投稿元:
レビューを見る
「掃除婦のための手引書」が良すぎて、ルシア・ベルリンの書いた話もっと読みたくて着手した短編集「すべての月、すべての年」。
メキシコ、コロラド、カリフォルニア、テキサス、アメリカ大陸南部の土地をメインの舞台に生きる看護師、家政婦、教師、母親、ジャンキー、アルコール中毒患者の話たち。
どの話も一貫してとにかく悲惨。もっと悲惨なのは描かれてる人たちがどれだけ悲惨で孤独な状況にいるのかいまいちわかっていないところ。
ひどい環境、ひどい境遇で生きる女性たち(ときどき男性も)のエピソードに一瞬他者の手が差し伸べられる兆しが描写されたりするけど、救われた気持ちになるのはただの錯覚で実際は何一つ解決していない。でも何だか可哀想って言葉だけでは片付けられない不思議な短編集。
警察に捕まった人たちも、アルコール中毒でデトックス(禁酒施設)にぶち込まれた人たちも、何もわからないまま身寄りもなく妊娠しちゃった女の人も、ほとんど迷いなく本能的にその日を生きる選択をしているのがすごく人間らしくて、不謹慎なのかもしれないけど強くて素敵だと思ってしまう。
ルシア・ベルリンはもちろん小説家なんだけど、彼女の作品集がもしミュージシャンのアルバムなんだとしたら、捨て曲なし。こんなに生きる強さを描いた短編たちを書ける人なかなかいないと思う。
投稿元:
レビューを見る
自分には合わなかったかな。
メキシコやアメリカ南部の街の貧しい人々を、等身大に描いているように思われるが、ドラッグ、喧嘩、セックスが当たり前のように描かれている。
小説としたら、話題となっているものを中心に読むが、主人公が思うこと、情景を細やかに描写し景色が見えてくるような書きぶりのものが多かった。
しかしこの短編小説は、動詞が多いように感じる。テンポが良いとも取れるかも知れないが、何だか落ち着かなかった。
投稿元:
レビューを見る
短編集19編
アルコール依存,麻薬,貧困,文盲,人種による偏見などやりきれない状況とそれにとらわれない自由が混じり合った,あちこちに作者の分身も顔を出す作品群.
「虎に噛まれて」「笑ってみせてよ」が良かった.
投稿元:
レビューを見る
きらびやかなアメリカ文学とは対照的な作品。
救いのない終わりもある。
ただ、それが悲しいだけでなく誰かにとっては当たり前の光景なのかもしれないと考えさせられる。
アルバカーキ、行ってみたくなりました。
投稿元:
レビューを見る
所属する読書会で「掃除婦のための手引き書」が猛威をふるった(?)年があった。
みんなが口々にいい、とにかくいい、素晴らしい、と言う。
ふーん。
ちょっと気にはなったが、すぐに手に取る機会がなく、そのまま数年経った。
今回、同じく「掃除婦のための手引き書」から、そのボリュームゆえに分冊された、後半の一冊たる本書を手に取った。
そのことは知らずに読んだ。
縁があった、それが良かった。
読んでみて驚く。
あけすけで、あけっぴろげで、あっけらかん。
生々しい。スピード感がすごい。
でもこれが人生でしょ?という彼女の声が、ページのどこを見ても吹いてくる。
人生が好きなんだなあ、人間が好きなんだなあと思う。
一編を読んでみて、ああコレ好きだなと思う。
次の短編を読めば、ああコレも好き、と思う。
優しいし、あつい。
観察は鋭く、言葉はスッキリ。
ウィラ・キャザーと少し似た雰囲気を感じた。
ラテンアメリカの肉感なウィラ・キャザー。
余談だけど、表題作の「すべての月、すべての年」の舞台であるジワタネホ。
これって、S・キング「刑務所のリタ・ヘイワース」(=ショーシャンクの空に)のゴールになった街じゃないの。
…全然イメージが違うんだけど!
