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これは凄い本である。著者の大宮理氏は有名な学者ではなく、化学の予備校講師をやっていた方である。親が自己破産したため、大学院に行けなかったらしい。
しかしこの本は589頁の大著であり、どのページも自分の言葉で綴っており、膨大な知識がよく整理されてある。このような流れで世界史全体を把握すればわかりやすい。
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隣駅にある時々訪れる本屋さんで見つけた本です、化学と歴史の好きな私はタイトルを見て惹かれました。500頁を超える本でしたが、通勤電車の中で楽しく読ませていただきました。
この本の特徴は、ある年に限定して、化学上における発見・発明と、その年に起きた歴史上の事件と合わせて解説されています。近代では多くの戦争がありましたが、その時の兵器・武器に使用された科学技術を併せて解説しています。それにより、それまでの帝国がなぜ消滅してしまうかもよく分かりました。
化学の発明により人間の寿命を延ばす等、良い結果をもたらせた技術もありますが、戦争に使用されて多くの人の命を奪うことになったのも事実です。マイナス面があるものの、科学技術の発展は人間を幸福にしてきたと思いました。
以下は気になったポイントです。
・4万1000年前頃、現代の私たちの生活を支えている物質のほとんどは、1)鉱山から掘り出されてくるもの、2)石油から取り出されるものが起源となっている。鉱山と油田が現代文明の母である。石油は19世紀から、鉱山の期限は古く、4万1000年前である(p35)
・前4000年頃、銅の場合はほとんどがCU2+という状態で含まれている、ここに化学反応で電子をつけて、銅に戻すことが金属の銅を作ることになる。鉄やアルミニウムなども同じように鉱石中の陽イオンに電子をつけて金属にする、続きはp59(p50)パン生地を焼いていくと、糖類とアミノ酸が反応して香ばしい香りのもとになるアルデヒド類という分子ができ、こんがりとした焼き色がついて独特な風味が現れる(メイラード反応)(p51)
・前1500年頃、鉄器を製造した民族が世界を制す、鉄鉱石(鉄イオン)に電子をつけて鉄にする工程が重要である、これを還元という。そのためには、電子を出す還元剤が必要となる。木炭=炭素は電子を出しながら鉄に結びついた酸素を剥がして、一酸化炭素、二酸化炭素になる理想的な還元剤である(p69→78)
・前221年に中国統一を成し遂げた、趙政は中国初の皇帝となり、始まりの皇帝=始皇帝と名乗った。ここから1912年のラストエンペラー溥儀の退位まで皇帝による統治が始まる。スケールの大きい公共事業(万里の長城、兵馬俑など)を行った、莫大な財源が必要となるが、その一つが塩の専売制(生産、流通、販売を管理)だと言われる(p98)
・1300年頃、蒸留酒の出現、自然界のアルコール醗酵ではエタノールの濃度が15%以上になると、発行を起こす酵母がエタノールにより自爆して死んでしまう、エタノールを濃くするには、人為的に蒸留するしかない。ワインを蒸留したものがブランデー、ビールを蒸留したのがウィスキー、さらに新しい蒸留酒であるラム酒も登場してくる(p150→p225)
・1415年、フスの教会批判、火砲による戦争の大衆化が到来、イングランドのウィクリフが14世紀後半に堕落した教会を批判し「聖書こそ信仰の最高の権威だ」と主張して、カトリック総本山から禁止されていた聖書の母国語への翻訳、英訳に踏み切った。当時ラテン語は協会の権力者や司祭などのエリートしか読むことができず、民衆は読めなかった(p161)
・1453年、ビザンツ帝国、コンスタンティノープル陥落、これにより古代ローマの発祥からおよそ2200年にして栄光のローマ直系の帝国は消えた、これを機にローマ帝国の直系を名乗る者が出現する、東ローマ帝国=ビザンツ帝国の東方正教会をバックボーンにしたロシア、モスクワ大公国イヴァン4世は、カエサルをロシア語にした「ツァーリ(皇帝)」を名乗り権威づけをした(p177)
