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神を疑い、イエスに悪態をつきながらも邪な存在を滅ぼすことを己の使命として旅を続ける、二丁拳銃を駆使する凄腕のガンマン牧師、ジェビダイア・メーサーの活躍を描いた中短篇集。5篇収録。
≪魔界西部劇(ウィアード・ウエスト)≫と銘打たれていた通り、19世紀後期のアメリカ西部―ただし魑魅魍魎が跳梁跋扈する世界だが―を舞台に描かれる。行間から血腥さに腐臭、硝煙の臭い、果ては砂塵や干し草が舞う乾いた埃っぽさまでも漂ってくるようにすら感じ、顔を顰めたくなる。もちろん、それらも含めて面白くてたまらないのだけれども。
本書の冒頭から約半分、200㌻弱を占める中編「死屍の町」が、メーサー牧師初登場の作品でこれは80年代末、モダン・ホラー隆盛の頃に書かれた作品。他の4篇はそれから約20年後に執筆されたもので、作中での牧師自身の設定も「死屍の町」では20代後半であったのに対し、他は執筆期と同様に年を経た雰囲気となっている。「死屍~」での神や信仰への疑念、過去の悔恨、己の役割への使命感と諦観に揺らぐ青年牧師の姿は、今世紀になって次々作られたアメコミヒーローのリブート映画や、本邦の平成仮面ライダー等で描かれる「悩み迷うヒーロー」の姿を先取りしていたように思えて興味深い。
それに対して表題作以外での“大人な”メーサー牧師は、神を疑い畏れることには若い頃と変わりないが、それでも邪悪な存在を滅する使命を己に課して貫こうとするプロフェッショナル……どことなくだが、初期必殺シリーズのようなダークヒーローの雰囲気が漂う。もちろんどれも短篇のため牧師の内面描写に行数をそこまで割いていない―ということもあるのだろうけれど。