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第1章は法とは何かについての簡単な導入編。つづく第2章は実体法(憲民刑)ではなく手続法から始まるのが意外だったが、「手続が大事なのは基本的人権を実現するうえで適正手続の保障が欠かせないから」というのが理解できて良かった。第3章はあまたの法律を私たちの暮らしの局面ごとにうまく整理、見通しが良い。
しかし近代法の法制史をあつかう最後の第4章は、入門には不要なのではと思える細かい事項・人名の列挙、他の執筆者にくらべて初学者への配慮のない読みにくい文体で、正直不満。
ともあれ1〜3章はわかりやすく、全体としては良書。
【ノーツ】
●第1章 法とは何か
・法源 ≡ 法規範が存在する形式
・要件「○○の場合には」+効果「✕✕である」
●第2章 法の基本 ― 憲法・民法・刑法・手続法
[法と手続]
・法を理解するためには、手続(≒裁判)についての知識が欠かせない
・なぜ手続なのか:
①自力救済の禁止
②人間の能力と資源の限界
③権利としての手続保障(デュープロセス)
・訴え提起:
給付の訴え ≡ 被告に対する行為命令(給付判決)を求める
確認の訴え ≡ 権利義務・法律関係の存否を確認・宣言する判決(確認判決)を求める
形成の訴え ≡ 法律関係の変動をもたらす判決(形成判決)を求める
・ADR(alternative dispute resolution、裁判外紛争解決) = 仲裁/調停
・仲裁(arbitration):
当事者間の合意(仲裁合意)にもとづく
裁判所以外の第三者(仲裁廷、仲裁人)による拘束力がある
一定要件を満たす仲裁判断には確定判決と同様の執行力が付与される
・調停(mediation):
介入する第三者に当事者を拘束する権限がない
最終的な紛争解決は当事者双方の合意(和解)に委ねられる
[民法]
・物件と債権
物件 ≡ 物を支配する権利(誰に対しても権利主張可能=絶対性)
債権 ≡ 他の人に対して一定の行為を求めることができる権利(特定の債権者・債務者との関係においてのみ機能=相対性)
・典型契約冒頭規定 = 合意による変更や排除が許されない(強行規定)
・法律行為 ≡ 意思表示を通じて権利変動(権利の発生・移転・消滅)を生ぜしめる行為
[犯罪と法]
・法益 ≡ 法的保護に値する利益
個人的法益 = 個人の生命・財産・自由など
社会的法益 = 公衆衛生や公正な取引秩序など
国家的法益 = 国家の存立や公務の適正さなど
・刑法の謙抑性・補充性・断片性: 刑罰は、他に有効・適切な手段がない場合に(補充性)、必要最低限の範囲で(謙抑性)、特に保護に値する法益に対する特に違法な態様の侵害だけを対象に用いるべきである(断片性)
・犯罪 ≡ 構成要件に該当する違法かつ有責な行為
・構成要件 = 実行行為+結果+因果関係
・証拠能力 ≡ 公判における証拠調べの対象としうる適格性(証拠能力を欠く証拠はその存在を無視、証明力の評価よりも前に検討)
・証明力 ≡ その証拠の推認力や信用性の有無・強弱の評価(裁判官の自由な心証に委ねられる=自由心証主義)
・犯罪の証明 = 合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の証明
・有罪率 ≡ 有罪事件 / 起訴事件 = 98-99%(ひとたび検察官に起訴されれば無罪の見込みはほぼない)
[憲法]
・公共の福祉 = 国家の統治権は、君主や特定の勢力・階級の私的な利益を追求するためではなく、領土に居住するすべての人のために、行使されなければならない
・日本国憲法: 手続的には旧憲法の「改正」、実質的には新憲法の「制定」(天皇主権→国民主権)
・憲法改正の最終的な権限が国民にある(憲法96条1項) = 国民主権の表れ
・法律の留保の原則 ≡ 法の支配のもとでは、公権力による国民の権利・自由一般の制限には、法律の根拠が必要
・比較衡量 ≡ 人権制限の合憲性を判断するうえで、人権制限によって得られる利益と失われる利益をくらべる
・立法事実 ≡ 立法の合憲性を支える一般的な社会的事実(その法律の立法事実が存在しない/社会の変化により存在しなくなった→違憲判決もあり得る)
・最高裁は国会の判断を尊重して合憲判決を下しがち ↔ 裁判所は違憲審査基準を明示することで判断の透明性や合理性を高めるべきという批判
・基本的人権 = 幸福追求権+法の下の平等+自由権(国家からの自由)+国務請求権+社会権(国家による自由)+参政権(国家への自由)
・司法権 ≡ 具体的な事件(=法律上の争訟)に法を適用し宣言する国家の作用
・法律上の争訟(裁判所法3条1項前段) ≡ 当事者間の権利義務ないし法律関係の存否に関する争いであって、法令の適用により終局的に解決できるもの
・地方自治の本旨(憲法92条) = 団体自治+住民自治
・国=議院内閣制(国会議員が国民を代表) ↔ 地方=二元代表制(長と議会がともに住民を代表)
●第3章 法と社会 ― 領域からみる
[ライフサイクルをつらぬく法]
・人の能力:
権利能力(民法3条) ≡ 権利義務の帰属主体となることができる資格
意思能力(民法3条の2) ≡ 権利をもち義務を負うということを認識・判断し、それを外部に発表できる能力
行為能力(民法4条-21条)
・生活扶養義務と生活保持義務:
生活扶養義務 ≡ 扶養者の生活に余裕がある場合に、その限度内で被扶養者を扶養する義務
生活保持義務 ≡ 扶養者の生活と同質・同程度の生活を、被扶養者にも確保する義務(親子=民法877条1項、夫婦=民法752条)
・民法752条(同居、協力及び扶助の義務): 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
・防貧と救貧:
憲法25条1項(生存権) → 生活保護法など(救貧)
憲法25条2項(国の責務) → 児童扶養手当など(防貧)
