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ー 以来、技術とイノベーションはエネルギー転換の要因になってきた。そのためには着想や発案から技術やイノベーションが生まれ、さらにそれらが最終的に市場へといたる必要がある。これは必ずしも短期間で起こるわけではない。エネルギーはソフトウェアとは違う。現に、リチウムバッテリーが1970年代半ばに発明されてから、路上を走る車に使われ始めるまでには、30年以上かかった。近代的な太陽光や風力の産業は1970年代初めに誕生したが、規模が拡大し始めたのは2010年以降だ。しかし、デジタルから新素材や人工知能、機械学習、さらにはビジネスモデルなどまで、イノベーションのペースは、関心の高まりとともに加速している。背景には、気候対策や政府の支援もあれば、投資家の判断、異分野の企業やイノベーター間の協力、技術や能力の収斂もある。
何がいつ起こるかは、関わる者の才能や、開発を支える資力、真剣さ、困難に負けない気力、創造性の豊かさにも左右される。イノベーションからは、破壊的なものであれそうでないものであれ、新しい技術が生まれ、それによってエネルギーと地政学の新しい地図が形成されることになるだろう。しかし地図は直線的に進む未来を保証するわけではない。ある程度の頻度で、思いもよらぬ妨げに見舞われ、そのつど進路変更を余儀なくされることは間違いないだろう。シェール革命も、2008年の金融危機も、アラブの春も、2011年の福島の原発事故も、電気自動車の復活も、太陽光のコストの急落も、世界的な大流行を引き起こす感染力の恐ろしく強いウイルスの出現と経済の暗黒時代も、米国の政治を揺るがした2020年の大規模な抗議行動も、予期せざるものだった。
しかし、予期でき、備えられる妨げもある。わたしたちがそれによって具体的にどういう道を進むことになるかまでは描けないとしても、はっきり「見えている」ものもある。1つには気候をめぐる困難の数々がそうだ。しかしそれだけではない。緊張が高まり、分裂が進む世界秩序においては、国家間の衝突もそうだと言える。 ー
ウクライナ侵攻の前に出版された作品だが、世界で起きている資源戦争の今が分かる作品。
僕たちアラフォー世代は10代の頃に『沈黙の春』を読み、環境問題に向き合わなければならないと教育を受けてきた。にも関わらず、その後の30年間、ほとんど何もして来なかった罪は重たい。
そして僕たちは来年40歳になる。次の25年で何を実現出来るのか、それが2050年の未来の姿を決める。そう考えると、僕たちの年代の責任が非常に重たいのがよく分かる。
僕たちは本来は、世界を変えなければならないのに、日々の小さな仕事に振り回されているのはいったい何故なんだい???
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化石燃料は政治力に関わっている
各国が政治的な影響力の支配を避けるため、なるべく分散して化石燃料を輸入している。
欧州はロシアの依存を減らそうとしているが、ドイツは大丈夫か?電気料金が上がる未来しか見えない。
中国がかなり政治的影響力を強めている。
今後のエネルギーは自国で作れるようになることが理想?
