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中乃造さんのレビュー一覧

投稿者:中乃造

2 件中 1 件~ 2 件を表示

紙の本忌まわしい匣

2006/08/13 18:52

美しい匣

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

美しい短編集でした。
とは言っても、モデルさんや宝石に対しての狭義の「美しい」ではありません。もっと苛烈な力を持つ、見とれるのではなく魅入られてしまう類のものです。エンタテイメント性や芸術性等々、いかなる要素に小説の意義を求めようとも、この手の美しさを前にして知らぬ振りを決め込むことは難しいのではないかと感じます。するとこれは、いっそ暴力的なものなのかもしれません。
 *
墓場道連れ決定級にツボ直撃した収録作品が『グノーシス心中』。とても切ない恋物語だ、と書いて首肯してくれる人がどれだけいるか怪しいけれど。
神秘主義に傾倒したり死んだふりを趣味としたりする少年・千秋のもとに、見知らぬ男カグヤマが現れ、千秋を<独り子>だと言う。カグヤマは、<独り子>の望みならなんでも従う。千秋がうるさいと言えばカラオケに興じる若者達を皆殺しにするし、ビデオカメラを欲しがれば強奪を計り止めに入った店員に鉈を振り下ろすし、恥ずかしい物真似だって乞われればしてあげる。
しかしこれは、ただ妄想に取り憑かれた人間の脈絡ない暴力の物語ではありえません。「何処まで逃げるの?」と問う千秋にカグヤマが「終末まで」と答えたように、二人が手を繋ぎ行き着くところはおよそ絶望的な場所に違いなく、だから読んでいて切なくなる。そして最後に描かれる美しい場面には、たとえ千秋が涙することが出来なくとも、こちらはホロホロと泣いてしまう。これが心中でなかったら一体なんなのでしょう。
『罪と罰の機械』も、やはり心中モノかなと思います。こちらの二人は、ゴメンナサイが口癖の少女・妙子と、機械——傍目からは「コスプレ」「ザリガニ怪人」と形容されてしまう機械である、<彼>。男女関係について、欠けた半分を求め〜などという表現がされることがあるけれど、その謂いはこの二人であれば陳腐にはなりません。だからこそ二人を待っていたのは、桁違いのスケールを持つラストなのでしょう。彼らにベストカップル賞を……なんて言って良いのかどうか。まあ破天荒な作品なので、トンチンカンな感想も許されるかな、と甘えつつ。
他で印象に残ったのは『翁戦記』。強大な悪と闘うヒーローのお話なのですが、察する通りヒーローはおじいちゃんなのです。読んでいるとなにか痛々しく、痛々しいと言ってしまうことを躊躇するほど痛々しいのですが、読後感は思いの外温かかかったです。『おもひで女』は収録作品で一番怖いと感じました。
 *
全体を通してみてみると、『忌まわしい匣』と題された3つの掌編は特筆もの。プロローグ、幕間、エピローグといった具合に置かれています。
『忌まわしい匣 1』では、幸せな日常を送っている恭子の部屋に突然男が現れます。
「やあ、俺たちは、<忌まわしい匣>だ」
と訳の解らない挨拶をした男は、恭子を<聞く女>だと定義し、テレビを点ける。ノイズ画面から引っ張り出された者が語り始め物語が生まれていく、という体裁です。導入として違和感がなく、<忌まわしい匣>とはグロい物語が飛び出してくるテレビのことを指しているのだな、と思いながら読み進めていきました。<聞く女>はおそらく、読者を暗示しているに違いない。
ところがこれが、エピローグの3になると——<聞く女>はすなわち読む人間のことだから、<忌まわしい匣>って、<忌まわしい匣>って……。

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紙の本ワイルド・サイドを歩け

2006/05/17 23:45

5512はゴーゴーイジーと読む

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

とにもかくにも面白い。初っ端からフルスピードで飛ばし、失速しないどころかクライマックスできっちり頂点に達するストーリーが気持ちいいです。そしてそれだけではなく、読後に残るものがある。
改めて、この作家の一番の魅力は人物達が生きていることなんだなと思いました。
本のあらすじでは三つ巴とありますが、実際は2サイドから語られる印象です。
ひとつはIZZY率いる暴力団井島組。とは言っても弱小暴力団で、仲間はとまぶー(戸松)と、台湾からクスリを仕入れてくれる唐さん以外見当たらない。そもそもイジーはマザコンだし。
もう一方が、男娼高校生の理一とその仲間達。お友達の学校友達の馬素や塔、ボノちゃんやベティさんなど夜の友達も加わってこちらはなかなか賑やかです。
この両者が、ラプターズというギャングを接点に、「百歩蛇」をキーアイテムに、そして事件を核にしてニアミスを繰り返す。一体どうなるんだろう……とワクワク出来る先が読めない展開がとても楽しい。
特に終盤が最高で、イジーに肩入れしていた私は彼の陥った状況にハラハラし、そして「やっぱり雑魚とは違う!」というワイルドな格好良さにしびれました。
それから、特に理一サイドは、心に響きます。クスリをたしなみ身体を売る、どこか自堕落的な理一。喧嘩と女にうつつを抜かして享楽的に生きる馬素。ハンディキャップとタイムリミットを持つ塔。彼らの、理一が言うところの「物語」は感慨深いです。でもまったく押しつけがましくないところが好き。

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