[人々の暮らしと法]
・消費者や労働者など、具体的な社会関係において劣位にある者の保護 → 民法(90条=公序良俗違反)、特別法、行政法的規制など
・労働者の保護 → 労契法、労基法など
・賃借人保護 → 借地借家法
・業法規制による消費者保護 → 特定商取引法、割賦販売法、金融商品取引法、貸金業法など
・保険 ≡ 保険契約の締結などを通じて、同種の潜在的な危険を負っている者たちとともに形成する集団(危険集団)によって、その危険を分散的に負担する制度
・不法行為法(民法709条-724条の2):
一般不法行為 = 過失責任主義 ≡ 他人に損害を及ぼさないように一定の注意を尽くしてさえいれば、責任を負わされない
特殊不法行為 = 過失責任主義の例外 ← 危険責任(危険な物や活動を支配している者は、そこから生じる損害について責任を負うべき)、報償責任(他者を利用することによって自己の利益を得ている者は、その活動にともなう損害について責任を負うべき)
・無過失責任 = 過失責任主義に対する特別法による修正(製造物責任法、原子力損害賠償法など)
[組織に関する法]
・準則主義 ≡ 法律に従った手続を踏めば、自由に法人を設立できるというルール
・ガバナンス ≡ 組織を適切に機能させるための仕組み = ①権限の分配+②分配された権限のモニタリング
・プリンシパル(委託者)/エージェント(受託者)
・エージェンシー問題 ≡ プリンシパル=エージェント関係において、エージェントが怠けたり、プリンシパルではなくエージェント自身の利益を追求したりすること
・フィデューシャリー・デューティー(fiduciary duty、信認義務) → 善管注意義務(会社法330条、民法644条)、忠実義務(会社法355条)
・ソフトロー ≡ 法律や政令といった厳格な法規範ではない規範
・PPP(public private partnership、官民連携事業)
・PFI(private finance initiative)
[市場にかかわる法]
・解雇権濫用法理(労契16条)
・関係特殊的(relation specific)投資 ≡ 特定の相手方との関係では価値があるが、それ以外の相手方との関係では価値をもたない種類の投資
・会社の支配権市場 ≡ 会社の支配権が取引の対象となっている状況(株式会社の取締役に、株価が下がれば会社が買収されかねないという危機感を与え、努力を怠らずに会社を経営するインセンティブを与える)
[公益実現のための法]
・公益 = いろいろ
・(自由主義経済)→事後規制→(市場の失敗、社会国家・福祉国家・行政国家)→事前規制
・法律による行政の原理 ≡ 行政活動は法律にもとづいて行われなければならない
・法令のエンフォースメント ≡ 民事的・刑事的・行政的など、さまざまな手法により法令の遵守を確保すること
・公益 vs 私人の権利(私益のうち法の保護を受けるもの)
・環境基本法、社会保障法など
[情報にまつわる法]
・情報流通の促進: 公共財としての情報(排除性がない=誰でも使える、競合性がない=誰かが使っても他の人が使えなくなることがない)、表現の自由、情報開示義務(知る権利、情報公開法)、知的財産権
・情報流通の抑制: プライバシー権(放っておいてもらう権利→自己情報コントロール権、個人情報保護法)、名誉権(民法710条、刑法230条)、国家による監視
・法=もともと中央集権的 ↔ インターネット・情報社会=中央集権的な管理者のいない自由な空間
[グローバル社会の法]
・国際法の国内実施 = 直接適用/担保法の制定/国際法適合的解釈(間接適用)
・国際私法 ≡ 準拠法(法の抵触が生じた場合に適用される法)を選択する基準となる法(日本では「法の適用に関する通則法」)
・ソフトローの重要性
●第4章 法とは何か、再び ― 違った角度から
・「正しさ」を実現するのは誰か: 法=権利は裁判をつうじて実現される → 判決・決定を下す裁判官が「正しさ」を保障する → 司法権の独立の重要性
・近代法の特徴: 権利主体としての「人」の普遍性(自由かつ平等な個人)、私的所有権の絶対性、契約の自由、私的自治、過失責任主義、法的安定性
・近代法のフィクション性: ①現実の個人は自由でも平等でもない、②個人の概念は身分・団体の否定と表裏一体
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▼福岡県立大学附属図書館の所蔵はこちらです
https://library.fukuoka-pu.ac.jp/opac/volume/322148
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https://elib.maruzen.co.jp/elib/html/BookDetail/Id/3000104159
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学部一年の授業で習ったような内容が端的にまとまっている。学部生の予習にはぴったりだが、一般の社会人向けとしては盛り込みすぎな気もする。本気で学びたいと思っている読者には良いが、軽い興味では読了が難しいかもしれない。いずれにせよ、すっきりと読めて法学の概要をつかめるのは良かった。
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気鋭の若手・中堅法学者による「多様化した現代社会の法を探る、新しい法学入門」。ライフサイクルや暮らし、経済などの場面で法が果たしている役割を具体的に明らかにしているのが本書の特徴である。
いわゆる六法のエッセンスから、我々の社会や生活と法がどのようにつながっているか、そして近代法の来歴まで、法学の全体像が端的に解説されている。AIと法など、最近の動向にも目配りされていて、法学の入門書として最適と思われる。