・1554年、世界初のコーヒーハウス、コーヒーの成分え有名なものはカフェインである、大脳皮質を刺激するので神経の興奮を鎮め、眠気を引き起こす原因となる分子の誘導体の合成をブロックする、チョコレートのカカオの成分であるテオブロミンとカフェインとは構造的にほんの些細な違いしかない、メチル基のある(カフェイン)かないか。コーヒーが普及するまでは、人々が朝から飲んでいたのはビールであった、飲水は上水道が整備されていなかったので危険であったから。コーヒーは人類をまともな社会へ更生させてくれた(p203)
・1667年、スパイス諸島の発見、ナツメグとグローブの原産地はアジア人やアラブ人の商人によって秘匿されていたが、大航海時代にポルトガルがインドのゴアやマレー半島のマラッカに植民都市を建設してスパイスの島々を探し回った、1511年にポルトガルがスパイス諸島を発見、ポルトガル・オランダ・スペインはスパイス貿易をめぐって軍事衝突を繰り返し、1621年オランダはナツメグ・クローブを求めてバンダ諸島を武力占領した、その後、オランダとイングランドは衝突し、1667年にオランダのブレダで講和条約が結ばれた、オランダはスパイス諸島であるバンダ諸島の支配を認める代わりに、北米大陸の小さい島、ニューアムステルダム(後のニューヨーク)をイングランドに譲った(p221)
・1709年、コークス利用の製鉄、産業革命の基盤を築く、1722年ライ麦に含まれる麦角アルカイドという分子が原因で多くの人(ピュートル大帝の命を受けたコサック軍)が亡くな李、ロシア帝国の南下政策=黒海進出への夢を打ち砕いた、欧州から恐れられていた3大病気は、1)ハンセン病、2)ペスト、3)聖アントニウスの火と呼ばれたライ麦の中毒である(p233)
・1769年、ウェッジウッド人気=陶器の大量生産開始、焼物は、1)土器、2)陶器、3)磁器に分かれる、低温で焼いて粘土成分が反応で固まったものが土器、高温で粘土成分に化学反応が起こり生じたガラス成分が粘土の成分をくっつけているのが陶器(益子焼、瀬戸焼きなど)もっと高温で処理することでガラス分がメインとなったのが磁器(有田焼、九谷焼きなど)で、真っ白が特徴であり、絵が描かれる(p237)水を沸騰させて紅茶を淹れることの影響、沸騰させることと茶の抗菌成分で、都市部での汚染された水による赤痢などの感染症が急激に減り、工業都市の人口が増大した(p239)茶葉は発酵が進むと烏龍茶、完全に発酵すると紅茶になる、カテキン類が酸化して赤くなるので(p241)
・1800年、ヴォルタ電池の発明=人類初、電気の流れを取り出すのに成功、電子を出しやすい金属の亜鉛から電子が出て、これが電池の負極(マイナス)となり、外部回路に流れた電子は銅板の方に帰ってくるので、銅が正極となる(p258)
・資本主義とは、あらゆるコト、モノを貨幣、つまりカネで交換できる「商品」として扱う社会システムである。商品の生産・消費がひたすら拡大し、全世界に向かう。資本主義の発展とともに、封建的な社会構造が壊され、人・モノが自由に動ける合理的な統一国家を目指すようになる。1861年にイタリア統一、1865年にはアメリカ統一(南北戦争後)、1868年には日本が統一、1871年にはドイツ帝国誕生(p264)
・1845年、黒色火薬の終焉、1000年続いた黒色火薬の時代が、新しい火薬=ニトロセルロースにより終わりを迎える(p312)
・1855年、製鉄の新技術=転炉法、りんが少ない鉄鉱石を使った場合は転炉法が成功した、アメリカの大成功したが、欧州ではダメであった。石灰石を投入する(=塩基性転炉法)とリンを多く含む鉄鉱石でも使えるようになった(p333)
・1856年、合成染料の幕開け、アカネから得られる赤色染料のアリザリンを完全合成する手法を発明した、これによりフランスの名産であったアカネの天然色素の産業は瞬く間に衰退した、BASFは1897年に、天然の藍より安い価格でインディゴの大量生産を初め、これによりインドの藍の産業は壊滅した(p344)
