すりいぴいさんのレビュー一覧
投稿者:すりいぴい
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紙の本リセット
2000/11/30 00:55
誰も書かなかった「ほんとうのこと」
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たとえば、こんな経験はないだろうか。
少年による殺人事件のニュースを見て、
説明のつかない胸さわぎが起こる。
少女による援助交際の話題にふれ、
自分のことのようにやりきれない気持ちになる。
自分とは年齢も境遇もちがう、
まったくの他人のことであるにもかかわらず。
この物語にも、そんな少年少女たちが出てくる。
パンツを売る少女、菜々。
クスリに溺れる桃子。
ストーキング行為をくりかえし、殺人未遂事件を起こす雅也。
砂丘で殺されそうになる夢を見続けるしおり。
そして、彼らの周辺にいる父親や母親、教師たちも、
「ふつう」に暮らしているようで、実は、
静かで不気味な狂気に身を浸している。
部屋に引きこもる雅也の母親は、息子に命令されるままに、
四つん這いになってアイスクリームをなめたりする。
さまざまな「性」とさまざまな親子の姿が
切なく痛々しくもある。
神戸の少年Aが逮捕されて3年の歳月が流れた。
今、同世代の若者に、何が起こっているのだろうか。
そして、その周辺では。
「なぜ人を殺してはいけないのか」という問いは、
どこへ封じ込められてしまったのだろう。
答えはすべて、この本の中に書かれている。
誰もが知らずに意識の奥に抑え込んでしまった「ほんとうのこと」。
めくるめくスピード感が爽快の一冊である。
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