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著者のヤーギンは現在進行中の話も小説のように描いてみせ、読み手を引き込む力がある。この本はエネルギーという人類史に不可欠な存在を通じて過去、現在、未来を活写している。500ページあまりある大著だが楽しくて苦もなく読めた。国際関係、エネルギービジネスに関心を持ち始めた高校生くらいには必読の書にしてもよいのではないか。
前半のアメリカ、ロシア、中国、中東の各地図はヤーギンの真骨頂。シェールガス・シェールオイルなどすでに知られたストーリーもあるが、彼は世界全体のエネルギー地図を紡いでみせる。シェール開発に賭けた経営者、プーチンの代理人ともいえる石油会社のトップ、サウジアラビアの王子、、、出てくる登場人物の表情が浮かんでくるような感覚になる。個別事象と歴史、展望そして人物画結びつくと物語は俄然おもしろくなる。
ただし、イタリアの哲学者・歴史家クローチェが唱えたように、「すべての歴史は現代史である」という視点は忘れないでおきたい。
後半の自動車の地図は前半ほどの驚きはなかったが、ヤーギンの問題意識は理解できた。気候変動に関する危機感もよく理解できる。
最後の南シナ海の4人の亡霊はヤーギンらしい終わり方。中国の海洋の冒険主義、航海の自由と国際法、地政学とシーパワー、戦争で得するのは誰か?ーー。の古くて新しい話しを改めて認識できる。中東は昔から火薬庫と呼ばれるが、南シナ海も然り。あと個人的には中央アジアも加わるのかなと考えた。
本が出たのがコロナ禍がまだ収束していない時点であり、かつロシアのウクライナ侵攻、イスラエル・ガザ戦争は起きていない。この辺りは読者が想像を膨らませて自ら考える訓練にもなるかなと。
邦題の「新しい世界の世界の資源地図 エネルギー・気候変動・国家の衝突」は資源が前面に出ており、国家の衝突が新しいステージに入ったという要素が伝わりにくいかなと感じた。英語のタイトルはThe New Map:Energy,Climate,Clash of Nations であり、個人的にはこちらの方がしっくり来る。
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2023年5冊目。満足度★★★★☆
「米国で最も影響力のあるエネルギー問題の専門家」による世界を読むとく書の最新刊
500ページを軽く超える厚さに、怯みそうになるが、毎日少しずつ時間をかけて読み終えた。
本書を読めば、エネルギー、気候問題や地政学の今に関する基礎的な知識を得られるであろう
私には第4部「中東の地図」の箇所が、知識不足のためか読むのが辛かった。
アメリカのエネルギーに関する状況が、10年くらい前と今では「様変わり」していることが印象に残った
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エネルギー問題特に石油を中心として地政学的に今どのような問題が起きているのか、アメリカロシア中国中東など世界中の情勢について語られている。 かなり読み応えのある本。
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新しい世界の資源の地図を読んで
第一部 米国の新しい地図
・マクロを見ることは大切
→シェールガスで天然ガスの供給量が急激に増えて、天然ガスが下落することを悟ったEOGは、シェールオイルに舵をきった。
・シェールオイルによって、アメリカは世界の主要な石油プレイヤーになった。これは、経済的にも地政学的にも重要。
→各国との貿易で赤字を減らす要因になる。自国でエネルギーを賄えるようになったことで、地政学的にも優位な立場になった。国際的な安全保障を実現しようとした時、強硬策に出られる余地が出てきた。
・メタンガス流出問題
→シェールオイルに限った話ではないが、設備やパイプラインから漏れ出るメタンガスが問題になっている。回収すればお金にもなる。
・今や2000億円以上がアメリカ国内の化学関連設備の拡張に投じられている。
→天然ガスは燃料としても、化学製品の原材料としても使われる。安価なエネルギーが唯一の理由ではないが、中国等の人件費の安い国から再びアメリカ国内に投資が戻る結果となった。
・今もなお続くエネルギー投資
→メキシコやブラジルなど技術を持たない国は今なお世界から注目されている。ただし、他国を受け入れるかはその国次第。技術を海外に持ち出すことができれば、高い利益を上げられそう。
・パイプライン建設は容易ではない
→ 環境保護団体の反対を食らったり、大統領によって意見が変わったり、大変そう。
第二部 ロシアの地図
・ロシアの強さ
→広大な国土。莫大な量の核兵器とミサイル。サイバースキルも高い。世界に出ていこうとする意志もある。とりわけ天然資源もある。
・ウクライナにあるもの
