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表題作は人が死んだ後に「葬式」ならぬ「生命式」を行うことがスタンダードになった世の中を描いたもの。「生命式」とは故人の肉を食べた後に男女が妊娠を目的に受精を行う儀式のことで、人肉食という刺激的な設定も面白いし、ラストに向けての盛り上がり方もうまい。そして何より、我々が「正常」と捉えているものに対する違和感の表明の仕方が村田さんらしくてカッコいい。
表題作以外では「魔法のからだ」「街を食べる」「孵化」が印象に残った。この3編に共通するのは表題作のような特殊な設定が登場人物の内面や行動に限定されている点で、それ以外は我々の住む世界とさほど変わらない、村田作品としては割とおとなしめの設定なんだけど、かえってそれが新鮮に感じた。
初出の時期はバラバラで、雑誌に掲載されたままお取り置き状態となっていた(放置されていた)短編の寄せ集めのようだが、これまで単行本に収録されなかったことが信じられないほど、どの作品もレベルが高くて面白かった。傑作。
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〝クレイジー沙耶香〟短編集。
表題作「生命式」
お葬式の代わりに行われるようになった、「生命式」という儀式。
今の常識から考えるとなかなかエグくて驚いてしまうのだけれど。
〝この世で唯一の、許される発狂を正常と呼ぶ。〟
「消滅世界」にも〝世界で一番恐ろしい発狂は、正常だわ。〟という台詞があったけれど。
世界は常にグラデーション。
正しさ、はその時々によって変わっていく。
*
最後の「孵化」がよかった。
それぞれのコミュニティで使い分ける「キャラ」。コミュニティに呼応して作られるわたしの性格。
ここまで極端ではないにせよ、コミュニティに応じて自分のキャラが少しずつ異なるのは普通のことだよな。周囲に適応するための幾つものペルソナ。
「夫婦」という最少人数のコミュニティ…
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今回は、村田ワールドが広がった短編集がぎゅっと詰まった、濃厚で最高な一冊でした!大満足。
やっぱり村田さんの本は、読み始めはその世界観に大きな衝撃を受け、受け入れられない違和感と不快感が逆撫でする感覚だが、
読み進めるにつれて自分の感覚も見事にその世界観に「順応」していて気づけば不快感や違和感は無くなっていて、ワクワクと好奇心でいっぱいになっている。。
この不思議な感覚は村田さんの本全てで体験している。
今回も同様。だが今回は特に短編集というのもあり、一気にたくさんの世界を旅できて、とっても満足感がある。
現実ではありえないような設定とその世界観での妙な現実感を感じるものがほとんどだが、
最後の「孵化」は、特に自分ごとに落とし込んで考えられた。
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図書館にて。
久しぶりに村田さんの本を読んだ。
本当に頭がおかしいと思った。
なんだこれは。
ちょうど同じタイミングで「呪術廻戦」だの「不滅のあなたへ」だの未知の生物が出てくるそこそこおどろおどろしい漫画を読んでいたのだが、それどころではない気持ち悪さ。
それはしかも自分自身の価値観のようなものを揺さぶられる。
最初の「生命式」の山本のカシューナッツ炒めでもうやられた。
どの作品もどうにも言いようがない、ただ圧倒される。
そしてこの人の言葉でどの出来事も肯定されているように感じるところが怖い。本当はこっちが正しいのではないかと。
怖いけれどこの人の本は全部読んでみようと思う。
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正しいって何?とちょうど思ってた時に読めてよかった!
死んだ人を食べる、だけならそんなにおかしくないと思うんだけど、そこで受精と絡めてくるのがこの人の1歩先の狂気だと思う
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バスの中にいる全ての人間が、その”正しさ“で私を糾弾していた あの時私を裁いた倫理なんて何処にも無かったんじゃないか、と憤っているというだけなのだ。 「いえ、思いません。だって、正常は発狂の一種でしょう?この世で唯一の、許される発狂を正常と呼ぶんだって、僕は思います」 「僕には決められない…。わからない…わからなくなってしまったんだ。『残酷』という言葉も、『感動』という言葉も、今朝まで確信があって使っていたのに、今は、どうしようもなく、根拠がないんだ」 薄い膜に包まれた血液と肉の塊か蠢き 蒲公英と親しんで楽しんで頃の記憶が蘇った 手作りの蓬餅 愛撫でもするように彼女の共感を撫で回しながら サステナブル(持続可能)でラグジュアリー(贅沢)
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10篇近くの短篇がまとめられているものだが、その全てに一貫して「正常とはなにか」というテーマがあり、読んでいくうちに自分の持っている常識が二転三転していく様が面白かった。
たくさんのお話の中の必ず一つは、長い間忘れられない物語として心の中に引っ掛かり続けていくと思う。
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著者の別作品「コンビニ人間」を読み興味を惹かれたので購入。「普通とは何か」「周りに同化して生きている個人」のようなテーマは通底していそうだった。が、普通ならざる人々を書いた短編がいくつも続くと若干胸焼け気味になってしまうところがあったかもしれない。最も好きだったのは「街を食べる」。終わり方はともかく、著者の描く奇妙な部分が日常生活と丁度良くマッチしており、読み物としての面白さが高かった。また、「かぜのこいびと」も個人的に好み。詩を短編にまで膨らませたような趣を感じた。表題にもある「生命式」は、インパクト十分だが、それゆえストーリー自体の印象が読んでいて薄かったような。インパクトを求めて読むのであれば問題ない。
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故人の肉を食べたり、死体を装飾品にすることが当たり前になった社会。
