ポンさんさんのレビュー一覧
投稿者:ポンさん
紙の本新編銀河鉄道の夜
2001/03/30 17:40
夜空の神秘を追体験☆
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この本には銀河鉄道の夜はもちろんのこと、夜空の星々をテーマとした童話がほかにも多く収録されている。この本を読んでから、夜空を見上げる度になんだか切なくて優しい気持ちになれる気がする。
宮澤賢治の織り成す幻想の世界は、大人になってからでも十分に楽しめる。というのも、幻想のなかにも現実的な内容が盛り込まれているからだ。
例えば、『銀河鉄道の夜』では、賢治がこの作品を手がけていたころに起こった、タイタニック号の沈没の話や、また当時世間をにぎわせていた天文学や宇宙論の新たな発見についても、作品のなかで生かされている。
こうして、現実と幻想の中に放り込まれた主人公ジョバンニの旅を追体験することで、夜空には神秘が果てしなく溢れていることを感じずにはいられなくなる。
紙の本三島由紀夫レター教室
2001/02/28 15:16
ラブレターや脅迫状の書き方ご存知ですか?
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この小説は、三島由紀夫が本当に書いたんだろうか?と首をかしげるほど、異色の作品である。実際、この作品は、女性週刊誌に連載されていたというから、三島の他の作品とは明らかに一線を画している。登場人物は、20歳から45歳までの5人の男女。彼らの間で交わされる手紙を通じて、三島由紀夫は人の心をゆすぶる手紙の書き方を読者に伝授する。その内容は様々。恋の告白、借金の催促、脅迫状などなど、人生で遭遇する問題に真っ向から、分かりやすい文体でユーモアを交えて実践的な解決法を提示してくれている。
紙の本日本アパッチ族
2001/11/14 16:47
鉄は美味しい?
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小松左京といえば『日本沈没』が有名だが、この『日本アパッチ族』は、もっと知名度があがってもいい作品だろう。
鉄を食べる「アパッチ族」は、「鋼鉄化」し、銃弾をはねのけるほど強靭な身体と冷徹な精神でもって、国家権力に立ち向かう。奇想天外なストーリーの背景には、1960年代の社会状況に対する風刺の眼差しが大いに感じられる。それは、SF小説と風刺小説は表裏一体の関係にあるからであろう。また、「鉄」に関する小松左京の博学ぶりには驚かされる。「鉄食」をめぐる描写を読んだとき、文系頭の私は、現実と非現実の境界を見分けられなかった。
紙の本個人的な体験
2001/08/08 01:12
手に汗にぎる緊迫感
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頭が二つある赤ん坊の父親となった鳥(バード)の苦悩の日々を綴った作品。大江の文章は読みにくいことで定評があるが、それにもかかわらず、この作品は一気に読ませる威力がある。バードが赤ん坊を死に追いやろうとするクライマックスは、手に汗にぎる緊迫感で、胸が高鳴った。
ただ、大江も弁明しているとおり、結末に不満が残る。クライマックスが来るやいなや、あっけない幕切れがやってきてしまうのは、肩透かしをくらった気がして残念だった。
紙の本性的人間 改版
2001/03/31 15:30
反社会的小説の頂点
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小説の前半部分は、乱交パーティー、後半部分は、電車内での痴漢の話。いずれも反社会的でタブーとされるテーマだけに、緊張と不安で手に汗にぎる独特の雰囲気が小説全体にみなぎっている。反社会的小説の頂点に立つ作品と言ってもいいかもしれない。
登場人物のそれぞれの性のあり方が、あからさまに全面に押し出されている点が衝撃的である。社会的生活において、自らの内部に必死に閉じ込めている性を、尋常でない舞台設定のもとで描き出した大江は、今さらいうまでもないが、すごい作家だと思う。
紙の本「夢ノート」のつくりかた あなたの願いが、きっとかなう
2001/11/18 13:19
夢実現への旅
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「本当は〜になりたかったんだけど」と思っている人は多いはず。所詮、夢は夢でしか終わらないし…、と自分の夢を握りつぶしてしないだろうか。この本は、筆者の体験に即しながら、かなり具体的に夢実現までの方法を語ってくれている。もちろんそれは、読者ひとりひとりにとっても応用できる魅力的な方法だ。私もさっそく夢ノートつくりに励もう! と勇気づけられる一冊。
紙の本ノルウェイの森 上
2001/08/10 13:38
生のうちに潜む死
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「死は生の対極にあるのではなく、我々の生のうちに潜んでいるのだ」
この世界で死に直面するのは、死を経験する死者ではなく、生身の人間であり、その哀しみも死者とは共有できない。これは当たり前のことだが、小説を読み進めるうちに、主人公を襲う哀しみに涙が止まらなくなった。
紙の本生半可な学者
2001/03/09 15:02
生半可な学者とは言わせない!
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現代アメリカ文学の翻訳で知られている東大の柴田元幸先生だからこそ、こんなに楽しくって、それでいてとてもためになるエッセイを書けるのでしょう。
英語に関するエッセイが多いのですが、どれも気負い無くすらすらと読めてしまうのは、柴田先生のなせる業なのです。
この本を読めば、あなたも柴田元幸ファンになること、間違いなし!
2001/02/23 15:42
悪魔による痛快コメディー
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1920年代のモスクワに突如として現われた悪魔たちが、奇想天外な事件を次々と起こしていく痛快コメディー。私たち読者は、饒舌かつ滑稽な語り手の虜となってしまうことでしょう。ちょっぴり残酷な笑いを求めている方には必読です。
それだけじゃない!小説の構成が面白いんです!