→天然ガスの欧州向けのパイプラインがある。そこにウクライナが関税をかけている。なお、パイプラインはロシアの所有になっている。
そこで、ノルドストリームなどウクライナを回避するパイプラインが建設された。
・欧州のエネルギー政策
→①天然ガスのシステムのレジリエンスを高め、長期契約ではなく需要と供給で価格が決まる市場を形成すること。②脱炭素と高効率化、再エネ化
・2014年ロシアはクリミア併合
→軍を派遣し、住民投票で再統一を発表。欧州諸国の民間機を撃ち落とすこともし、EUからも反感を買う。アメリカは経済措置を取るが、これが長期化すると、他国はアメリカに依存しなくなり、経済措置の意味が薄れる可能性もある。
・ロシアは、まだまだ石油のポテンシャルがある。
→北極海やシベリア盆地など。
・近年、ロシアは東シフト
→特に中国との結びつきを強めている。
中国もロシアが重要なパートナーとしているが、エネルギー比率で言うと2%程度で、輸出額も米国の1/10である。クリミアの時の米国の制裁にも従っている。
・中国とロシアの一致
→西洋の普遍的な価値観や規範に対する拒絶。国家主権の経済運営の一致。米国の覇権的地位への反発。
第三部 中国の地図
・中国はアメリカと並ぶ大国
2008年の金融危機を脱したのは中国のおかげ。それにより存在感が強まった。軍事力等もある。しかし、エネルギーと人口動態に課題を抱えている。
・中国とアメリカの火種
→台湾、最も大きいのが南シナ海。
貿易戦争もある。アメリカは、中国を米国の利益と価値観に相入れない世界を築こうとする大国とみなした。略奪的な経済力で近隣国を威嚇する一方、南シナ海で島々の軍事拠点化を進める中国は、戦略的競争相手。
・南シナ海
豊富な海洋資源があり、また貿易の要衝にもなっている。中国の原油輸入の80%がここを通る。そして、中国は自国の海域であることを主張している。国際法では認められなかったが、中国はそれを無視。(9段線と言われる国境線を見ると言ってることのヤバさがわかる。)海軍にも力を入れている。
・中国のエネルギー事情。
現在、中国は世界一のエネルギー消費国。エネルギーの構成比率は、石炭6割、石油2割、天然ガス6%、残り再エネ。よって、エネルギーの地政学が中国政府の最優先事項になる。
・中国とASEAN
東南アジアは、安全保障面では米国と統合されているが、経済面では中国と統合されている。
・一帯一路
中国とユーラシア全土とをインフラ、エネルギー、投資、通信、政治、文化を通じて繋ごうとしている。新しいシルクロード。西側とは特に思想の違いはあれど、大規模な資金能力(投資、貸出)を武器としている。しかし、借り手が債務不履行になれば、中国に優位を許すため、注意が要る。
・各国の動き(予想)
多くの国は、中国の新しいグローバル経済に加わりたいと考えている。しかし、同時に自国の行動の独立も確保したいので、ロシアや米国の関係を使って、中国影響力の増大とのバランスを取ろうとするだろう。ただ、最近米国は世界の問題から手を引きつつあると多くの国に見られている。インドという大国は一帯一路に不信感を持っており、動きが気になる。
第四部 中東アジアの地図
・イラン革命
ホメイニ師は、シーア派の聖職者が支配するイスラム共和国を作ろうとした。そして、この革命を他国にも広げようとした。
・アメリカの中東関与のきっかけ
イラン革命や、ロシアなどからペルシャ湾地域の支配権を守るために深入りすることに。
・イランとサウジアラビアの対立
シーア派とスンニ派の争いに期限。現在、イランは「単一の世界的な共同体」の建設を目指して革命を広げようとしている。(イラン革命)
・シーア派とスンニ派
イスラム教の9割はスンニ派。シーア派国家のイラン。スンニ派国家のサウジアラビア。
・イラクを巡る争い
イラクはシーア派が多数を占める国であった。フセイン時代にはイラン革命の道が閉ざされていたが、フセイン打倒後、再びイラン革命の標的に。しかし、アメリカもシーア派の騒擾に対抗するため介入。さらに近年ではISISとの戦いもある。現状、主にイランにより、イラクはかなり弱体化している。
・イラクのランドブリッジ
現在、イランからイラク、シリア、レバノンに至る。イラン革命の波及地域。
・イエメンの現状
カオス国家になっている。もはや国家として機能していない。イラン系のフーシ派が力をつけており、サウジアラビアと戦争にもなっている。アラビア半島の南端だけに地理的に重要な意味を持つ。
・東地中海の資源
近年、イスラエルやキプロス付近で大規模な天然ガス田が見つかった。しかし、今のままでは争いの海になりかねない。
・ISISの誕生と発展、衰退。