異常な価値観へと変わった社会で、古い価値観の中に取り残されてしまった人。変わらない社会の中で、異常な価値観を持ってしまった人。そうした人たちの中には、そんな自分自身に正直に生きられる人もいるし、生きられない人もいるが、12編の短編の登場人物たちは、皆、自分の異常さを受け入れていく、と言うと聞こえがいいが、読者としては絶妙に共感できたりできなかったりする異常さがある。
読後、全く記憶に残っていなかったのが、「大きな星の時間」だった。4ページの本書の中でも極端に短い短編で、ファンタジックな世界設定と、児童文学風の文体も、他とは毛色の違った作品になっている。
ある女の子は、パパの仕事の都合で、遠い遠い国にある、小さな街に引っ越すことになる。その街は、崖の向こうから飛んでくる魔法の砂によって、誰も眠らない街であった。最初は喜ぶ女の子だったが、公園で出会った男の子に、魔法に一度かかると、たとえ街を出ても、二度と眠ることができないのだと教えられて、涙を流す。
自分は、生活の中で、嫌なことがあると、とりあえず眠って、起きるとまた1日が始まる感覚がある。眠ることが持っているリセット感は、とても、大切なような気がするが、この街では、それがない。女の子が、涙を流すのも、理解できるように思う。
最後に女の子は、大人になったら一緒に「気絶」しようと、男の子と約束する。でも、「気絶」することは、眠ることとは、やっぱり違う。
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歴史、他民族文化を好んで漁り、また、幼少期に海外生活をしていて帰国後に自分の常識がひっくり返った経験が実際にある身としては少し陳腐に感じられてしまった。
それでも短篇なので「次はどうくるか?」と最後まで読ませてしまう力がある。
単に自分には合わなかっただけかな。
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短編集。最後の「孵化」に一番心惹かれた。本当の自分とは何か、と問う時にだけ存在するまぼろしなのかな、と思う。
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思わず目を背けたくなるような描写。と同時に、自分では絶対に想像できない世界観から生み出される物語。どうしても気になってページをめくってしまう。今生きている現世にも、もしかしたらあり得るのではないだろうか。とにかく凄い。
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世界観が面白かった。最初らへんは気持ち悪 ~ってなったりとか。何編かあるなかでよくわからないのもあったりしたけど村田さんの作品他も読んでみたい。
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狂った作品の群れだった。
私の価値観からすると狂った設定だけれど、その作品の中では当たり前の価値観で当たり前のように社会が回っていくのがすごく興味深かった。
一番目の短編なんか最たる例で、『生命式』という作品の中での常識に面食らった。
でも読み進めると、そこで動く個人の気持ちは共感できてしまう。
そこが面白い。
好きな作品は「素晴らしい食卓」と「孵化」。
「素晴らしい食卓」は『ある人から見たら常識だけど私から見たら非常識』という事実が幾重にも重なっていることを感じられた。
「孵化」は誰しもがちょっとだけしている内緒のことを自分の目の前にひっぱり出されたようだった。
この本を読むという時間の中で、自分の大事なものの位置が数ミリ移動したような気がした。
それを狂うというのかもしれないなと思った。
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村田沙耶香の作家性を知りたいならまず一番に読むべき短編集だろう。
生命式
葬式という文化を一新させた世界。その世界では人が死ぬと弔いとしてその人間を皆で食い、式の中で生命の源とする。三者たちは性交の相手を探し、行為を行い命を循環させる。
異常な光景に思えるがそこに生きている人間たちはそれな文化になっているのだ。
文化とは人々の持つ常識である。カエルを食う文化もあれば豚を神の使いとし、決して食さず崇める常識もある。なんだったらコミュニティとして大勢で性行為を行い、皆の子供を皆で育てる社会だって存在している。
村田沙耶香はこの作中でそういった常識の価値観を平らかにし、生命の循環性を導きだしている。
主人公は人体を食う文化に軽度な違和感を持っている。(実社会を生きる私たちからすると彼女も十分"異常なな価値観"の持ち主ではあるのが)なんせ幼少期の頃はそんな異常行為を誰も行っていなかったのだ。
そんな時、親しい同僚の生命式が取り行われることとなる。死体を彼の希望通りに調理し、食し、式を行う。その巡りの最中にいることで主人公は世界に思いを馳せていく。
価値観など自己ルールに過ぎない。皆がそれは当然だと思っているが三者的に見ると意地臭いものだったり、気にし過ぎだろなんて一蹴されるようなものだったり。
例えば、精液という言葉を日常で耳にすると不潔な印象や性的な嫌悪感を抱くことが多い。それはまぁ、「汚れ」だ。
だが、作中ではそれは生命の源と描かれネガティブな印象はない。ラストシーンで主人公は地球の呼応を受け入れ、体内に源を取り込む。
村田沙耶香作品の共通項である普遍的と異常の差異をとてもなだらかに感じさせる作品だった。
孵化
多面的ではない人間など存在するのだろうか。
家族にはぶっきらぼう。友人には義理堅い。恋人には依存気質。初対面相手には変に謙る。これが同一人物であったとして、その変わり目に立ち会ってギョッとすることはあっても、実際聞いても変は印象は持たない。
主人公は自分の性格を無さを自覚しており、コミュニティによってキャラクターを演じ分ける。それが一番場に適応できるからだ。だが、結婚式となると話は変わってくる。各コミュニティが一斉に集うなどどう振る舞えばいいのだということだ。
人格のコントロールなんて皆大なり小なりしているだろうが、村田沙耶香はここまで構造的に導き出し、作品として完成させていく。
違和感を引いた視線で描き、なだらかに、だがそれでも歪みを見逃さず世界を創り上げていく。
正常なんてない。やはり村田沙耶香は特異な強い書き手であると感じた。