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先月(2017年8月)

加納ヒロシさんのレビュー一覧

投稿者:加納ヒロシ

1 件中 1 件~ 1 件を表示

紙の本いづみ語録

2001/04/04 17:36

疾走する愛

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

速度が問題なのだ。人生の絶対量は、はじめから決まっているという気がする。細く長くか太く短くか、いずれにしても使い切ってしまえば死ぬよりほかにない。どのくらいのはやさでいきるか?

 鈴木いづみの語録として、どれかひとつと言われれば、エッセイ集『いつだってティータイム』冒頭の、この言葉をあげたい。自分の絶対量を知りながらも、短距離選手のスピードで、マラソンコースに飛び出してしまったような鈴木いづみの、生きてきた時間を(評者とて間接的な知識しかないのだか)ダブらせたくなる、印象的な書き出しだ。

 晩年は結核を患い、生活保護をうける状態だったと伝えられる鈴木いづみの本が、最近女性を中心とした若い読者を増やしていると聞く。無名で没した画家が死後脚光を浴びる話とは、同列にはできないが、洋服や音楽…60年末から70年代がファッション的にリバイバルしている今にあって、鈴木いづみの存在もまた浮きあがってくるのか?
 ともあれ、本書は『鈴木いづみコレクション』全8巻を始めいづみ本を積極的に出版している文遊社の新刊。『コレクション』同様に、荒木経惟のいづみ写真と、ピンク色を効果的に使った佐々木暁のおしゃれな装丁で、彼氏(彼女)にプレゼントしたくなるような本だ。
表紙のいずみ写真も、どこぞのカリスマ店員(こちらが元祖だけど)といった過剰な美貌ぶりである。

 構成は鈴木いづみの小説・エッセイ・雑誌対談、さらには私信から愛、あたたかさ、怒り…とキーワード別に抜粋した、《宇宙空間から見た碧い地球のように、鈴木いづみが言葉で捉えようとした世界を一望した》まさに語録。さらに編者でありいづみの娘である、鈴木あづさと、荒木経惟・末井明(原稿依頼などでいづみと交流のあった編集者)との鼎談、さらに町田康(映画『エンドレスワルツ』で阿部薫役を演じた。昨年第123回芥川賞受賞)との対談がある。よって鈴木いづみをこれから知りたい、文章を読んでみたいと考える人にとっては、月並みな言い方になるが、入門書的読み方もできる。

 編者・鈴木あづさは《本書に掲載されていることばの音を楽しんでくだされば幸いです》とあとがきに記す。しかし、初めていずみの文に触れた人は、借り物の難解な言葉を使わない平易な言いまわしながら(いやそれだからこそ)ズバリと直裁に投げつけられる断片に、はっとしたり、赤面することもあるだろう。たとえば、

《私は不幸が好きではない。だが厚顔無恥な「幸福」は大嫌いだ》
《寝たい男と寝たい時に寝て、どこが悪いというのだ》

などなどだ。手紙と創作である小説中の言葉は当然分けて考えるべきだが、それにしても、曖昧な言いまわしが多い昨今にあって、鈴木いづみの言葉は強い。
 しかし町田康との対談でも語られているように、これらは意図的なウケ狙いがなく、またお説教臭さとも無縁で、辛辣な断片もやがてはここち良い響きとなってくる。なにしろ《湿っぽく暑っくるしい》ものや《発想は紋切型》の人間を嫌った鈴木いづみの言葉は純粋である。

 本書で鈴木いづみに関心を持ったならば、ぜひ長い文章(特に小説)を読んでもらいたいと思う。実は評者もごく最近からの小説の読者なのだか、そこに描かれている風俗は70年代のものであっても、作品はけっしてカビついていない。むしろ新しい。鈴木いづみが好んだ“明るい絶望感”や、SFでの独特の時間感覚は、こんな書き方もあったのかと驚くはずだ。

 かような締め方をすると、「君さぁ、なんて紋切型なバカなこと書いてんの」とあの世の鈴木いづみから電話がかかってきそうだけども・・・。

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