世界を支配するカリフ制の復活が目標。ゆえに、国民国家への拒絶がある。イスラエルの建国には断じて反対であり、世俗化の脅威である米国にも抵抗。ムスリム同胞団からアルカイダが生まれ、イラクとシリアのアルカイダからISISが生まれた。ISISは、石油関連施設なども支配し収入を得た。またSNSを使って戦員を集めた。しかし、2019年には米国の参戦もあり、シリアも奪還。トップも討ち取った。ただ、戦闘員が未だ残されているのは事実である。
・アルカイダの作戦方針
アラブ諸国の政権や米国、世界経済を攻撃する手法として石油に重点が置かれた。
・石油の価格について
石油は生産しようと思えば供給過多にでき、現に2014年には急落した。しかし、その後OPECプラスによる減産の合意が取られ、2016年に上昇に転じた。しかし、2018年トランプが石油価格の上昇を拒んだり、米中の貿易戦争により石油価格は下落に転ずる。
・中東とロシアの関係
ロシアはサウジアラビアやイラン、シリアなどと対話ができた。サウジアラビアにとっては、ロシアは米国との関係悪化に対する防衛手段になったり、イランとの対立でも利がある可能性があった。OPECプラスにより2016年には石油価格の下落を防げた。
・新型コロナウイルスと石油生産量
自国が減産し、他国が減産しないとシェアを奪われる可能性がある。また新型コロナウイルス蔓延当初、ロシアなどは米国のシェールのシェアを取るいい機会だと考えていた。しかし、マイナス価格などの懸念もあり、皆の減産で合意した。
第五部 自動車の地図
・電気自動車
・自動運転車
安全・安心・プライバシーをめぐる議論に加え、連邦政府と州政府の役割分担を決める議論もある。
・ライドヘイリング
・目指す世界は、事故ゼロ、排出ゼロ、渋滞ゼロ
第六部 気候の地図
・太陽光発電のシェアについて
現在7割が中国で生産され、原料のポリシリコンの生産に関しても6割を占める。
・将来のエネルギー構成
→太陽光、風力、水力などが増えるだろう。安定供給の観点から蓄電池も気になるところ。
・現状を打開する技術
→現時点では、実質炭素ゼロへのエネルギー転換を進められる技術はない。しかし、可能性が高いものはある。
貯蔵とバッテリーの技術、改良型原子炉・小型原子炉、水素、3Dプリンター、建築技術、送電網の近代化、CCUS技術、DAC。
・途上国の現状
電気のない暮らしを送る人が10億人。近代的な調理用器具が使えない家に住む人が30億人。この30億人は薪や炭などを家で燃やし室内大気汚染に晒されている。
・インドのエネルギー革命
LNGを増やしたり、太陽光の開発を行なっている。目指��ているのは、「天然ガスを基盤にした経済の先駆けになること」
・温室効果ガス対策の影響
エネルギーの生産や輸送や消費のあり方、戦略や投資も、技術もインフラも国家間の関係も変わり続けるだろう。異業種の企業間で提携や競争が顕著になる。
・途上国の成長
ここ20年の石油消費量の増大は、途上国によるもの。人口と所得が増加している。
・石油の将来の需要について
コロナ前に1億バレルだった消費量は、2030年代半ばにピークを迎え、2050年には1億3000バレルになると予想されている。思い切った施策が実施されても6000万〜8000万バレルにしか下がらないとされている。
・鉱物資源に関して
太陽光発電わ電気自動車が普及するほど、必要な鉱物資源を確保する必要が生まれるだろう。需要の増大に伴っては、鉱物安全保障とでも呼ぶべき、サプライチェーンの構築が大事になる。
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500ページを超える読み応えのある本。この一冊で現在のエネルギー資源と世界の勢力地図を総覧しようとしている。近年、エネルギーと地政学にまつわる世界地図がどのように塗り替えられたかを、石油・天然ガスの主要な生産あるいは消費国・地域である米国、ロシア、中国、中東と、エネルギー問題に関する二つのテーマ、電気自動車、気候変動問題を中心に詳細に描き出している。
米国で2000年代初めにシェールオイル、シェールガスが採掘され、増産が軌道に乗ると、世界的な政治・経済のバランスが大きく変化した。経済的には、2008年のサブプライムローンによる金融危機で疲弊した米国の経済が復活した。安価な石油が生産できることで産業が米国に戻ってきた。しかしもっと大きな変化は、米国が石油の輸入国から輸出国に変わったことであり、それは国際政治のバランスを大きく変えるものであった。1970年代のオイルショックからイラン革命までの過程にみられるように米国は中東との関係に頭を悩ませてきた。その理由の一つは、石油の安定供給のためであった。しかし「シェール革命」によってその懸念は後退し、国際情勢に対して「強硬策に打って出られる余地」を作り出した。中東に対する関与のあり方の変化や、ロシア・中国に対する強硬策などは、その背景にシェール革命がある。
