しんちゅうさんのレビュー一覧
投稿者:しんちゅう
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紙の本完璧な涙
2000/10/20 05:35
台詞の偉大さ、は、文脈によります。
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街で生きることを拒絶された、感情のない少年が未来と過去の争いに巻き込まれる。未来というものが過去によって規定されるのはおかしい。と、過去から未来が独立しようとして起こる、未来と過去の争いである。そのような争いの中で過去と未来の区別が曖昧になり、それが混ざると、将来に知るはずのことは既に過去において知っていることとなり、過去が未来へ与えるはずの影響、が考慮されなくなる。
人の、世界に対する認識というものが通常以上に意味を持ち、人の現実認識が幾層にも重なり合って形成された世界の中に、未来や過去といった区別は存在しない。各人にとってのみ現在は現在であり、そんな風に未来と過去が混ざり合った現実の中で、世界は発狂する。
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未来や過去までもが重なり合っている、この物語において、時の流れやものの形というものは意味を持たず、あらゆる現実は幻であり、ただ自分の感覚としての時の流れ、自分の経験だけが確かな、現実である。時間の軸は幾方向にも跳び、現在は崩壊し、もうどうしようもないと思われるほどに発散した物語が終盤にいたって一気に収束し、完璧な涙に凝縮されていく様は、あまりにも、美しい。そうやって物語が終わった後に、このいささか叙情的なエピグラフは、はじめて意味を持ちうる。
感情が生じさせた涙は
時間を封じ込んだ水球
紙の本戦闘妖精・雪風
2000/09/14 04:03
エピグラフが心に残る。
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正体不明の異星体「ジャム」と戦う、地球防衛軍・フェアリイ空軍(FAF)。FAFはジャムを地球への通路手前側、フェアリイ星に押しとどめることに成功している。
FAF内に存在する、ジャムとの戦闘に勝利するために戦闘情報を持ち帰る組織、特殊戦。至上命令は「帰投すること」。味方の戦闘状況を遙か上方から見守り、状況次第では味方を見殺しにすることすら厭わない、ブーメラン部隊、特殊戦の深井零少佐と、その戦闘偵察機、雪風。両者の、言葉ではとられることのない意志疎通、人と機械との間柄が非常に微妙なところをついて描かれている。
華々しい戦闘機乗りだけでなく裏方にも焦点を当てている様、や、戦闘機の細かな描写、さらに、ジャムの存在を疑う地球の人々とFAFとの関係。…うまいです。
続編は星雲賞受賞作『グッドラック』。
紙の本僕を殺した女
2000/10/18 02:12
帯の疑問符は正しい。
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何がわからないといって、読み終わったはずなのになにか読み終わってない感じがなぜなのかよくわからない。設定自体は非常に単純で、ある朝起きてみたら自分が別人になって性別も変わっていた。ついでに5年後の世界にきていた。だから自分探しの旅に出るぜわはははは。なのであるが、何かのきっかけで誰かと入れ替わっていたことがわかって、結局すったもんだで元通り、なんておとしたりはしない。SFじゃないんだと言及されたりもする。ややこしい。
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例えばこんなもの。
僕は僕である。彼は彼である。
僕は彼である。彼は僕である。
あたりでやめておけばわからなくならなかったのかも知れないのに
僕は僕であり、彼も僕である?とか、その逆?とか
実は男?とか、女?
とかがでてくる。挙げ句作中でそのことに自覚的である事に言及されたりする。
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ジャンル分けすることにより生ずる一定の枠組みを見ながら、あたかもそれが見えていないように軽く飛び越える。ミステリーだから、という類推が利かない。類推は既に作者に想像されて記述されている。そして類推の利かないあたりを突いて軽く飛び越えられてしまう。在り方としては非常に正しい、という気もする。
異様な飛躍をしたように見せながら、そのくせ、現実的に可能でありそうな範囲内におさめられている。このあたりが重要である。納得できる説明がなされてしまう。納得しつつ読み進めて、一つ一つの事象は理解できていても全体としてなんだか全然わかった気になれない。こんな事書いても、書いてる本人が何も語られないことに気がついて愕然としたりしている。混乱の本質はそこにはないらしい。
結局の所、なんだかよくわからない。
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