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投稿者:hee
紙の本十字屋敷のピエロ
2017/01/31 05:49
「視点」が魅力の「本格ミステリー」的秀作
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「十字屋敷」と呼ばれる、とあるお屋敷という閉じられた世界において、不幸をもたらすといわれるピエロに絡み、屋敷に住まう武宮家およびその周辺の人物に関わる複数の殺人事件をめぐるミステリー。
東野圭吾氏のミステリーにいくらか接してきていますが、いわゆる「本格ミステリー」的な色合いや雰囲気がただよう作品です。
ワタクシがこの作品から受ける強い印象のひとつが「視点」の巧みさです。
本作は、おおよそ、(1)武宮水穂、(2)場、そして(3)ピエロの人形 ― の3つの視点から語られていると思います。
(2)は、客観的な事実を「場」の目線から語るものとして一般的。
そして、物語のメインストリームをほぼ1.に集約されることで、読み手の感覚が主人公一点に集中され、ブレることなく、また、ある種の一体感や臨場感を増しつつ、物語を追えたように思います。
そして(3)
(1)と(2)だけでは描写しきれない場面や情報を補足する、また、全体の物語に独特の視点や雰囲気を添えるという意味においても、たいへん面白い視点であるなぁと個人的には感じました。
この「視点」の感覚。
今後の読書にもこの感覚を活かして、より深い読みができればと思います。
そしてストーリー。
動機の部分は作者に任せるしかない部分(具体的には、物語後半の謎解きの段階で、あらそうだったの!?的に知らされる部分)はありますが、各種トリックや二重三重に仕掛けられた殺人事件の構造については、すっかり堪能させていただきました。
あと、屋敷の見取り図を掲載いただいているのがとってもありがたいです。
まだまだワタクシの読解力が弱いせいか、文字だけだとイメージしづらいところも多々あるため。
また、怪しさに満ちた人形師の悟浄と人形の、本当の姿とその後の物語も大変興味深いところです。
何か別の物語などに登場しないかなぁ…
いやはや。
かの名准教授の名台詞をお借りするならば、「実に面白い!」作品でした。