湯元 健治さんのレビュー一覧
投稿者:湯元 健治
1 件中 1 件~ 1 件を表示 |
紙の本ケインズ政策の史的展開
2000/07/22 06:16
経済政策面における「ケインズ革命」は,当時の大蔵官僚の抵抗により,実践面では不完全に終わる
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
ケインズは,「一般理論」に代表される新たな経済理論を打ち出したという側面だけでなく,それを実体経済に適用することに努力したという意味でも,「ケインズ革命」を引き起こしたといえる。本書では,後者に焦点を当て,ケインズが実践主義者に至った背景,政策立案における対立,経済政策の変化と一貫性などが,膨大な資料を基に展開され,経済政策面でのケインズ革命の軌跡が明らかにされている。経済理論だけを徹底的に追及したシュムペーターを思い浮かべながら読むと,実践主義者としてのケインズの特徴が際立ってくるだろう。
本書を読むと,マスコミ等を通じてケインズ政策と命名されている政策が,必ずしもケインズが意図したものではないことが明瞭になる。第1に,ケインズ政策=財政支出による総需要管理策,という単純な図式は成り立たない。政策立案者としてのケインズの関心は,為替管理制度,金融政策,賃金政策など多岐にわたっており,そのときの状況に応じて柔軟な経済政策を打ち出す能力に長けていた。財政支出拡大策は,失業問題が重要課題として浮上した時期に導入されたアイデアであり,同時にケインズは,財政状況の悪化を抑制することにも絶えず注意を払っていたという点にも目を向けるべきである。第2に,ケインズは,あまりにも短期的視野に立った政策を推奨するのではなく,あくまでも長期的効果を考慮に入れた上で最良の政策の組み合わせを提示したということである。
ケインズの経済政策は,常に実現可能性を念頭に置いて書かれたものであった。しかし,実践面でのケインズ革命は,大蔵官僚の抵抗により理論面ほどの成功を収めることはできなかった。この原因は,大蔵官僚がもっていた新たな経済政策(特に不均衡=赤字予算)に対する保守性のほかに,政治的な抵抗も大きかったためである。ケインズの政策が受け入れられ始めるのには,第2次大戦まで待たなければならなかった。
(C) ブックレビュー社 2000
1 件中 1 件~ 1 件を表示 |