hit4papaさんのレビュー一覧
投稿者:hit4papa
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紙の本死にぞこないの青
2012/10/13 21:17
ビルドゥングスロマンとして
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小学校5年生に進級したマサオは、ちょっと太めの運動オンチ。勉強は中より少しましぐらいだが、大人しくクラスの中では目立たない存在だ。たわいのない話で盛り上がる仲の良い友達がいて、それなりに楽しく過ごしているという、どこにでもいる少年。
マサオの担任の羽田先生は、学校を出たばかりのスポーツマン。さわやかで快活な羽田先生に、4月早々から、マサオやクラスの皆、お母さんたちも信頼を寄せている。
マサオはクラス委員の選考の際、ちょっとした行き違いで、皆から浮いてしまう。ちょうどその頃、羽田先生も、生徒たちから指導のあり方に対して不満の声があがり始めていた。羽田先生は、生徒たちの非難を逸らすため、マサオを徹底的に叱りつけるようになる。全てをマサオのせいにして、クラスの皆に宿題を課したり、居残りをさせたりするのだ。マサオがちゃんとしないから、という理由で。クラスの目はマサオにのみ向けられ、すべての不都合の原因がマサオであるかように振舞われる。生贄の羊だ。
私は、このくだりを読んでいて、総毛立ってしまった。先生という小学生には絶対的な権力者が、ひとりの引っ込み思案の少年を、逃げ道のない孤独に叩き込んでいく。羽田先生は、マサオが上手くできることでは、皆を見て蔑みの笑いを浮かべていたと攻撃する。徐々に、仲の良い友達は去り、クラスの子は冷たい視線を浴びせるようになる。いじめとして明確に伝えることができない恐怖。クラス全体が、ただ、そういう雰囲気になっているだけだ。絶望から自分をクラスの最下層の人間と納得し始めるマサオ。羽田先生から”悪い子だ”と繰り返し宣言させられる。マサオの悲しみが、息苦しさが、私の気持ちを波立たせる。怒りに似た感情で胸がいっぱいになってしまうのだ。
そんなマサオにだけ見える全身青色で傷だらけ、拘束衣を着た少年”アオ”。マサオの屈辱を見守るように現れては消えるアオは、口が縫い付けられているので話をすることができない。自分の運命を諦めかけたマサオ。マサオへもの言いたげなアオ。マサオへの肉体的ないじめが加えられようとしたとき、アオはマサオとひとつになる。そして、アオは、ようやく口を開く。「先生を殺せ」と。 ・・・
マサオはアオの導くまま行動を開始するのだが、はたしてどうなるだろうか。そして、アオとは何もなのか。私はビルデゥングスロマンが大好きで、読了後はいつも甘酸っぱい感傷に浸ってしまう。本作品もビルデゥングスロマンといってよいだろう。ただし、劇薬入りのビルディングスロマンだ。読了後には、甘酸っぱさも、清清しさも残らない。後味がけっして悪いわではないが、目の覚めるような痛烈さで、気持ちがざわめいたままだ。
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