・1866年、無線と海底ケーブルの進化、ヴォルタの電池から電気の時代が到来すると電気の研究が急速に進む、1837年にはモールスが点と棒の2種類の符号を電気的な信号にしたモールス信号を考案し、電気による通信の時代が開かれた。1876年にはベルが電話機の特許、1895年にはマルコーニが無線通信を発明した、さらに海底ケーブルで世界へ発信可能となった。日本では1866年から。電気式の通信と海底通信ケーブルで、世界が一気に狭くなった(p360)
・1867年、鉄筋コンクリートの発明、コンクリートは圧縮に強いが引っ張りに弱い、鉄は圧縮されると曲がるが、引っ張りには強い、この両者を結びつけた最強の建築材料が、鉄筋コンクリートである。(p364)コンクリートの中性化の速さは2年で1ミリ、一般的にコンクリートの厚さが3センチとすると60年で鉄の周りが中性化するので、メンテナンスが必要(p367)
・1886年、アルミの大量生産開始、1キロ1万ドルが40セントにまで下がる、酸化アルミニウム(これを多く含む鉱石をボーキサイトという)を溶かすには融点が高く(2054℃)コストがかかるが、氷晶石を約1000℃で溶かして液体にしてから酸化アルミニウムを加えると、アルミニウムと酸化物イオンになり、ここに電極を差し込んで電気分解すると陰極から発射された電子がアルミニウムイオンに押し付けられてアルミニウムが生じる(p391)
・1892年、ファッション革命、レーヨンにより高価なシルクに変わる安価な人口シルク(人絹)ができるとファッション産業に革命が起きた(p405)
・1894年、ペスト菌の発見、細菌学の発展に大きく発展した北里柴三郎、ジフテリアという感染症ではその毒素をブロックするために作られた抗体を動物で作り、その抗体を含んだ血清という成分を患者に注射して治す、血清療法という新しい治療法を確立した(p410)
・1900年、量子力学の誕生、宇宙スケールで速い物体とか��星系などの巨大な質量のものになると、時間と空間=時空が変化して、その計算には相対性理論が必要になる、さらに電子や光子といった質量が極めて小さいものの世界では、量子力学が必要になる(p429)
・1928年、ペニシリン(抗生物質)が人類を救う、世界の平均寿命は11世紀には24歳程度、1900年には31歳、現在は70歳くらい、低い平均寿命の理由の一つとして、乳幼児の死亡率が高かったことにある、ペニシリンなどの抗生物質が発明されて様々な感染症が治療できるようになった(p478)
・1935年、ナイロンの発明=世界初の完全に人工の繊維、伝線(傷が着くと裂ける)しにくい特性から、No Run(=伝線しない)をもじって「ナイロン」が商標名となった(p501)
・1937年、ポリエチレンの発明、レーダーの部品とケーブルには高周波を絶縁する素材が必要になる、そのための優れた物質が、ポリエチレンである。絶縁性と強度、加工性において夢のような物質であり、ポリエチレン無くしてレーダーはできない。(p508)イギリスやアメリカ連合軍はレーダーの生産、配備、改良を加速させ、第二次世界大戦において、イギリスはドイツによるロンドン空襲を阻止、ドイツ軍潜水艦の通商破壊作戦も阻止できた(p511)アメリカは、合成ゴム・ハイオクガソリン・ペニシリン・マンハッタン計画(原爆製造)に象徴されるように、科学者を動員、組織化して大量生産できる工業力を見せつけた(p525)
2022年2月19日作成
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よくここまで調べ上げたなという感じではあるが、1つ1つの項目はかなりあっさりめで、読み応えがない。
化学専門外で雑学的に知りたい人向けかと。
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なぜ世界の歴史が作られたのか、原因はどこにあるのか、すごくわかりました。