ロシアは世界の三大産油国の1つに数えられる。石油・天然ガスはロシアの主要産業であると同時に、国際戦略上の武器でもある。ロシアを世界の超大国として復活させるというプーチン大統領の目論見を実現するために最大限活用されている。ノルド・ストリーム建設をめぐるヨーロッパ各国との綱引き、石油・天然ガス供給を求める中国への接近。ウクライナ侵攻後のロシアが欧米からの経済制裁にもかかわらず、持ちこたえているのは豊富な石油・天然ガス資源があるからだ。
中国は米国とともに世界を2分する大国となった。米中両国で世界のGDPの約40%、軍事費の約50%を占めている。為替レートで算出されたGDPで比べれば、米国は中国経済より大きいが、購買力平価で計算した場合は中国が世界最大になっている。
中国の「一帯一路」構想はアジア、ユーラシア、その先にまで広がる経済圏を形成し、世界経済の中心に中国を据えようとする。その目的は、中国製品のための市場と、必要なエネルギーや原材料を確保することにある。しかし一帯一路はどこまで経済的な企てなのかはわからない。阿片戦争以来の「国辱の百年」の克服を唱えており、国際秩序の中で勢力を増し、「中華帝国」を復興しようとしているようにも見える。領海については、東シナ海及び南シナ海のほとんどは中国固有の領海であると主張しており、その根拠は1936年の地図に描かれた「九段線」に基づいている。しかもその海は公海ではなく、外国の海軍は中国からの許可なく航行してはならないという。しかしこの主張は、国連海洋法条約にもとづく「航行の自由」に反している。西側の「普遍的価値」への挑戦でもある。今や米中間の相互依存関係は崩れ、経済と安全保障の問題をめぐる対立、米中経済のデカップリング論、軍拡競争となっている。
オスマン帝国の支配下であった中東に国境線を引いたの��、1916年のサイクス・ピコ協定であったが、それはイギリスとフランスの勢力争いの賜物であった。以来、中東ではイスラムの権威を復活し、カリフ制による支配を取り戻す運動がたびたび起こってきた。エジプトのムスリム同胞団にはじまり、アルカイダそしてISISにまでつながる。2014年、シリアからイラクに進撃したISISは「サイクス・ピコ協定の終焉」を高らかに謳った。中東の国境線はもとより不安定であるが、イスラム教内のスンニ派とシーア派の覇権争いによって各国の外交、内政が複雑化している。
20世紀以降中東各地で発見された石油と天然ガスは富と権力の基であり、砂漠の国々の経済を支える重要な資金源である。しかしやがて訪れるであろう「石油需要のピーク」を前にして、新たな産業の模索も始まっている。「シェール革命」によって米国の中東への依存度が減り、政策に変化が起きたことは、中東各国を疑心暗鬼にさせている。今までのような米国一辺倒ではなく、ロシア、中国への接近を図る動きも見られる。
電気自動車、「移動のサービス化」(Mobility as a Service : Maas)、自動運転は世界の石油産業と自動車産業に大きな影響を及ぼし始めている。乗用車とライトトラックは、世界の石油需要の35%を占める。電気自動車の増加は、石油需要に直接の影響をもつ。ウーバーのような配車サービスは、自動車は所有するものから、利用するだけのものに変えていく。自動運転技術は、自動車をハードウェアからソフトウェアに変え、自動車産業に大きなインパクトを与えている。そして今後ドライバーの雇用にも大きな影響を与えるかもしれない。
2015年11月に開催されたパリ気候会議でパリ協定が採択され、今世紀中の気温上昇を産業革命前に比べて2度未満に抑え、できる限り1.5度以内に抑えることを目指すため、各国が行動することが取り決められた。「パリ前」と「パリ後」は大きな時代区分となった。「エネルギー転換」へと大きく舵を切ることとなったが、しかしそれは人間の活動からいっさい炭素を排出しない「炭素ゼロのエネルギー」なのか、それとも「実質炭素ゼロ」のシステム、つまり炭素を吸収するメカニズムによって排出量を相殺するシステムなのか。どのように達成するのかについてのコンセンサスはまだない。「再生可能エネルギー」開発のため、太陽光と風量による発電は急ピッチに進められている。しかし太陽光や風力にしても鉱物資源や土地の確保が必要であり、それらの獲得のために大国は覇権争いを繰り広げる。新しいエネルギー構成おいても地政学が展開されるのは、今と変わらない。
この本の最後は、米中対立の焦点の一つである南シナ海について触れて終わっている。普遍的な法秩序と民主主義を標榜する日本としては、米国とともに中国・ロシアと対峙していくべきなのであろうが、エネルギー資源の乏しい日本がロシアと完全に袂を分かつことができるのか、経済大国となった中国とデカップリングしても日本の経済は持ちこたえるのか。答えが見つからない。
米中対立、欧米対ロシア、ヨーロッパ世界対イスラム世界、世界各地で起こる目まぐるしい勢力争い。気候変動(今や気候危機)を含む地球規模の課題が山積する中で、こんな争いごとをしている場合なのだろうか?!
