山根信二さんのレビュー一覧
投稿者:山根信二
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2003/01/09 19:20
「いま手を打たなければ」レッシグ『コモンズ』書評(前編)
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ローレンス・レッシグ著『コモンズ』は「知的財産権」や「ブロードバンド」をめぐる近年のアメリカの動向を扱いながら、コンピュータ社会はどこから生まれてどこへ行くのかを考えさせてくれる本だ。
この本の中身について触れるまえに、前作『CODE』からの経緯についてふり返ってみたい。なぜなら、この本は前作読者の期待にこたえると同時に、著者からの緊急のメッセージも込められているという二通りの読み方ができるからだ。『コモンズ』からふり返ると、『CODE』には暗い見通しが目立つ。たとえば,アーキテクチャ次第では、政府は罰則を設けなくてもネットワークに規制をかけることができる。それは政府でなくても、商業団体にも可能なのだ。そして利用する人にとっては、そうした技術的な管理は罰則強化でも規制強化でもなく、自然なサービスとして受け入れざるを得ないかのも...。『CODE』はこうした近未来史的な展望を含んだ本だった。
『CODE』の見通しは決して明るくない。この暗さは、執筆された1990年代末のインターネットの状況を確かに反映していた。レッシグは『CODE』第5章で「コードを書いていたのが、数年前までインターネットエンジニアタスクフォース(IETF)を仕切っていたような人たちなら...」とインターネットをめぐる状況を振り返っている。『CODE』執筆当時、レッシグはインターネット運用を支えてきたジョン・ポステル[1]と、彼の仕事を引き継ぐ後任団体について意見交換を行なっていた。その過程で、レッシグはインターネットの開発運用に国家や大企業のエゴが関わってきたことを肌で感じていた。
だが『コモンズ』はこの状況のその後の展開を描いた続編とは言い難い。すでに『CODE』日本語版序文でレッシグは1990年代末の予見を一部訂正していたが、そこで予測を越えた事態とされているのが、ハリウッド業界のキャンペーンを受けた法規制の強化だ。そこでオンラインの財産規制をめぐる本書『コモンズ』の出番となる。『CODE』が近未来を予見した本だとすれば、『コモンズ』は不測の事態に対する緊急声明だと言える。いいかえれば、『CODE』が原論だとすれば『コモンズ』は局地戦である。「いま手を打たなければ(p.10)」という宣言に続いて、『CODE』では巻末注にまわされていたようなアメリカの具体的な事件が次々とでてくる。よく言えば本書には戦闘的な姿勢がでているが、その反面『CODE』の続きを期待していた人は意表を突かれるかもしれない。
後編に続く
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