YOMUKOさんのレビュー一覧
投稿者:YOMUKO
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紙の本ハイドラ
2010/11/26 15:53
ハイドラ、依存なしには生きられない
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
Hydra。ヒドラ。親の身体から発芽する細長い身体に触手をつけた小さな生物。あるいはギリシア神話の怪物。
早希、体重35キロ。自己評価は「読者モデル上がり」のモデル。
早希を発芽させた親、彼女をモデルとして世に送り出した人物は「過剰な自尊心とナルシズム」を持つカメラマン新崎。
早希は新崎を愛しながら憎み、「彼の望みがそのまま私になる」というほど精神的にも経済的にも依存している。
その関係は、男女の仲でありながら、親子のようだ。父親というより、むしろ、一般的には母親的な。どれほどすがっても、それは崩れそうな腐った関係でしかない。
早希は子が親に見捨てられるのと同じ恐怖を、新崎に感じている。それは彼女にとってアイデンティティの崩壊。だから捨てられない=太らないために、食べものを密かに「噛み吐き」する。
よりましな選択があり、自立する能力があるのに、早希は狂った依存、狂依存から脱却できそうになく、また、根本的な原因であろう自らの家族関係には目を向けない。
早希と同類のリツが言う。
「そんなに簡単に、簡単な人間に戻れると思いますか?」「一足す一はゼロみたいな、歪んだ図式で世界を捉えていた人が、常識的な世界に戻るのは、難しいと思います」(P126 )
この話が、世代に関係なく、私のような中途半端なババアにも共感できるのは、早希やリツの本質が、昭和な主婦と変わっていないからだ。
他者に経済的、精神的に依存し、じぶんの境界線をあいまいにし、アイデンティティを他者と重ね合わせて生きている。
痛みの表現はデビュー作『蛇にピアス』をピークとしてマイルド化、ひりひりする痛みを薄め、文学性をキープしたままポピュラーな小説としてこなそうという実験か。
金原ひとみが書く小説であれば、どんな作品であれ、つきあう気持ちでいるが、ファンとしては、表現の過激さではなく、問題と向き合う深さで、さらに突き抜けて欲しい気がする。
紙の本TRIP TRAP
2010/11/27 12:45
旅する純文学、その旅を触媒とした化学変化
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純文学な人が旅をする。これはただごとではない。
海水浴やハワイ、パリ、イタリア、今の日本ではよくある行き先も、ただごとじゃなくなる。
15歳の家出同棲パチンコ屋の寮、ナンパ場としての日本のザ・海水浴場、夫婦で行くベタなハワイや文学的出張のパリ、新生児(4か月)と行くイタリアの田舎町。
旅先のハプニングは、ありがちな出来事と、ありえない特異な出来事、どっちもあり。いずれにせよ、登場人物がまきこまれる事件の衝撃度には関係なく、金原ひとみが毒のある筆で描けばスキャンダラスになる。
旅は触媒となって人に化学変化を起こす。
夫がアロハを着たりボディサーフィンに夢中になったり、言葉の通じない国で食当たりで死ぬ思いをしたり、思うままに生きてきた女が飛行機内でうんこした四か月の赤子を、健気にも、数時間、辛抱強く抱えていたり。
それらの渦中で感じたこと、心境の変化とはどんなものか。
つきはなして観察し、言葉を尽くして描写されるから、生々しい皮膚感覚で伝わってきて、強い印象で残る。
家事育児、超現実的な日常にまみれながらも、こういう毒気のある小説を書き続けられるのが金原ひとみの凄さ。文学を生きている、みたいな。やはりただものではない。
「蛇ピ」で毒気に当てられた読者は、今回の作品はノーマル&ナチュラルすぎるように感じ、これらを先に書いてたらこの人のデビューはあったのだろうかなどと、余計な疑問がわいてくるが、あちこちに毒気は健在で、ある意味ほっとする。
この作家の文章を毛嫌いする人は、作家が仕込んだ文学の毒気にまんまと当てられたってことであり、それが作品が成功してるあかしなのだろう。
これらの旅が完全に消化されたら、どんな虚構が生まれるんだろう。このあとの作品も楽しみ。
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