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いやー、難しい…。哲学系以外で理解に時間をかけたのはホント久々かも。まぁその難しさが面白いわけなんだけど。
エネルギーを生み出すのに必要な石油/天然ガスが大国アメリカから採れるようになった「シェール革命」から本書は始まる。ロシアやサウジアラビアからの輸入を必要としなくなる上、色々な国へエネルギー源を輸出することが出来るというのは、各国の関係性を変えるのに十分だったわけだ。
ロシアや中国、中東の危うさも同様に、このエネルギー源に由来している部分もある。エネルギー源は金になるからこそ、それを手に入れようと誰もが争うのだな。
一方でコロナや再生可能エネルギーにより、石油/天然ガスの価値というものも変わってきている。身近な例で言えば電気自動車など。石油/天然ガスの価値が下がれば、それによって成り立っていた国々は方針を改めざるを得なくなる(サウジアラビアなどがいい例だ)。あるいは、レアアースがそういった石油/天然ガスの枠に収まっていくのかもしれない。
エネルギー1つとっても世界情勢全体を俯瞰しなければならず、「地政学」という一言がいかに汎ゆる意味を孕んでいるかを示してくれる超良書。難しいしまとめきれないんだけど、非常に納得感のある一冊でした。オススメです。
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世の中には、「学校では教えてくれないけど、分かっていた方がいいこと」が多すぎると思いませんか。まったくもう。
この本、「エネルギーに興味あるんだったら、読むといい」と素敵Guyに勧められ、いや、特にエネルギーに興味あるわけじゃないんですケド・・・と思いつつも、近所の図書館にちょうどあったし、正月休みに入るところで読む時間もあるしで、素直に言いつけに従い、読んでみた。
で、最初の言葉になるわけです。
エネルギーの地図、つまりエネルギーをめぐる各国の戦略、めっちゃくちゃ大事じゃないですか? 世界情勢を読み解く上で。
え? 今ごろ何言ってるって?
