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先月(2017年6月)

瀬名秀明さんのレビュー一覧

投稿者:瀬名秀明

69 件中 1 件~ 15 件を表示

S(すこし)F(ふしぎ)な物語

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 僕が藤子・FのSF短編を初めて読んだのは小学校6年生のときである。外見からしてその本は異様だった。当時は「異色短編集」と銘打たれていたが、『カムイ伝』と同じ「ゴールデンコミックス」という聞き慣れない叢書で、カバーイラストは福田隆義だった。手に取った瞬間に危険を察知した。密やかに描かれた藤子・Fの大切な本だということは子供心にもわかった。そして案の定、一読してとてつもない衝撃を受けた。次々と繰り出されるSFアイデア。鮮やかなどんでん返し。特に「劇画・オバQ」はショックだったが、ときどき出てくるセックスシーンが妙に艶めかしくて困った記憶がある。

 藤子・Fから物語の面白さを教わった僕にとって、まさにSFとは彼のいうS(すこし)・F(ふしぎ)な物語だった。彼のSF短編はこれまでにも数々の版型で繰り返し出版されていたが、今回の全集は単行本未収録作品7本を含む全112作を完全収録するという。となれば絶筆「異人アンドロ氏」も収録されるのかもしれない。

 今回の特徴は発表年順の構成であることだ。改めて読み直してみるとさまざまな発見があって驚く。第1巻は1968〜1973年に発表された15編で、このうち「スーパーさん」「カイケツ小池さん」「ボノム =底ぬけさん=」「アチタが見える」が単行本初収録。スーパーマンものが実に多い。どこにでもいるような人たちが、ある日突然空を飛んだり、力持ちになったり、予知能力を身につけたりすることで、周囲の社会はその超能力のために歪められてゆく。第2巻の13編は1973〜1975年の作品。「箱船はいっぱい」など未来に対する暗い不安が滲み出た作品が多く、作風の変遷が窺える。その一方で「ノスタル爺」のように切ない過去を叙情的に謳い上げるものや、無邪気さ・子供っぽさへの回帰願望とそんな感情へのシニカルな視点がないまぜになったものも目立つ。この他、名作映画にインスパイアされた「定年退食」「休日のガンマン」、『エスパー魔美』の原案となった「アン子、大いに怒る」、まるで『希望の国のエクソダス』のような「ボクラ共和国」など。藤子・FのSF短編がまず「超能力」へのストレートな憧憬と恐怖心からスタートし、やがて映画やSF小説などのアイデアを自己流に再構築してゆく作業を繰り返すことによって、独自の世界を確立していったことがよくわかる。『ドラえもん』『パーマン』などといった子供向けの傑作は、はじめから完成されたものとして僕らの前に姿を現したような錯覚を受けるが、作者の頭の中ではどれもこれらのSF短編群のような試行錯誤が繰り返されていたのだろう。その意味で、この編年構成は、藤子の創作の秘密を解き明かす重要な鍵になるはずだ。

 僕はおそらく、これから生涯にわたってこの短編集を側に置き、折に触れて読み返すことになると思う。さまざまな小説やマンガを読んでも、結局はここに帰ってきそうな気がする。S(すこし)F(ふしぎ)な物語ほど、大きな世界はどこにもない。

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ちみどろ砂絵

2002/08/23 20:54

愛ほとばしる解説

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 高橋克彦の解説を収録。彼の解説はいつも愛が迸り出ていて好きだ。とにかく自分の思いを少しでも読者にわかってもらいたい、一文字でも多く認めたいとばかりに、前のめりの文章が改行もなしにどんどん続く。『D-ブリッジ・テープ』(角川ホラー文庫)に寄せた解説などは奇蹟の名作ではないか。ここでは高橋が傾倒する都筑道夫の本をエントリー。なめくじ長屋シリーズの周到な考証ぶりを指摘しているのは、浮世絵研究家でもある高橋の面目躍如。同じく高橋が担当した『危険冒険大犯罪』(角川文庫、絶版)や『世紀末鬼談』(光文社文庫、絶版)の解説と併せて読みたいところだ。

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石の花 1 侵攻編

2002/08/23 20:27

ぼくにとっての生涯の「先生」

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 ぼくがはじめて出会った坂口作品。ここで描かれた複雑な現代史を、当時のぼくは完全には理解していなかったかもしれない。それでもぐいぐいと引き込まれていった。クリロの女友達フィーの強制収容所生活における描写も凄まじいが、何よりもフンベルバルディンク先生の対極として登場し、闇の世界を具現する老人ギュームが強烈な印象を残す。

