三石 玲子さんのレビュー一覧
投稿者:三石 玲子
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紙の本電子貨幣論
2000/10/26 00:19
日経コミュニケーション1999/9/6
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ネットワーク社会の進展は,生活や社会の随所に影響を与え始めた。インターネットを利用した新しいビジネスも脚光を浴びている。この時,インフラともいうべき「貨幣」はどう変わるのか。本書はネットワーク社会における「電子マネー」について,7人の学者や専門家が論じたものだ。
電子マネーの解説書は数多いが,技術的な解説の目立つ類書と異なり,本書は貨幣論からの吟味,経済秩序への影響,金融政策への影響,情報社会へのインパクト——など,それぞれの立場から多岐にわたる考察を行っている。本書を一読すれば,電子マネーの本質や社会への影響について包括的に基礎から把握できる。
私達が日常使っている貨幣が電子的なものになる——。抽象的には理解できても,実態を見通すのはなかなか難しい。例えば,ネットワークの世界では,貨幣の物理的存在は消滅し,数字化された情報だけになる。また,国境のない世界で国家が通貨発行権を持つかどうかさえ明らかでない。事実,現在展開されている電子マネーの数々の動きは,民間企業が主導している。
こうした素朴な疑問について,答えはまだ出ないにせよ,本書は一定の見解を明示している。この点,EC関係者や経済専門家だけでなく,一般消費者が読んでも興味深い内容だ。
だが疑問も残る。本書は「電子マネー時代が近づきつつある」という前提で書かれたように思われる。ところが現実には電子マネーの数々の実験は芳しい成果を上げていない。電子マネーを先駆的に発行して注目された企業,米ディジキャッシュは倒産した。
日本ではインターネット・ビジネスの場面で,むしろオフラインの決済,例えばコンビニを利用した決済などが「日本的ECのインフラ」として定着しつつある。市場をリードしている中小電子商店は電子マネーの使いにくさを指摘し,普及には懐疑的な意見も多い。
本書では後書きでこれらの“停滞現象”を「過渡的現象」と断じているが,果たしてそうなのだろうか。
本書は電子マネーの普及の条件として「消費者ニーズに即した展開の必要性」を挙げているが,その内容は「ショッピング以外のアプリケーションの必要性」といったもの。現場の動向を反映した具体的な提言はない。本書の指摘の多くは理論的には納得できるものだが,消費者やビジネスの現場との視点の差が気になる。
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