こういうのはちゃんと学校で教えるべきじゃないでしょうかね。
世界の紛争の裏に資源あり、てことを、もう少ししっかりと。世界の国々は人道的・政治的な理由だけで戦争したり他国に干渉したりするわけじゃないんですよって。
歴史の時間ちょっと削ってもいい気がするなぁ~。
たとえばシェール革命が他国との外交交渉上の姿勢をこんなにも変えちゃうなんて、やっぱり知っておくべきよね。
ダイベストメントがこれまでに削減したGHG排出量は、おそらくおよそ0トンだろう、っていうビル・ゲイツの言葉もけっこう考えさせられた。
石油の値段が下がり過ぎると困る原理とか、シェールがショートサイクル、とかいうエネルギーごとの産出事情とかも何気に重要情報ではないでしょうか。
モディ首相の言葉「グローバルサプライチェーンはコストだけにもとづくべきではありません。信頼にももとづくべきです」と言って、中国依存を減らそうとしているのもなるほど、と思ったし。
「電気自動車はガソリン車の6倍、風力タービンは天然ガスの発電所の9倍、それぞれ多く鉱物を使用する。鉱物の需要は急増するだろう。その増加率はリチウムが4300%、コバルトとニッケルが2500% にものぼる」「世界の三大産油国の産油量が世界の産油量に占める割合は約30%だが、リチウムの場合、上位3ヵ国が供給量の80%以上を占める」っていう鉱物をめぐる状況も、なんだかヒエエエエな事実でした。
そしてアップデートも大事。
気候テックをめぐる投資と政治関連のニュースなんて、この本の後、今年(じゃなかった、もう去年か)1年だけでずいぶんいろいろあった気がする。
でも、表のニュースを見ているだけじゃ、なかなかそれぞれの事象が頭の中でつながらないので、こういう親切な解説本をときどき読むって大事ですね。
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近年の地政学とエネルギー分野の激変に関して、米露中、さらに中東、気候変動ごとに読み解いていく。
アメリカの項ではシェール革命の経緯、ロシアの項ではソ連崩壊後エネルギー大国として欧州に影響を与えてきたが天然ガス市場の変化等によりそれが変わってきたこと、中国の項では経済や軍事の成長とともに拡大したエネルギー需要や一帯一路構想、中東では石油と天然ガスによる富と権力と石油需要ピーク後への関心の移動、気候変動の項ではパリ前とパリ後のエネルギーの地図の変化などを主に扱っている。
シェール革命がガソリンの値段だけでなく、2015年イランの核合意や欧州のロシア依存の軽減など、地政学的に大きな影響を与えていたことを具に知ることができた。ソ連崩壊にあたってソ連財政の命綱を断ち切ったのは原油価格の急落だったこと、ノルドストリーム2を巡るヨーロッパでの意見対立、イランが中東地域で行使している影響力、電気自動車や自動運転、Uberの発展、気候変動を巡る国際世論の形成などについても新たに知ることが多かった。
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この一冊を頭に入れるだけで、世界を見る目が変わる気がする。高レベルで広範囲のエネルギー事情が解説される。国防においても経済においても重要な課題であり、教科書にすべきほどの決定版ではないだろうか。あまりに密度が濃過ぎて、年跨ぎで読む事になった。メモ書きの抜粋に書評を添えて以下に記す。
アメリカはシェール革命の結果、石油と天然ガスのどちらにおいても、ロシアとサウジアラビアを一気に抜いて、世界最大の生産国になった。現在では、世界屈指の石油と天然ガスの輸出国でもある。アメリカは、エネルギーをほぼ自給できるようになった。
何十年にもわたって、世界の石油市場を規定してきたOPEC加盟国対非加盟国と言う捉え方は、ビッグスリー(アメリカ、ロシア、サウジアラビア)と言う新しいパラダイムにとって変わった。
1991年ソ連の崩壊により、ウクライナは初めて主権国家となる。その際に生まれながらにして世界第3位の核保有国となった。1900の核弾頭をソ連から受け継いだ。しかし、1994年のブダペスト覚書で放棄し、ロシアに譲渡された。そのかわりウクライナはロシア、イギリス、アメリカからウクライナの既存の国境を尊重すると約束を取り付けた。2005年の時点で欧州に輸出される天然ガスの80%がウクライナのパイプラインを通っていた。
オレンジ革命以降、ロシアは天然ガスの価格交渉で態度を硬化。今まで安価にウクライナに天然ガスの未払いや価格を理由に、ウクライナへの供給を停止。アメリカはロシアに抗議。
世界で最も重要な通商航路と言われる南シナ海。スプラトリー諸島は、もともと波に隠れて、水上から見えない岩サンゴ礁があちこちにあるような危険な海域であった。南シナ海を通る世界貿易の額は3.5兆ドル。中国の海上貿易の3分の2、日本の海上貿易の40%以上、世界貿易の30%を占める。中国が輸入する原油の80%は南シナ海を通過、食料安全保障の面でも重要な水域であり、世界の漁獲量の10%、マグロ類の漁獲量の40%。
