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舞台が五島列島で主人公が老婆といえば『飛族』を思い出しますが、老いた体で両手を羽根にして飛びたたんとする幻想的な鳥踊りの『飛族』の世界に対し、この『姉の島』はひたすらに海中へ潜って行く物語です。
主人公の雁来(がんく)ミツルは85歳。相方の小夜子と共に、この春に先輩のシホイ・千夏と同じ倍暦海女になりました。この地方の風習で、85歳まで海女をやり切った女は倍暦になる。つまりミツルは170歳です。
村田さんは婆様を描くのがお得意ですが、この婆さん達が良いのです。愚痴など垂れず、飄々として、新しいことにも興味津々。4人の知識を持ち寄って、後輩たちのための海図づくりなど始めたりします。そしていつもミツルの傍らにいる孫の嫁・美歌も良いですね。若々しく、明るく、それでいてしっかり腰が据わっていて将来のおばばを予感させる佇まいが色を添えています。
米海洋学者のディーツに命名された海中の山脈・天皇海山列(天智,神武,推古など古代天皇の名を冠した十数峰がある)や春の七草海山列、秋の七草海山列。戦後、米軍によって五島沖で沈められ、一隻は何故か海底に突き刺さる様に垂直に屹立している日本の24隻の潜水艦。そうした海底の不思議を織り込みながら、婆たちの物語が進みます。
どこに向かう物語か良く判らぬまま、そして実際エンディングも曖昧な気がしますが、現実と幻想/死者と生者が簡単に交差するような物語の途中だけでも十分に面白く。。。。
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待ちに待った村田喜代子小説の新刊!
「村田喜代子『姉の島』~年齢を重ねるということ」
https://blog.goo.ne.jp/mkdiechi/e/504d7a2c24a3ce3cd7a0927009a4821c
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85歳超えの退役海女たちは、後進の若者のために潜った海の海図作成に余念がない。カジメやアワビ、海底に突き刺ささる戦時の沈没船、水産大学校出の孫や嫁からきく天皇海山列と春の七草海山……円熟した作家による老女と潜水艦の異色冒険小説。
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『飛族』に続いて島に暮らす海女の老婆により語られる本書。また老婆に魅せられた。
85才ミツルに導かれて見た海の中は、地上と同じひとつの世界だった。
海の底の山々に名前があることも知らなかった。古代の天皇の名前がつけられた天皇海山、春の七草海山や秋の七草海山には草や花の名がつく。海の中に咲く花、なんて素敵なんだろう。
五島列島の海は、唐まで行けずに沈んだ遣唐使船、戦時に撃沈された戦艦、戦後沈められ潜水艦と多くの命を飲み込んでいるという。
静かに広がる水面の下に抱えた史実と幻想の物語を見せてもらった。そして、あの世に近くなった年齢の老婆は物語の中へ溶け込んでいく。
海は死を抱えるだけではない。
命を生みだしてきた。ミツルの孫嫁の子宮の羊水に浮かぶ胎児は、海から生まれる命そのものだ。
村田喜代子さんの描く老婆はなぜこんなに魅力的なのだろう。
力強くユーモアがあり現実的。だが人の領域を越えた者に対する謙虚さもある。
その姿は、私の年齢を重ねたその先を明るいものにしてくれる。
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九州のとある島の海人(といっても80過ぎの婆)と潜水艦の物語とのPOPに惹かれて読んでみる。
が、いまいち響かない。山岳小説の方がなぜだか心をうつものが多いけれどなぜだろう。
作者と合わなかったか。カッスラーでも読むかな。
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85歳から海女は倍暦で数えるという。ミツルは仲間の小夜子と引退せす海女を続ける。彼女達が見せてくれる五島列島の島の生活や海の世界。沖に沈む遣唐使船から世界大戦の潜水艦や駆逐艦などの幻想の世界。二つの世界が混ざり海の世界がミツルの意識を飲み込んでいく。独特の語り、リズムと共に村田ワールド全開だ。
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村田さんの作品を読むのは初めて。今まで読まずにきたこと、とっても損していたんだなーと慌てたような気持ちになった。
アワビ漁の海女をしている85歳のミツルおばあちゃんのお話。小さな世界しか知らないようなおばあちゃんなのに、実は思いもかけない大きな世界へとつながる準備はもうすでに出来ていて、その扉がゆっくり開くのを隣で少し呆然としながら見させてもらったような気持ち。
作者の他の作品もこれから読みます。
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村田喜代子さんの作品だが、この人のテーマの選び方にはいつも驚かされる。
今回は長崎にある島の海女さんが主人公だが、85歳になると定年になり倍歴といって年齢を倍に数える風習があるというところで仰天する。85歳の人は170歳で、お彼岸を迎えるたびに一つずつ年齢を重ねていく。
