球界の長い午後さんのレビュー一覧

地味なんだけど……

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　読んで損はない抑制の効いた誘拐ミステリー。金持ちの娘（白血病）の唯一のドナーである貧乏な娘を誘拐する、という設定を聞くと、ハリウッド映画のＢ級ミステリーのような力技っぽさがあるが、（ハリウッド映画が陥りやすい）竜頭蛇尾になることなく、最後まで丁寧に書かれていて読ませる。付け加えるなら、この設定を見るとなんだか、左翼思想を連想してしまうのだが、その連想を結構うまく作品に利用していたのは、すこし感心した。

　トリックも（驚愕のというほどではないにしろ）それなりにおもしろいし、オチも悪くない。キャラクター造詣は、作者が若いということを考え合わせると、かなりの高レベルである。
　文章がやや生硬なため、最初の５０ページは、ノレなかったが、ある程度読み進めると引き込まれる。

　こう書いてみるとなんだか可もなく不可もなくといった感じに思えるが、たしかに地味な作品であるにしろ、「若いんだから冒険しなきゃ」とか言われるんじゃないかと思う年齢の作者が、あえて地味なテーマを選んで、健闘した姿勢を、評価したい秀作である。