中国のエネルギーの85%は、今も化石燃料で、石炭の占める比率が60% 。石油は20%だが、輸入量は世界最大であり世界の総需要の75%。輸入される石油のほとんどは中東産であれアフリカ産であれ、南シナ海の前に狭いマラッカ海峡を通る。
南シナ海で見つかる資源の大部分は原油ではなく、天然ガスである可能性が高い。
1933年スタンダードオイルオブカリフォルニアがサウジアラビアで油田を探す権利を獲得。1938年に掘り当てた。1930年、ヒジャーズネジド王国がサウジアラビアに改称。1950年代に世界の生産量が増え始め、石油収入が流れ始めたが、石油による富の時代が本格的に始まったのは、1973年の石油危機で、原油価格が4倍に跳ね上がった時から。そこからサウジアラビアは豊かな国に。
欧州では、電気自動車にも風力タービンにも必要とされる。レアアースが95%を中国産が占める。欧州で使われているコバルトの60%は、元はコンゴ民主共和国で算出したものだが、実際に欧州に輸入されるコバルトの80%以上は中国で精製。
箇条書きでは文脈が繋がり難いが、そもそもウクライナ情勢も中東情勢も、南シナ海における問題もエネルギー確保が遠因、あるいは直接的な理由であり、その極めて重要な課題に加えて、カーボンニュートラルが作用していくというのが世界的な流れである。この事は本書を読まずとも認識済みかも知れないが、その詳細について、理解の助けになる本だ。
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地政学が流行った時期に見つけて購入。アメリカのシェール革命、ロシア、中東、中国のエネルギーを巡る情勢がNHKのドキュメンタリーのように克明に描かれている。事実の羅列ではなく実在の人物の言葉や行動と共に綴られており臨場感がある。中東の情勢に疎かったのでこの本でだいぶ勉強になった。
一方で気候の章は自分の専門に近いからか知っている話が多くやや物足りなさもあった。
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原油、天然ガス、レアアース…資源の地政学を知らずして世界情勢を語るべからず。歴史や経緯を含めた全体を本書で俯瞰できるため、新聞やテレビなどの媒体よりも深い理解を得ることができる。
そもそも産油国ってほとんど中東中心だと思っていたが、中央アジアから北中南米、アフリカまでかなり広い範囲に渡っていると改めて認識させられた。それに対してコベルトやリチウムなどは中国とコンゴに産地が限定されているのが不気味で、代替材料の実用化が喫緊の問題に感じさせる。
フラッキング技術によるシェール革命で米国がエネルギー自給自足になったことはザックリ知っていたが、ギリシア出身の移民が事業的なリスクを背負いながら突破口を開いた経緯などは知らなかった。しかし従来型と違ってコストがかかることと、大手メジャーのような資本金が少ないプレーヤーが多かったことから価格下落で壊滅的な打撃を受け、業界再編が進んだとのこと。気候変動への対策でフラッキング禁止の勢力もあるがエネルギー安全保障や経済優先の観点からシェールオイル採掘は継続しそう。
ロシアへの制裁でノルドストリーム2が対象になったが、ロシアによる設備の自給を促しただけで供給量全体を見れば米国の制裁は政策ミスだったのではないか。
中国の覇権姿勢によってWTOコンセンサスが終焉した、とは非常に厳しい時代に到達してしまった。日本も安全保障をしっかり見直して東南アジア諸国やインド、米韓との連携を強化する必要がある。
中東ではイスラエルとハマスの戦闘やシリア内戦が騒がれているが、イラン革命の攻勢やトルコによる影響など、まだまだ懸念材料が多く、地域の安定化はまだまだ実現できそうにない印象。イラン革命の思想はいかにも革命的だが、国民国家を否定して中世的なイスラム国家を広めるために他国に部隊や武器を送り込むとは、ただのテロ国家そのものに思わせた。ソレイマニ殺害の事件は大きなニュースになったが、本書を読んでどういう人物か改めて認識を深めることができた。
南シナ海に潜む4人の亡霊が付録としてあるが、非常に面白かった。鄭和ってもともと明朝のムスリム捕虜だったとは…ほかに「海洋の自由」のグラティウス(オランダ)、「海上権力史論」のマハン、戦争は無益と主張したジャーナリストのノーマン・エンジェルが挙げられている
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なんかすっげースラスラ読めるけどぶっちゃけ全然アタマに残ってねえ。
タイトルの和訳に配慮というか苦労が見えた。