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演劇界の俊英 横山拓也の初小説。名作『粛々と運針』をベースにした物語。母親の死に直面する兄弟と子どもを産むか産まないかでもめる夫婦の物語という骨子はほぼ同じだが、およそ半分くらいは、演劇では描かれなかった物語で、『粛々と運針』を別の側面から語り直したような趣。
一番大きな違いは、演劇で描かれていた3組のうちの1組が存在しないこと。当初は描かれているように見えるのだが、話が進むにつれ、実はその2人はあの2人ではないことが判明。あのファンタスティックな設定は演劇ならではの仕掛けで、小説にはうまくフィットしないと判断されたのだろう。
もう1つの大きな違いは、演劇における「築野一」と「田熊應介」の2人が「田川静生」という1人の人物として統合されていること。最初は、欠けている要素はあまり無いにもかかわらず、何故か人物が1人少ないことに戸惑ったが、そういうことだったのかという感じ。
視覚的なアンサンブルが重要な演劇においては、2人ずつのペアにするため、2人のキャラが別々に存在する必要があったが、確かにこうしてみると一と應介を1人のキャラに集約し、2ペアではなく、沙都子を加えたトライアングルにするのは、非常に理にかなったことに思えた。
他にも母親の死後の話まで描かれるなど多くの違いはあるが、個人的に衝撃だったのは、「金沢さん」がちゃんと登場人物として出てきたこと。ある時期までの横山戯曲は「話題には上るが直接舞台に登場しない人物」が重要な役割を担っていた。金沢さんは、その最たるものだった。
その金沢さんが、実際に出てきて台詞を喋る衝撃たるや。イメージとしては『海辺のカフカ』のナカタさんなど、何だか村上春樹の小説の登場人物っぽい。それに限らず、全般にどことなく村上春樹を思わせる部分があるのは、現代の日本文学全般に村上春樹が及ぼした大きな影響と見るべきか。
欠点としては、(これまた演劇には直接登場しない)綾人の妻が、終盤において重要な役割を担うにもかかわらず人間像がほとんど分からないことを筆頭に、とこどころに詰めの甘さが目立つこと。総じて、演劇と違う部分に小説ならではの長所と短所の両方が目立つ。
とは言え、横山拓也ならではの人間描写は小説においても圧倒的な輝きを放っている。先日 演劇『あつい胸さわぎ』を見た後にも書いたが、彼の描く物語は、一見名も無き市民たちのホームドラマでありながら、人生のドラマの7割方が詰まっている。「生と死」を正面から見据えた本作はなおさらだ。
横山拓也が、いまだに演劇界のめぼしい賞に無縁なのは、まったく理解できない現象だが、この小説の方で何かしら文学賞に引っかかってきたら嬉しい。
あらためて戯曲をパラパラ眺めていたら、小説ではカットされた部分で(それ自体に異存は無いのだが)、「私は、二人のすばらしい存在にはなられへんのかな」という、芝居で見るとどうしても涙腺が決壊してしまう台詞が目に入り、また泣きそうになった。
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おもしろかった!
子どもの命について、母の余命について。
いろいろな価値観があるし沙都子の言い分は間違ってない。
でも10年後も自分の気持ちが変わらないなんて自分でも分かるはずない。
正解はないからその時、その時の自分の選択を信じるしかない。
『何者になるか』それは自分で選んでいくしかない。
一気読みだった。
主人公の心のツッコミがおもしろい。
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面白かった!
随所に笑えるような視点があって、サクサク読み進められる。
伏線回収も見事だし、説明しきらない部分とのバランスがとても良い。
もっと広まったら良いのに。
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子供を作らないという約束で結婚した沙都子と静夫。しかし結婚9年経ったある日、沙都子が妊娠したかもしれないと言い出した。あたふたする静夫と何事か考えに耽る沙都子。
そんな時入院中の静夫の母が尊厳死をしたいと言い出した。静夫は治療を受けるように母を説得しようとするが…。
家族の「命」をテーマにした作品。重いテーマだけどサラリとしていて読みやすい。仕事を大事に思う沙都子にも共感できる。
劇作家である著者の初小説だということだが、次の作品も楽しみ。
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子どもを作らない約束で結婚している主人公(ファミレス店店長)。
地元の不動産屋さんで働く妻。
入院中の主人公の母親。
それを相談する相手は弟。
そして弟の妻は主人公との直接絡みはないものの物語の大事なワードを持ってくる。
前半は「この主人公馬鹿だ・・・」とちょっとうんざりしながら読んだけれど、後半になるにつれて「あ、恵まれている人は何も考えずに生きられるのだ。だから人の苦しさに思いが至らないのだ」と気付く。
自分自身の中にもその傾向があることに気付いて愕然とする。
中年はどこかに感じるところのある作品だと思う。
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大学の同級生で付き合い始め、ファミレスチェーン店の店長に就任した勢いで30歳の時に求婚した夫。大手の建設会社に入社し、ラジオのパーソナリティもこなす、会社で初の女性課長代理に昇進した妻。結婚は、子どもは作らず、2人で好きなことを全うしようとした結婚生活9年目。妻に生理が来ないことを告げられ、子どもを持つことに揺れる夫。夫の別居の母親は、腎機能不全から透析の選択を迫られるが、尊厳死を選択し、透析を拒否する。母は父の死後6年が経過し、絵手紙教室で出会ったダンディーな男性が、母子の間を取り持つ微妙な葛藤。
母の急変に、兄弟とその妻達の母に対する思い、各個人の思いが吐露され、多様な価値観が小気味よく展開される。妊娠と尊厳死の2つのテーマに、生死の価値観、アドバンスケアプランニングをどう捉えるかを考えさせられる作品となった。
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テンポはよく軽く進んでいき、最後沙都子のぶっちゃけで締まりをもたせようとしたのかもしれないが、全体的に人間味が薄い。
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面白かった!
