さいとうゆうさんのレビュー一覧
投稿者:さいとうゆう
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紙の本ルール
2002/04/21 11:46
死んだらつまらん
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この男たちには「名」がない。
鳴神、姫山、八木沢、和泉…
かつてどのような人生を歩んできたのかもほとんどわからないのと同様に、彼らのフルネームが語られることはない。
左の耳がちぎれていること、九州方言丸出しの話し方、小隊の中では飛びぬけている若さ、肩書き、それ以外に、彼らの同一性を保証するものはない。
軍隊という集団の内部における、個々人の生き様=死に様に焦点を当てつつ、いや、当てれば当てるほど、それぞれの「個」はそれぞれの「型」を浮かび上がらせる。
この作品は、「飢え」にテーマが絞られているようでいて、しかし、武田泰淳『ひかりごけ』や大岡昇平『野火』のように、「倫理」そのものに直面し懊悩する場面はない。それはあたかも、「死人を食うべからず」という通達が、「人の肉は食える」という認識を兵たちの間に呼び起こしたように、「ルール」を意識したときにはすでに、一線は越えられてしまっているのだ。そこには、死体に湧く蛆の群れに白米の幻影を見る男と、その蛆を掻き分け死肉を食む男がいるだけだ。
「ルール」。ルールなきゲームを走り続けること。ゲームの終了が告げられてもなお、ゲームのルールに従いつづけること。
そんなことが、一体誰にできるだろう?
さんざ「コケ」にされてもなお、「死んだらつまらん」と言える男にこそ、人間の矜持はある。
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