このおばあさんたちは皆、元気そのもの。
先の戦争で海没処理された潜水艦まで、潜って探そうとする。
最後は潜り過ぎて、命を失うのだが、その辺りの描き方も素晴らしい。
1945年生まれだから私より2歳年上ということになる。
次はどのような発想で驚かせてくれるのだろうか。大いに楽しみだ。
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長崎の離島、塩の香りがする浜辺、海女達の姿が見える。そんな光景の中に誘ってくれるような本である。文学書はほとんど読まないが、読んでいる間、至福の時間を送らせてくれる。
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年寄りの海女の生き様を孫に嫁に語るその想い。
迫力を感じられる。
海とともに生涯を過ごす。
ラスト…海底につきささる潜水艦は、夢か幻か。。
海に生かされ海に死す、ともいうべき凄みがある。
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八十五歳を過ぎると「倍暦」になり170歳ってことになるとはね。
海女のミツルばあさん、小夜子ばあさんのやってることもすごいけど。
出てくる世界(海底の山脈とか沈んでいる潜水艦とか)もスケール大きすぎ。
あと、孫のお嫁ちゃんの美歌、水産大学を出て海女になるのもすごいが、現代っ子ぷりもいい。
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あまりこのジャンルの作品は読まないのですが、村田喜代子さんの作品は特別。
今作は、八十五まで海女をやり切った者だけがなるという倍暦の海女たちの話。
海の中の壮大な世界、戦争の遺したもの、年老いた海女たちが若い世代へと繋いでいくもの等が描かれている。
倍暦海女の目線と言葉で綴られる、静かで力強い独特な世界観に惹かれました。
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海の中を自分も潜っているような気になる不思議な小説。おばあさんの独り言で語られるのだが、退屈するどころか、リズムもよくてどんどん読み進められる。漁村の狭い集落が舞台なのに、主人公の若い頃の回想、戦争のこと、今はもういない人たち、友人、孫の妻などとの交流が描かれ、時間や空間を超えたスケールの大きさを感じた。「蕨野行」の読後感に似ている。
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今年の3月に読んだ文春文庫『飛族』(9784167918125)の雰囲気が気に入り、ちょうどその頃、文芸書棚前に平置きされていた本作を手に取る。
どちらの作品も’本土から海で隔てられた島で暮らし、晩節を迎えた老海女の視点から死生についてを見つめた作品’という共通項はあるものの、その見方は対極的である。
いずれも島が舞台という事で、カラッとした風通しの良さを肌に感じつつも『飛族』は死の気配が近く濃く漂っていて、常に’昇華・昇天’を意識した様なフワフワした仄寂しさを纏った作品だったなぁ、という一方で『姉の島』は確かな生命力がしっかりと宿った作品。
まず見返し紙に広がる閑とした青を捲ると、中扉の黄色が燦燦と眩しく、さながら陽に暖められた砂浜の熱を目と手から感じられるかのよう。
また作中に於いても、美歌がお腹に宿した子の存在は作品を一貫して未来を感じさせる’命’の象徴であり、はたまた何度か描かれる食事に関する場面が、副菜の色どりまで描かれる事で、正に’命を補給しているなあ’という様に私には印象的に感じられた(p29「握り飯」「きんぴらゴボウ」「卵焼きと小アジの南蛮漬け」p80「あつあつの芋饅頭」、p93「アゴのそぼろ弁当」、p205「素麺」「キュウリの糠漬け」などなど…)。
そして本作の極め付け且つ締め括りが’素潜りで海没処理された潜水艦を見に行こう’というもの。
確かに前振りはあったにはあったが、正直これは急展開と言わざるを得ない超展開。
冒頭で沈没船に対して「年寄り仲間」(p29)のようなシンパシーを覚えていたとはいえ、ここまで対面に拘った執念の出所が私には少々唐突だと思われてならなかった。
「海の中は幻のようじゃ」(p18)というフレーズが効いた最終盤の現実と幻がごちゃ混ぜになるシーンは、悼みの内にもほんのりとおかしみを感じさせる場面。
最期のひと時まで’生’を喪わず、きっとミツルは雲の向こうへ昇って行ったのだろう。
後ろ側には黄色い扉紙が綴じられていないのも、砂浜が見えなくなるくらいに空高く昇っていったという事を示唆しているのではないだろうか。
1刷
2022.10.9
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長崎の離島で暮らす海女の物語。75歳を超えた海女は、畏敬を込めて、それからは年に2歳ずつ歳をとるという風習がある。75歳になった主人公の独白のような形式で物語が進行するが、日々の暮らしの話、海の底で見る幻の話、戦争の話、天皇の話など、多岐にわたる話が絡み合い、独特の雰囲気を出している。北の湖にある海底火山には、古の天皇名前が、南の海にある海底火山には、七草の名前がついているという。この、対照的なエピソードが高齢の海女に小さくない影響をあたえるところなど、今まで読んだことのない味わい。