最初は煮え切らない主人公になんだかなぁと思いながら読んだけれど、自分の中にある思いにたどり着いて言葉にしていくところが良かった。
自分の持っている固定観念、おそらく世間的にも共有されているように思うもの、をグラグラさせてくれるのがいい。
《何者になるか。それは自分で選びなさい》
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なんかあるあるすぎて笑えず。配偶者のデリケートな話を平然と共有してしまうとか、親が個人だと認められないとか。なんか男の人に甘いなあと思うけど、まあいっか。
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どんな選択をしてもそれはそれで良いじゃないかと否定的じゃない描き方に好感がもてる。
ほんとうは、もっとガンガン言いあって収集がつかなくなるような展開が多くあって…となりそうなのに上手くまとまっている。
親子関係、夫婦関係ってややこしくなりそうなのになんとなくおさまっている。
悪い意味じゃなく、なるようになるってことは良い関係を築けていたんだと思えた。
「生きてるうちに、死なないと」こう言った母の気持ちがわかる年齢になってきた。
だが絵手紙で思いを伝えるほど子どもたちのことを見ているか⁇と言われると全くである。
情けないほどに何を伝えればいいかわからない。
反省しきり、である。
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主人公の静生がとにかくうだうだしてて、少しイライラする。でも、本人の自覚なしに母親に甘えてる感じとか、そんな兄を見て弟がしっかりしている感じとか、よくあることすぎて共感する。
パートナーの事情を了解得ずに気軽に話しちゃうのもイラッとしたけど、そういうことあるよなぁ。
メインテーマは生と死
子供を産むか産まないか、夫の死後の老後などを含めた全ての人の生き方のお話し。
話は終始重たいけど、重たくなりすぎず読みやすかった。
結局、何を選んでもそれは正解で、後悔しないように生きる、とそれぞれの選択を否定も肯定もしないところが良かった。
お母さんの絵手紙が結構響いたな
「生きてるうちに死ななくちゃ」
「迷ってる場合じゃない。解決する唯一の方法はすぐやること」
「我慢しない。やりたいことをやり続ける。自分を幸せにするのは自分」
「宝物はそれぞれ。宝物の見つけ方もそれぞれ」
「何者になるか。それは自分で選びなさい」
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最後まで登場人物に共感出来ずもやっとした物が残った。
「子供はつくらない」と決めている立河沙都子。
子を持つのも持たないのも、その人の人生。
自分が決めれば良いと思う。
けれど予期せぬ妊娠。
夫は父親になりたいと願い二人の話し合いは平行線。
妻が子供を持ちたくない理由に悶々とする。
夫婦の形も色々あって、正解なんてないとは思うものの彼女に「わがまま」を感じてしまう。
そこまで意思が固いのならば何故避妊を徹底しなかったの?とも。
ラジオパーソナリティを仕事にし、リスナーの相談に乗る沙都子だが、私ならこの人には相談したくない。
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両親の死とお母さんからのメッセージに考えさせられる。バリバリ仕事したい気持ちと周りから「子どもは?」と聞かれるハラスメントに共感した。
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とても読みやすい。妊娠、養子、中絶、尊厳死等価値観の違いをどうやってうめるのか。現実問題ありそうなことばかり。とても普通な話なのに、ナルホドとー感心した。
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母の尊厳死と妻の妊娠騒動。母のこのまま死なせて欲しいという願い、妻の子どもは要らないという本音。これはワガママなのか?2つの生命の選択を狭られる。どういう結論が出るのかドキドキしながら読めた。身内のこととなると難しいよね。家族とは、自分が自分であることや幸せの意味を考えながら読了。とても読みやすかった。