わかりやすさ★★☆
ワクワク ★★☆
泣ける ☆☆☆
笑える ☆☆☆
怖い ☆☆☆
感動 ★★☆
伏線 ☆☆☆
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2022/9/17 ジュンク堂三宮駅前店にて購入。
2024/1/10〜1/16
河合塾講師の大宮氏が、人類の歴史を化学の側面から語る壮大な世界史。こうやってみると、化学における発見が人類の歴史の大きな転換点になっていることがよく分かる。面白かった。
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世界史とともに、科学技術(化学)の発展進化を追っていきます。人類は科学の進歩とともに人口を増やし、戦争をし、生活水準を上げてきた。新たな発見は病気の治療などにも役に立つが、使い方次第では大量殺戮の武器になってしまう。効果も大きければ副作用も大きい。
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「本書は、第二次世界大戦までの人類と化学の壮大なドラマを、世界史通の化学鉄人講師がまとめたものです。出来事の表層的な羅列ではなく、社会や政治、戦争といった出来事の根本にある「物質」を主人公に、それらがどうやって影響し合ってきたのかというつながり、歴史の因果関係がわかる解説になっています。
宇宙誕生、生命誕生の話にも触れたあと、ホモ・サピエンスの登場。火薬あり、石油あり、香辛料あり……。「4万1000年前ごろ=赤色顔料の利用」「前4000年ごろ=ビールの誕生」「815年ごろ=イスラームの錬金術」「1846年=エーテル麻酔手術」「1920年=プラスチックの時代」「1942年=ペニシリンの実用化」などの大見出しがあり、それぞれのテーマを深掘りしています。
600ページに迫る大著ですが、「文系」の人でもスラスラ読める、超おもしろ講義です。」
内容説明
火薬、石油、香辛料…楽しく読めて教養が身につく!宇宙誕生、ホモ・サピエンス登場…。第二次世界大戦までの人類と化学の壮大なドラマ。
目次
宇宙の誕生、すべてはここから始まった
先史時代
古代文明
地中海世界の形成
ローマ帝国の時代
ローマ帝国の滅亡とイスラームの勃興
モンゴルとイスラームの時代
ルネサンス
大航海時代
科学革命
産業革命と市民革命
資本主義から帝国主義へ
20世紀の始まり
第1次世界大戦
二つの世界大戦のあいだ
第2次世界大戦
著者等紹介
大宮理[オオミヤオサム]
東京・練馬区に生まれ育つ。都立西高校卒業後、早稲田大学理工学部応用化学科で機能性高分子化学の研究室にて研究するも、父親の自己破産で極貧のため大学院にも進学できず、誰にも惜しまれずに卒業、化学の予備校講師に。代々木ゼミナールで衛星放送の授業などを担当したあと、河合塾講師として現在は中部地区の河合塾で授業や教材、模擬試験作成を担当する。学参など多数の著作がある。
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日本では太平記辺りの時代(1300年頃)に、ヨーロッパでは蒸留酒が出現していて驚きました
ワインを蒸留してブランデーに、ビールを蒸留してウイスキーにというのは知らなかったので、ここの記述だけでも得たものはあったなと思いました
もちろん、それ以外にもたくさんの発明や失敗があって、読んでて楽しいです
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世界史を化学の視点で追う本。
化学に関する物質や技術を歴史順に紹介していく。
誰が発明して、誰が発展させて、そしてどんな活躍をしたかがわかる。その頃、日本はこんなことしてたよという紹介も嬉しい。
発明または発見したからといって、幸福な人生を送れるとは限らないんだなあという人も大勢いた。
広く浅く知るには良い本である。