coyukiさんのレビュー一覧
投稿者:coyuki
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紙の本無銭優雅
2007/02/16 12:02
山田詠美はロックだ!
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
正直、最初は嫌な予感がした。「さしものエイミーも鈍ったか?」
過去のエッセイや「ラビット病」などを思わせる、カップル同士の甘く軽妙な会話が、前半は延々と続く。
巧すぎるほどの豊かな比喩、俗っぽさをおそれず、でも自分ルールでは決して品を落とさない男女の軽やかな生き方。それは確かに、私の愛するエイミーの世界なのであるが、その世界のあまりの堅牢さが、私に『エイミーはもう、落ち着いてしまったのだろうか?』『もう、安定したベテランの道を行くことに決めてしまったのだろうか?』と、早合点な心配をさせてしまったのだった。
しかし!後半にさしかかるうちに、どんどん話は進展していく。お気楽のんきに暮らしていく二人が、その生活を保持していくことの困難さ、危うさに、エイミーはどんどん迫っていく。文間に挿入される、名作(このラインナップがまた、さすが山田詠美!という鋭いセレクト)の数々も、その不穏な空気をどんどん盛り上げていく。こうなると前半は、築き上げた世界を一旦解体し、さらに再生するための、壮大な複線だったのかと思う。
リアルな40代の恋愛は、相手だけでなく家族や友人や仕事や生活や、色んなものの影響を受けざるを得ない。その中でもみくちゃにされながら、それでも何か叫びたいことがあるから、人は生きていくのだ。
『人生は甘くない、それでも人生は続く』そのことを、ここまで見事に描き出した作家はいなかったのではないか?人生の理不尽さに、敢然と立ち向かった作者の姿勢に、深く深く敬意を表したい。山田詠美はやっぱりロックだ!
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