イエス・キリストが処刑された2000年前のエルサレムが、20世紀のモスクワとパラレルワールドとなっていて、まるでタイムマシンに乗って旅をするかのように、モスクワからエルサレム、またエルサレムからモスクワへの旅をいざなってくれるのです。
悪魔たちが、いかに逆境の極みにある主人公の巨匠とマルガリータを救出できるか?!それは、下巻を読み終えるまでのお楽しみです。
紙の本ローワンと魔法の地図
2003/07/09 14:20
本当の勇気とは
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冒険小説というと、とかく勇敢な人物が主人公になりがちだが、この物語の主人公は、心は優しいけれど、ひ弱で臆病者の少年が「もっとも勇敢な心」の持ち主として活躍する。
一見、矛盾しているように思われるが、実は違う。「怖がりながら先へ進む。それが本当の勇気である」という登場人物の言葉が印象的だ。強い人間などありえない、弱いからこそ人間であり、そうした弱さと戦うことが、本当の「勇気」であるということだろう。
ファンタジーに満ちた物語のなかに、人間の真実がちりばめられた秀作だと思う。
紙の本痴人の愛 改版
2001/03/24 13:22
わかっているけどやめられない…
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13歳年下の悪女ナオミに、主人公譲治は、まんまと騙され、翻弄される。そして、ついには身の破滅も免れないほどに堕ちていくことを自ら知りながらも、彼女の愛欲の奴隷となり屈服していく…。この話の筋はあまりにも有名だが、話の筋だけ聞いた限りでは、誰もが、譲治ってバカだよな、と思うのではないだろうか。
しかし、実際読んでみると、それは安易な感想に過ぎなかったことが分かるはずだ。わかっているけれどやめられない…。理性に従おうとしながら、ついに抗いがたい力に屈する譲治の苦悶は、です、ます調で語られる。また、読者への呼びかけが頻繁に用いられることによって、こうした葛藤は私たちにも決して無縁なものではないことが示唆されていると言えるだろう。
紙の本死者の奢り・飼育 改版
2001/03/24 12:24
強烈すぎる作品
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『死者の奢り』は冒頭から強烈だ。
「死者たちは、濃褐色の液に浸かって、腕を絡みあい、頭を押しつけあって、ぎっしり浮かび、また半ば沈みかかっている。…死者たちは厚ぼったく重い声で囁きつづけ、それらの数々の声は交じり合って聞き取りにくい。…」
死体処理のアルバイトという非日常的な設定もさることながら、水槽に浮かぶ死者たちの不気味な存在感を読者に強烈にアピールする大江の日本語に脱帽。一度読んだら、一生忘れられない本。
紙の本普及版世界文学全集第Ⅱ期
2001/02/25 20:12
これぞパスティーシュの名人のなせる業!
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パスティーシュの大家である清水義範が、19世紀と20世紀の世界文学を容赦なくパロディー化した清水版文学全集。例えば、『ファウスト』。メフィストフェレスは、なんと名古屋弁で、ファウストを誘惑してしまうのだ。不思議なことに違和感がまったくない。翻訳は必ずしも標準語でやることもないのではないか、と巷に氾濫する真面目な翻訳の外国文学を横目に見ながら、切に思う。
他に、『三銃士』や『白鯨』、『罪と罰』、『ボヴァリー夫人』『変身』、『異邦人』などのパロディーが収録されている。清水義範曰く、「原典を読んでいない人にもとりあえず面白く、読んでいる人にはそれなりに面白く書いたつもりである。」私も、いくつかの作品の原典を読んだことはない読者の一人であったが、十分楽しいパロディー集だった。また、文学の楽しみ方としては反則かもしれないけれど、清水のパロディーを読んでから、原典に立ち返るというのもやってみる価値がある。それはそれで、また一味違った面白さがあるのではないだろうか。
紙の本狂人日記 他2篇
2001/02/23 14:32
抱腹絶倒のロシア文学
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ロシア文学って、暗いイメージありませんか?ところがどっこい、ゴーゴリの『狂人日記』は、抱腹絶倒間違いなしの傑作です!
あなたも一緒にゴーゴリが巻きおこす笑いの渦に飲み込まれてみませんか?
紙の本タイム・マシン 他九篇
2001/03/31 16:27
未来は明るいか?
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タイムマシンが実在したら、と誰もが一度は空想に耽ったことはあるはず。理論的には可能らしいから、いずれその夢は実現するし、未来は確実に身近なものとなるだろう。でも、『タイム・マシン』を読んでからは、そんな空想は短絡的にすぎないことを痛感するようになった。
このSF小説で描かれる未来は、文明が発展し尽くした先にやってくるアンチユートピアの世界だ。モーロックという地下に潜む恐ろしい生物が登場し、地上人エロイはなすすべを持たない。楽観的に未来を描くことなどできない、世界は終末に向かって滅びるに違いない、という悲観的な主張が、作家ウエルズのメッセージであろう。
「文明の増大は愚かさの増大にすぎず、やがて反動的に人類を破滅させるだろうと彼は言うのだ。そうだとすれば、私たちはそうでないふりをして生きて行くしかない」という小説内の言葉は、現代文明に翳りが射し始めた21世紀に生きる我々の心にも、切実に響くものとなっている。