かゑるさんのレビュー一覧
投稿者:かゑる
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紙の本立川流騒動記
2012/07/02 16:01
抑えても抑えても滲む思い
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亡くなった立川談志師匠が「笑点」大喜利の初代司会者だったなんて、いまや知らない人の方が多い。まあ、かれこれ45年も前になるから当たり前か。
30歳代の談志師匠の高座は、良い時はそりゃあ見事なものだったらしい。この本の著者の談之助さんも、その出来映えに身震いしたそうで、それが亢じてとうとう大学在籍中に談志師匠の下に入門してしまった。ところが、当の師匠はその頃参議院議員でありながら、寄席には出るし、TVには引っ張りだこという大変な人気者だったから、入門した途端にいきなり私設秘書として走り回る羽目になる。
以後、談之助さんは、理不尽この上ない師匠の無茶振りや無理難題に振り回されながらも、談志師匠が亡くなるまでずっと一門にとどまり、その挙動を見つめてきた。この本には、その立場でなければ書き得ない事柄がたくさん詰まっている。
過去を見つめる談之助さんの語り口は、とても冷静だ。誇張を避け、簡潔に事実に沿ってを述べようとする。それは、本書序章の沖縄政務次官辞任騒動から、三遊協会設立と立川流創設という二度にわたる落語協会分裂の経緯を語った第三章、第四章を読めば分かる。おそらく、この三つの事件をこれほど分かりやすく事実に即して書いた読み物は、他にはないんじゃないだろうか。
その冷静な語り口が最後の最後、わずかながら破れてしまう。抑えても抑えても滲み出てしまう、亡き師匠への思い。思慕と言うにはあまりに複雑なそれが、たった1行の感謝の言葉に込められていて、胸が熱くなった。
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