カンちゃんさんのレビュー一覧
投稿者:カンちゃん
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2005/11/08 16:47
自然科学の研究は完成画像が知らされていないジグソーパズル
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久々に中身の濃い、正直に言えば少々濃すぎる書物を読むことができた。もし40年前にこの書物を手にすることができたら人生は変わっていたかも知れないとも感じた。高校時代、将来は理系に進もうか文系にしようかと迷った。そのとき理系は止めようと考えた理由が二つある。今にして思えば誠に恥ずかしい無知な話だが、友人に理系では出世できないぞと言われた。官僚になるつもりはなかったので出世できないと言われても大して気にならなかったが、もうひとつの理由はどうしても納得がゆかなかった。それは理科イコール自然科学だといいながら生物だ、化学だ、物理だ、地学だとあたかも全く別物のように自然現象を見ていることだった。これが不思議でならなかった。「僕が勉強したいのは人間の頭の中ですが」と教師に相談したら「君の成績では医学部は難しいぞ」とクラス担任だった生物の教師に言われ、よけいイヤになってしまった。
本書には「自然は一体、したがって自然科学に境はない」とはっきり書いてある。「人類の知を総動員してこそ、人類文化の本当の姿を理解することができ、さらなる発展がある」とはっきり書いてある。書いてあるだけでなく、それを「自然科学研究はジグソーパズルだ」と若い人にもわかるように説明して見せる。「目指すのは科学的自然観という壮大な絵巻物だが、ただし最終の絵柄はわかっていません」という説明には興味とチャレンジ精神を強くかき立てられる。それぞれの研究者が自分の手元にあるジグソーパズルの断片を使ってその絵柄をとりあえず大きくしようとしたり、広い領域を俯瞰する視野を持つ研究者が現れて別の絵柄と自分の専門分野との関連性に気づき、それらの分野を繋いで見せたりしながら絵は完成に近づいてゆくのだ。これならチャンスはみんなにあるではないか。1科目や2科目不得意な分野があったって気にすることはない。得意なところで頑張ればよいのだ。「未熟な若者も先人の先見性に励まされ、成長し、新領域を開拓し、…先人となって後輩を勇気づける」のだ。
理系進路の選択に迷っている高校生諸君、理系の大学や学部に入って研究室の選択などでモヤモヤしている学生諸君、研究室の人間関係で悩んでいる院生や研究生諸君、本書を読んでライフサイエンスに挑戦しよう。世の中、面白そうなものは多いけど本当に面白いものは意外に少ない。スッキリ感も達成感も壁の高さも厚さもライフサイエンスなら全部まとめて味わえるぞ。著者が図示する「今後予想されるライフサイエンス研究・開発・教育が向かう方向」は、とっても示唆に富む親切なヒントだ。こんなすばらしい研究者(著者)が大所高所から見守ってくれているのだ。でっかい夢を持ち、他人の妄言なんか忘れて頑張ろうよ。
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