニルケトン尿症、鎌状赤血球など)が挙げら��る。遺伝子医療とは何か、どういった課題があるのかが語られる。
第13章は、遺伝子発言の制御やその機構に関連してウィルスやエピジェネティックスについて解説する。この章はこれまでの章に輪をかけて難しい。エピジェネティックス(DNAのメチル化)は、遺伝子以外の世代間の遺伝情報のように扱われるが、それ以上に生体内の遺伝子発言を制御する方法としてそもそも重要で、興味深い領域である。これまで聞いたことがなかったmiRNAやsiRNAについても解説があるが、奥が深い領域である。
【所感】
かなり専門的な領域に踏み込んでいる箇所も多く、詳細が理解できたかというと半分も理解していないかもしれない。通しで一度目を通しただけでは、本書の内容を自分のものにするのは難しかった。ただ、自分の細胞の中で起きていることが書かれていて、ここまで明らかになっているということがわかるのは、それだけで素敵なことだと思っている。
この分野での研究の進化が、mRNA型のコロナワクチンの迅速な開発につながったことを考えても科学の最重要領域であると言える。今後、大いに期待されている老化対策・老化治療を細胞レベルで行う技術の開発にあたっても掘り下げが必要な領域で、ますますの進化が期待できる。この本に書かれている内容もすぐに更新が必要になるのではないだろうか。少し余裕ができたらもう一度読み返してもいいかもしれないが、そのときは新しい版が出ているのかもしれない。
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『カラー図解 アメリカ版 新・大学生物学の教科書 第1巻 細胞生物学』(デイヴィッド・サダヴァ)のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4065137438
『カラー図解 アメリカ版 新・大学生物学の教科書 第3巻 生化学・分子生物学』(デイヴィッド・サダヴァ)のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4065137454
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【琉大OPACリンク】
https://opac.lib.u-ryukyu.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BC06169250
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分冊であるが、①の細胞生物学への図の参照があることから、①の続きであることが理解される。したがって、①②③と順番に読んでいくのがよいであろう。
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「エッセンシャル植物育種学 農学系のための基礎 (國武久登他著)」を読んで「アメリカ版 新・大学生物学の教科書 細胞生物学 (ブルーバックス、D・サダヴァ著)」シリーズで生物学の基礎を勉強することに、第1巻に続き図書館で借りて読んだ。
第1巻は遺伝学による育種の話だが、本著は分子生物学、遺伝子レベルの仕組みについての解説だ。
mRNAにコードされている塩基の組合せ配列(コドン)とそれに対応するアミノ酸はどんな生物でも共通しているという。言われてみればそうか、と思うがいつどこで申し合わせた訳でもなくどういう経緯なのでまったく不思議としかいいようがない。
また個体の行動が遺伝子発現に影響を与えるという仕組も興味深い。これをエピジェネティック変化という。ストレスがかかった母親から生まれた子供とそうでない母から生まれた子供の遺伝子発現レベルに違いがあるという、またミツバチの例も興味深い。環境や行動が遺伝子発現に影響を与えることは科学的に証明されているということか。
なかなか刺激的な第2巻だった。