こんな所なんだー、よその人から見たら楽園ぽい土地だけど、地元民は姦しくて、けたたましく猥雑で生々しい街なんだなーと、どこか可笑しく愛おしく思った。
それにしてもこの短編、ラストで溺れてたひとはどうなったんですか…。(続編らしきものにも出てなかった)
好きな作品は
エル・ティム、視点、メリーナ、友人、、、というかもう全部。
笑ってみせてよ、は特にインパクトがあった。
自伝的作品が多いけど、これもほとんどノンフィクションなんだろうな。
美しく、楽しく、儚く、図太く、読んだらフラフラになる一編。
それにしても、酒は怖いし、クスリも怖い。
(展開から、ペタジーニを思い出してしまったよ…笑)
この作家を読めて良かった。掃除婦も機会があれば必ず読みます。
投稿元:
レビューを見る
「掃除婦のための手引き書」を購入して積読してあるのに、それをすっ飛ばして本書を図書館で借りて読んでしまった。
どちらから読んでももちろん問題ないのだけど笑
ひとまず感想というか印象としては、基本人生の陰と陽があれば、本書に収録されている19の短篇のうちのほとんどは陰。もしくは陽の中にも陰が差す、みたいな切なさなどがあった。
決して気分が高揚するような話ではない。
なのにどの話もものすごく惹きつけられる。
なんでだろうと思ったら、著者であるルシア・ベルリンの描くこれらの物語が、文学としてエンターテイメントでありフィクションでありながらありふれた現実ー悲喜劇ーで、親しみやすいからかもしれない。
正直悲劇要素の方が強いのに、そのうえ生々しさもあるのに、あまり読んでても落ち込まないというか、グイグイ読ませられる。
著者は悲劇とも呼べる人生のあれこれを決して悲劇で終わらせない。それは良い方に向かう兆しが見えるから、というわけではなく(見えそうな話もあった気がするが)、それでいいじゃない、と肯定するような描き方をしているからかもしれない。
人生の酸いも甘いも、それどころでない苦しみもすべて、人生として肯定する。
物語に出てくる登場人物の人生をまるまる否定しないというか。しっかりとこんな人だよって描写がされているのに、悪い意味でレッテルを貼っていないというか。
私はそう感じた。
たとえば「笑ってみせてよ」は、むしろ、それまでのマギーことカルロッタとジェシーの様子を見てきた後では、今後の2人にあまり良い未来は待ち受けてはいないように見える。破滅的な未来すら見える。それでも最後に描かれる2人は、幸せそうなのだ。
お涙頂戴なところがないのも、好きだと思う理由かも。
いい意味でアメリカ文学を読んでいる気が全然しない作品集でした。
そのうち買って何度も読み返したい…そう思える。
ちなみに好きな短編は、「視点」「哀しみ」「泣くなんて馬鹿」「情事」「笑ってみせてよ」「ミヒート」…ってやっぱりほとんどじゃないか笑
「502」も印象深かった。
掃除婦のための手引き書も早く積読消化したい。
投稿元:
レビューを見る
前作に続いて好きな本だった。平坦だけどいろいろ書かれているような,That's lifeって言われているような。
ケイトブランシェットで映画化されるのか。ちょっと楽しみ。
投稿元:
レビューを見る
クリスマスに帰郷する”わたし”。その身の上に今まさに起こっていること……実家で実母とその姉妹が大ゲンカの挙句、手首を切って自殺未遂。彫刻家の夫は妊娠した”わたし”を捨てて渡欧して帰ってこない。なんでも勝手に決めてしまう従姉妹のベラ・リンが手配した闇医者の元へ国境を越えて行って、中絶手術を受けようとしている。
「虎に嚙まれて」で始まる19篇の物語が納められた『すべての月、すべての年』。先に出版された『掃除婦のための手引書』と合わせると全部で43篇。もともとはすべて一冊の本に収録されていて、邦訳して出版する際に2冊に分けることになったようだ。
2分冊とはいえ、描かれている43もの物語はすべからくルシア・ベルリンの人生を追想させる。濃密で暴力的で、愛があってとても孤独な、そしていつも薬か酒で酩酊している、その間に不意に思い出す人生の断片のような短い物語。凍るように冷静で突き放したような筆致なのに、ひとつ読むたびに、ひとつ心に生傷を負うような、こんな作風の作家はほかにいないと思う。
大事なことなんてこの世に一つもありはしない、本当に意味のある大事なことは。
最低で最悪の人生の底から、ハッとするような真実を見出して、それを自分の身を守る大事なナイフのように握りしめて離さない。そしてその鋭い言葉を、読む人に投げつけてくる。けれどそれは怒りでも絶望でも諦めでもない。
それでもときどきほんの一瞬、こんなふうに天の恵みがおとずれて、やっぱり人生にはすごく意味があるんだと思わされる。
ルシアはきっと知っていた。本当に意味のある大事なことはこの世には存在しない。けれど心揺さぶるかけがえのない一瞬があるから、生きていけるのだと。最低で最高の人生を。
投稿元:
レビューを見る
『掃除婦のための手引き書』のルシア・ベルリン短編集。
もともと43篇を収録した『A Manual for Cleaning Women』から選択されたのが先の『掃除婦のための手引き書』で、残り19篇が『すべての月、すべての年』として、日本では2冊に分けられて刊行された模様。
まあ、全部そのまま出版するには長いですからね。『掃除婦のための手引き書』のヒットを受けて残りも邦訳されたというところでしょうか。
