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昭和31年、芦原温泉で起きた火事は強風に煽られ、ほとんどが焼け野原となった。小説の冒頭にその悲惨なシーンが描かれ、物語のキーとなる場面も含まれている。
ライターの大路亨はガンを患う元新聞記者の父親から辻珠緒という女性を探して欲しいと頼まれる。聞けば、亨の祖母が興信所を使って珠緒の祖母のことを何度も調べさせていたという。珠緒は一世を風靡したゲームクリエイターだが、行方不明になっている。
亨が珠緒を知る人を取材して回るうち、彼女が芦原温泉で育ち、複雑な家庭から逃げるように京大へ進学したこと、当時はまだ珍しかった女性総合職として大手銀行に入ったこと、老舗和菓子店の御曹司と結婚するも離婚したことなどが明らかになる。
第一部「事実」には、12人の証言が並ぶ。第二部「真実」は、亨が多岐にわたる人物への取材録。いずれも、次から次へと人物が変わり、第一部の証言が第二部に絡んできたりするので、読むのにエネルギーが要る。
しかし、著者は、多くの人からの取材を通し、様々な話の中から珠緒という「個」の歩みをあぶり出していくという手法にこだわったそうだ。
昭和の芦原温泉、男女雇用機会均等の黎明期、昨今のゲーム依存症というように昭和、平成、令和の社会情勢を散りばめ、その中で珠緒の不遇と苦悩、そして真実の姿が徐々に浮かび上がるように構成されている。
「当事者の話を聞いていくことで、自分の浅はかな予想は裏切られ、そうして先入観の皮を一枚ずつ剥いでいった末に残った芯。それが社会の一端というものではないだろうか」亨が最後の方でつぶやくこの言葉に著者の思いが込められているような気がした。
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ジャーナリストの主人公が、父親の不思議な
依頼を受けてそれに纏わる辻珠緒と言う女性に
行き当たる。
ゲームクリエイター、元エリート銀行員そして
京大卒と言う華麗な経歴の辻珠緒の人生が
色々な人物のインタビューから少しづつ
謎が解き明かされて行く。
ミステリアスな彼女の人生は、祖母、母、自分
と現在まで見えない鎖で繋がっていた。
段々核心に繋がるそれぞれの人々と玉緒との
関係そして父の依頼の内容の全貌が明かされる。
主人公の祖母そして珠緒の祖母どちらも
時代にそして人生に翻弄され、珠緒もその
運命の渦に巻き込まれた一人だった。
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昭和・平成・令和の3時代に渡って展開する、本書の著者である塩田さんの過去作『罪の声』に似た構成のリアリズム小説。元新聞記者の父から、(突然失踪した)ある女性を探してくれと依頼を受けたライターが、多くの人にインタビューしながら女性を探し出す… ドキュメンタリー作家の取材過程を小説化したような内容で、「家族間の問題」「ゲーム依存問題」「就職格差問題」など、数多くのテーマが盛り込まれている。取材の過程で判明した多くの謎が、最後に一気につながるのがうまい。塩田さんの作品好きの人にオススメ。
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祖母に関わる疑問から聞き込みを行ってゆくうちにわかってくる、行方不明の女性の存在。
さらに調べてゆくうちに明らかになる女性の壮絶な人生。
実際にあった福井の大火をモチーフに、ドキュメンタリーのように紡いでゆく物語。
骨太の作品ではあるが、導入部分で視点を定めづらく、何が起きているのかわかりにくかった。
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京大卒のゲームクリエイター辻珠緒。彼女は苦難に満ちた青少年時代を過ごすが、持ち前の賢さを発揮し、福井県随一の進学校から京都大学に進学し、大手銀行の女性総合職第一期入社組となるも、京都老舗の御曹司と結婚し寿退社する。しかし、老舗を継ぐ家に馴染めず離婚後に、幼少の時から大好きではまっていたゲームの世界に入り、ゲームクリエイターとしてヒット作を連発する。そんな彼女が失踪し、フリーライターの大路は記事ではなく個人的に調査を行う。その背景に浮かび上がってきたのは福井の大火、やくざ者の実父と異母兄、義理の父親とその異母弟、高校時代の恩師などの人間関係が複雑に絡み合い調査は難航する。しかし、この著者ならではの僅かな手掛かりから徐々に真相に近づいていく展開がなかなか面白い。ラスト、そもそも大路が珠緒の行方を調べる端緒となった、父からの辻静代を調べてほしいという願いと、珠緒の失踪の繋がりがこの話のキモとなっている。でも個人的には少し物足りなさを感じた小説であった。