 誰でも大切な「先生」を心に持っているものだと思うが、ぼくにとっての生涯の「先生」はフンベルバルディンク先生だ。毎月、雑誌の連載を読み耽った。物語は一九四一年からはじまる。ユーゴスラビアのスロヴェニア地方に赴任したフンベルバルディンク先生は、野山を歩くのが好きで、生徒たちに空想を語る不思議な人だった。ある日彼は生徒たちを鍾乳洞に連れてゆく。巨大な石筍を見たみんなが「石でできた花みたいだ」と驚きの声を上げるなか、生徒のひとりが意地の悪い質問をする。ところが彼はこう答えるのだ。「そうだ! これだよ!! クリロ、きみにもこれが石の花に見えた! それだよ、すばらしいじゃないか!! これは“石の花”じゃない! 花に見ているのはぼくたちのまなざしなんだよ!」。

 鍾乳洞遠足の直後にドイツ軍の銃撃を受けたクリロは、友達が次々と死んでゆくのを目の当たりにする。必死で逃亡したクリロはユーゴ抵抗運動に否応なく巻き込まれ、やがてパルチザン兵となって戦いながらも、先生が残した言葉だけを頼りに、真の平和とは、自由とは何かを考えてゆく。フンベルバルディンク先生は連載の第一回目にしか登場しない。その後はクリロの心の中に影法師のように現れるだけだ。それなのにぼくは先生の言葉が忘れられなくなった。ラストシーンでは涙が溢れて止まらなくなった。ここには“本当に”重要なことが描かれていると感じた。ラストではクリロと共に、フンベルバルディンク先生のいったことがわかったような気がした。それ以来、ぼくにとって坂口尚は特別な存在になった。


 坂口尚が描いていたのは骨太な歴史長編ばかりでない。繊細で流麗な短編や、イマジネーション豊かなSFがいくつもある。彼を「詩人」と呼ぶ評論家は多い。確かにぼくは彼の美しいペンタッチに魅せられていた。でも、いったい「詩人」とはなんだろう。単に美しい何かを言葉や絵に転換してみせる人のことだろうか。

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ロボサピエンス

2002/08/23 18:47

ロボット大国日本は『ロボサピエンス』に負けたか?

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

まずは本を開いてみてほしい。圧倒的な写真がいくつも目に飛び込んでくるはずだ。僕が驚いたのは、それらが単純なポートレイトではなく、それぞれのロボットの機能や開発者の人となりが「物語」として凝縮されていたことである。ロボットたちはまるで俳優のようにポーズをつけ、周囲に小道具を侍らせて、一世一代の晴れ姿を披露している。ライティングやアングルも面白い。研究者たちも実に格好良く、また時にはユーモラスだ。そして登場するロボットや研究者たちが実にバラエティに富んでいて、全体を通して見るとまさにロボット世界の一大パノラマを展望した感じなのである。
 この本の著者はフォトジャーナリストのピーター・メンゼルと元テレビプロデューサーのフェイス・ダルシオ。ふたりは世界のロボット研究室を訪ね歩いて、開発者にインタビューし、ロボットの写真を撮影した。謝辞に掲げられている研究者・研究施設はなんと総計254。おおむね有名な研究施設は網羅されているといっていい。だが僕はここで絶望的な気分になった。このうち実に40人ほどが日本に在籍する日本の研究者だったのだ! 二足歩行制御技術の基盤をつくりあげた高西淳夫、ロボカッププレジデントの北野宏明、ヘビ型ロボットで有名な広瀬茂男、見まねロボットの川人光男や國吉康夫、もちろんホンダやソニー……。どうして日本人ジャーナリストがこの本をつくれなかったのか? ロボット大国日本の出版業界は、いったい何をぼやぼやしていたのだ?