『掃除婦のための手引き書』がそうであったように、短編集といってもそれぞれの話はどこかで重なっていたり、全部がルシア・ベルリンの人生を反映するものであったり。
ガンで余命一年と宣告された妹のサリー、自殺未遂を繰り返した母親あたりの話は『掃除婦のための手引き書』にも出てきたけれど、同じモチーフをまた別の視点で書いている。
主人公がアル中だったり、シングルマザーだったり、病院や学校で働いているのも彼女の人生からの引用だろう。
貧しかったり、人種差別をされていたり、病気を抱えていたり、孤独だったり、基本的に登場人物たちは過酷な人生を生きているのだけれど、ルシア・ベルリンのバイタリティなのか、どの話にも暗さがなく、諦めとも違う肯定感のようなものがある。これが人生であり、私はこうして生きてきたというような強さ。
もちろんすべてが実体験そのままではないだろうけれど、息子の友人と恋仲になってしまったり、旅先の漁師の家に転がり込んでしまったり、彼女ならさもやってそうだなという気がしてしまう。
以下、引用。
41
歴史のある学校はおしなべて、硬く静かな殻で子供たちを守るものだけれど、この学校にはそれだけではない何かがあった。
56
たぶん、わたしたちはみんな心がとても弱いのだ。
59
その後は『ジェシカおばさんの事件簿』を観る。
80
何年も病院で働いてきて一つわかったことがあるとすれば、それは容態の悪い患者ほど音をたてない、ということだ。
今ではわかる、ナースたちの無感動は病気にあらがうための武器なのだ。戦い、蹴散らすための。願わくば無視するための。患者の気まぐれをいちいち聞いてあげていたら、患者はますます病気でいることに安住する。これは真理だ。
155
互いに満ち足りている人たちは、怒りや退屈で煮えくり返っている人たちと同様に口数が少なくなるものだ。ちがうのは会話のリズムだ。片やのんびり続くテニスのラリーのよう、片やハエをぴしゃりと叩く一撃のよう。
199
いまジェーン・オースティンを読んでいる。室内楽のような文章、なのにすごく芯に迫ってて、それでいてユーモラスなの。
218
司祭さまが母親たちも祝福してくれればいいのに、とわたしは思った。彼女たちにもなにがしかの印をつけて、神のご加護を与えてくれればいいのに。
288
テレビで『バークレー牧場』を観ているときにジェシーが言った。「なあ、どうしよう。結婚する、それとも自殺する?」
333
たしかにトビーたちは、ときに結婚や家族を崩壊させる。でもそ���ならないとき、彼らは正反対の作用をもたらすように見える。彼らを家族にもつことで、人はそれまでそんなものがあることさえ知らなかった強さや、気高さや、よくも悪くもうんと深い感情を、自分や相手のなかに見つけるようになる。一つひとつの喜びはより甘美になり、使命感はより磐石になる。
投稿元:
レビューを見る
そして,今回もすごい作品集だった.
『掃除婦のための手引き書』では,活字を読むだけで原色の風景が頭の中に飛び込んでくるような感覚だったが,今回は登場人物の世界に入り込んでしまったような臨場感,色より音とか匂いとか,目に見えない感覚がリアルな輪郭を創り上げているような読み応えだった.
いずれ2冊を交互に読み返してみたい.
投稿元:
レビューを見る
言葉のリズムが心地よくて。
匂い立つ花々、荒涼とした土地、殺伐とした建物、生活感あふれた街角、、訪れたことのないアメリカやメキシコの風景がまざまざと眼前に再現される。
「情事」や「友人」のような、軽やかな短編も良いけれど、表題作と「ブルーボネット」の、作者の自伝のような作品が特に好き。焦燥感、生命力、好奇心、倦怠感と投げやりさが混じり合った独特の感じが知的でシニカルで情熱的で。彼女の人生を綴った長編が読みたくなる。
投稿元:
レビューを見る
ルシア・ベルリンの著作は印象的な登場人物が多い。
世間的にはダメ人間、ロクデナシと言われるような人物たちや、困窮して生活が苦しくても必死に生きる人々。そんな人物たちの一面ではない多面性を丁寧に見据えながら、悲喜を描く。
作品の多くは苦しさや辛さを描いていながらも、暗くなりすぎない。
距離を置いてはいるが、突き放してはいない。人物への優しい視点がある。
そこにこの作家が信頼出来る所以がある。
前作の短編集も良かったが、今作も間違いない傑作。
投稿元:
レビューを見る
アルコール依存症に悩ませられながら、波乱の人生を2004年に終えたベルリンの作品集。自身の生き様を題材として、簡素で、クールな文体で描かれている作品からは、そこはかとない、人生に対する温かみが感じられます。
投稿元:
レビューを見る
カルメンとミヒートが好き
けど全部良かった。
海外文学は夜寝る前に読むのが私には丁度いい。
酔ったときみたいにゆらゆらして気持ちいいのでよく眠れる気がする。
翌日になると内容をあまり覚えていないところもお酒に似ている。
投稿元:
レビューを見る
とにかく苦しい内容ばかり。
病気、薬物、強姦、堕胎、貧困。
人生って思い通りにいかないもんなのよ。
それをネバネバした表現ではなく、サラッとすごいスピードで書くこの方はすごい。
でも苦しかった〜。
色んな人物が出てくるのに、記憶に残るほど一人一人が濃ゆい。一瞬しか出ない人物さえも濃ゆい。
ところどころに繋がりのある人物が出てきたり、同じ人物が出てきたときには何度も、これ短編だったよね?と確認しちゃった。