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過去を捨てた人生や日本海という舞台はかの「砂の器」を彷彿とさせる。
前半が聞き取り、後半が謎の究明という構成は苦肉の策らしいが、読みづらさはともかく、そこまで効果を上げている感じもしない。
やくざ者に台無しにされた2つの家族の人生。
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読み応えがあり著者の作品としては期待通りのストーリー制と奥深さがあった。著者10年目の作品として、制作にかけた熱量・意欲等を含めて出版社によるPRが目につくもののベストセラーと言える程の盛り上がりがなかったのは、「リアリズム」と言う言葉と共に著者が追求したことに対する分かり難さの為ではないかと感じた。
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記者で主人公である大路は父親からある女性について調べてくれと頼まれる。しかしその女性は行方が分かっておらず人のつてから調べることになる。調べていくうちに時代に翻弄され、男に暴力を受けた悲惨な過去が段々と明らかになっていく。実際に起こった大火を物語の中に組み込み、記事のような文体で書かれていたのでスッと入ってきて読みやすかった。
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著者の新たなステップになったんだろう作品だが、「罪の声」の面白さを知った後ではすごく色褪せてみえる。関係者のインタビュー取材から「辻珠緒」とその母と祖母の3代期を紡ぐことによって報じることの意味(「ひったくり」の特集という形でも明言されている)を問う、のが主題なんだろうが、語りたいことがあり過ぎた文章が延々と続き、結局主題がボヤけて、「辻珠緒」像も曖昧なまま。かなり我慢して最後まで読んだが、本当に期待外れで残念な一作。
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ハラハラドキドキの塩田ワールドだけど、張られた伏線回収に向かう証言あまりに長いし、そこまで執念、怨念持ち続けられるのかも疑問…。「この世に公平な場所ってあるんかな?」「マスでなく個人の人生を追い続ける中で見えてきた人間という大河を言葉にする世界」三代の女性の人生描きながら戦前からの80年の社会の移り変わり検証されてる。
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珠緒さんは何も悪くないのに、自分は幸せになってはいけないと、ずっと思って生きてきた。時代的に難しかったと思うが、常識を逸した悪人と関わってはいけない。家族であろうと、なんだろうとどんな手を使っても、痛みを伴っても、法律の範囲内で全力で振り払わないといけない。
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何も成し遂げてないから調べられることもないだろうが、自分の過去は自分目線だけで良くて、客観的な検証はして欲しくない。
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ライターの大路は、元新聞記者の父から、ある女性に会えないかと相談を受けます。
一世を風靡したゲームの開発者でしたが、彼女は突如姿を消していました。
珠緒の友人や元夫、銀行時代の同僚等の取材を重ねる大路。
取材の先に見えてきたものは、昭和三十一年に起きた福井の大火でした。
数々のインタビューから見えてくる真相は?
解き明かされていく謎が興味をそそり、一気に読了です。
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珠緒の生き様に集約される親子三代の不遇は読み応えあるストーリー。それを追う主人公のライターとして真摯な姿勢も読んでいて心地良い。ただ、辿り着く真実に共感するには記者という職業に対する理解が不足していた模様。
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福井地震は知っていたけれど、芦原の大火は知らない。
東尋坊は知っているけれど、雄島は知らない。
近くなのに歴史も地理もうやむやだけれど、昭和からの変遷になぜか懐かしさを憶える。
親子3代の2つの物語が最後に繋がる。
内容はまったく違うものの、罪の声と同質の舞台感、ストーリーの緻密さに圧倒された。