 途方に暮れながらページを捲っているうち、ようやくこちらにも希望が残されていることがわかってきた。よく読んでみると、ダルシオが担当した各研究者へのインタビュー記事は、残念ながらやや散漫で焦点がぼけている。本書のような質疑応答形式によるまとめ方の宿命なのだが、個々のインタビューが並列的に紹介されるので、各発言があまり有機的にリンクしていない。それよりも、写真担当のメンゼルが執筆したわずか四ページの「はしがき」のほうが、本書の主題をよく表しているように思えた。彼は次のように書いている。

 「ロボット歴訪のこの旅で最も感動したのは、新しいミレニアムの始まりに、ロボット研究のたどたどしい歩み——しかし進化の過程でまさにわきあがってくるような——をこの目でしっかり見届けられたことだ」
 「今日見られるロボット分野の成長は、10年前のパーソナル・コンピュータに見られたいわゆる『成長の離陸期』に相当する。(中略)マシンの未来はこうだと決めつけてしまうべきではない。こうした創造物をつくりだすことから生じるさまざまな問いかけが、まさに人類の未来をつくりあげていくことにほかならないのだ。たとえその未来がどんなかたちで待ち受けていようとも」

 この意見には全面的に賛成だった。だが、そこへ至る過程には違う見せ方もあるはずだと感じた。読み終える頃には自分の本の方向性がクリアに見えてきたのである。

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神様手塚を読む

2002/08/23 21:02

何とも素敵な解説群

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 このところマンガが続々と文庫化されており、当然のことながらそこに収録される解説の総数も無視できないものになりつつある。本書は小学館で出版された手塚治虫作品に寄せられた解説22編を集めたもの。なかでも『ロスト・ワールド』『フィルムは生きている』『I・L』の3作について寄稿した大林宣彦の文章が突出して良い。大林は赤川次郎の『吸血鬼』(新潮文庫)でも素敵な解説を書いていたが、作品の中から映画的な特徴を引き出して、読者に鮮やかなイメージを提示しながら作家の本質に迫る手腕に優れている。なお本書には中島らも他『名作コミックを読む』(小学館)という姉妹編があるが、こちらは萩尾望都、秋里和国、あだち充、吉田秋生などの少女マンガを26人が解説している。

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とてつもなく熱く、すさまじい本

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 何の予備知識もないまま資料として読んだのだが、熱い内容に圧倒されてしまった。著者は1967年生まれ。「なぜ自分はロボットアニメが好きなのか?」と問い続け、己のルーツを克明に掘り下げてゆく。ガンプラにハマり、アーケードゲームでロボット搭乗願望を満たし、ロボット美少女OVAの進化を追いかけてゆく……。僕も一歩どこかで方向を変えていれば、こういう人生を送ったかもしれない。鏡の向こうの世界を見る心境。いや、とにかく凄まじい一冊だ。

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贅沢なつくりで読み応え充分

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 キューブリックが長年温めていた映画『A.I.』がスピルバーグの手によって完成され、公開された。『2001年宇宙の旅』に登場するHAL9000は、箱の中に閉じ込められた人工知能である。だが2001年のいま、身体を持った人工知能(A.I.)、すなわちヒューマノイドが映画で描かれるというのは何とも興味深い。本書はHAL実現の可能性を追求・検証した一冊。最強のチェスコンピュータ「ディープ・ブルー」初期開発メンバーのマレイ・キャンベルや、人工知能研究の大御所マーヴィン・ミンスキー、哲学者のダニエル・C・デネットなどが次々と登場、なんとも贅沢なつくりで読み応え充分。

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手堅いつくりが嬉しい

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 現時点で最新・最良のロボット本。ASIMOやSDR-3X、Mk.5(マーク5)などが勢揃いしている。各ロボットをきっちりと力強くとらえた写真が良い(ただ細かいことをいえば、フラッシュ撮影の傘が機体に映り込んでいるのが気になる)。図表を多数用いて主要スペックや自由度をちゃんと解説しているのも好感度大。「図説 これでわかる! 二足歩行技術」のコーナーは、僕が知る限り既成の書籍の中でもっともわかりやすく、要領を得た素晴らしい解説。また個人的にはホンダASIMOのデザイナーにインタビューしているところがさすがだと感じた。日経の仕事だけあって安心できる手堅いつくり。こういう仕事は小説家にはとてもできません。

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ロボットブーム前夜のきらきらと光り輝くような良書

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 ロボットはいったいどうやって二本足で歩くのか? どうすれば倒れないようになるのだろう? 人間が簡単にやっていることを機械に再現させるのは意外と難しい。若き工学者である著者の二足歩行にかける情熱が、心地よくこちらにも伝わってくる。だが感情に溺れることなく、ロボットの制御機構の解説も簡潔まとめてあってバランスがいい。ところどころに本質を衝いた問題提起もある。中学生向けに書かれた本だが、大人が読んでも楽しめるだろう。ホンダP2から始まったロボットブーム前夜に書かれた、きらきらと光り輝くような良書。

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ねじれた町

2002/08/23 18:20

眉村ジュヴナイルの最高傑作

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 歴史と伝統が重んじられるQ市。そこに引っ越してきた中学生・行夫は、この町が時間も空間もゆがんだ異様な世界であることに気づく。目の前に現れる明治時代のポストや人力車、そして奇妙な「鬼の日」とは? 眉村ジュヴナイルの最高傑作。瀬名が巻末解説を担当。

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平易で幅広い生活習慣病の本

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ミトコンドリア研究の第一人者が書いた、生活習慣病に関する本。生活習慣病とは何か、なぜ起こるのか、といったことから始まって、予防・治療法までを平易に説明し、さらには今後の行政の方向性をも盛り込んだ一冊。ミトコンドリアが出てくるのは第5章の「生活習慣病の発生機序と遺伝子」の項目で、アルコール依存症、老化、動脈硬化、肥満などとミトコンドリア異常との関係を指摘している。

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コブラの眼 上巻

2002/08/22 20:18

クリントンを動かした小説

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 『ホット・ゾーン』に続いてリチャードが放った初のフィクション。地下鉄サリン事件をヒントに描かれた本書では、テロリストがニューヨークの地下鉄に凶悪なウイルスをばらまこうとする。やはり冒頭が猛烈にコワい。クリントン大統領がこれを読んで細菌テロの実態調査に乗り出したのは有名な話だ。

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紙の本ジェニーのいた庭

2002/08/22 20:15

学者とチンパンジーの交流を描く

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 ダグラスの単独長編。手話をするチンパンジーと人類学者一家の交流を描く。リチャード・プレストンがこう語ってくれたのが印象的だった。「ダグラスの本で特別なのは『ジェニーのいた庭』だよ。あれはぼくらプレストン一家がモデルなんだ。読んでいると昔のことを思い出してしまって、だから冷静な判断はできないのさ」

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紙の本地底大戦 レリック 2 上

2002/08/22 20:11

「ンヴーン」再び

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 『レリック』の怪物「ンヴーン」が蘇る! ふたたび死闘に巻き込まれた博物館学芸員マーゴと熱血警官ガダスカに勝算はあるのか? 今回怪物が暴れ回るのは、奇書『もぐらびと』でも紹介されたマンハッタンの広大な地下世界。ホラーは怪物の舞台を如何に設定するかでおおよそ勝負が決まる。やはりここでもダグラス&リンカーンのセンスは冴えていた。生物科学系のネタも健在。ハリウッド版『ゴジラ』の制作者はふたりを見習うように。

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ミュージアム本の中でもトップクラスの面白さ

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 超人的な能力と体力を持つ専門家がミュージアムについて縦横に語ったらどうなるか? もちろん最高にイカした本ができあがる。トマス・ホーヴィングの『ミイラにダンスを踊らせて』は、僕が読んだあらゆるミュージアム本の中でトップクラスの面白さだった。ホーヴィングはニューヨーク・メトロポリタン美術館(通称メット)の元館長で、斬新(かつ強引)な経営方針を次々と打ち出し、メットを一級の美術館に仕立てた張本人。メットで大量のアフリカ美術が鑑賞できるのも、しゃれたグッズをミュージアムショップで買えるようになったのも、ホーヴィングの時代からだ。本書は彼の現役時代の回想録だが、クセの強い学芸員をなだめすかし、寄付金獲得に奔走しながら、心底惚れ込んだ美術品にはあらゆる手段を尽くしてアプローチしてゆくさまは、まるで冒険小説の主人公だ。

 なかでも圧巻は17世紀の画家ベラスケスの「フアン・デ・パレーハ」を獲得するくだり。ホーヴィングはキュレーターと共にイギリスに飛ぶ。彼は第一印象で「フアン」の素晴らしさに驚きながらも、上塗りされているニスが本来の色を台無しにしていることに気づいた。ニスを剥がして絵の具の状態を調べてみたいのに、警備員がはりついていて迂闊な行動をとれない。奇策を打って警備員を一時退室させることに成功するが、猶予はわずか10分。この間にニスを剥がして、購入に値する傑作かどうかを確かめられるのか?

 サスペンス溢れる筆致にも舌を巻くが、それより買うかどうかもわからない絵のニスを勝手に剥がそうとするなんて只者ではない。彼は後に小説も手がけていて、こちらはなんとベラスケスの幻の逸品を競り落とそうとする美術館同士の謀略が絡んだ一大ロマンスだった。まさに超人である。

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